001 修行編1 白い部屋
10話投稿2話目です。
僕の狼狽ぶりとは打って変わって男の声は淡々と言葉を続ける。
『では、そちらに参りますので、しばらくお待ちください』
僕は先程の言葉を思い出して反芻する。
宇宙人による誘拐だとすると、こちらに向かって来るのは宇宙人であるはず。
「やばい、グレイか? タコ型か? 実験動物にされてしまうんだろうか?」
妄想が激しくなり半パニックになる。
しばらくすると白い壁に縦に亀裂が走り、横にスライドして出入口が開く。
アニメやSF映画のシュッと開く宇宙船のドアのようだ。
その開口部から現れたのは人型。金髪碧眼の王子様のような容貌のイケメンで、王族や貴族が着るような装飾てんこ盛りの第一種軍装とも見える白い軍服を着ている。
(まるっきり王子様じゃないか! しかも人間? いや王子型宇宙人かも)
アホなことを考えていると王子が口を開いた。
「初めまして。ここの責任者のゲーマー名プリンスです」
白い歯がキラリと光る会心の笑顔だった。
「まんまやないか!」
僕は突っ込まずにはいられなかった。
プリンスは慣れているのか笑ってスルー。
床からせり出した椅子に座ると経緯の説明を始めた。
「SFCクリア者でSFO参加を表明された方は、ネットによりもたらされたDNAとプレイログを審査され合否が判定されます。
そこで選ばれた方のみが転移でここに召喚されるのです。
その際に転移酔いが発生するため、この部屋で休んでいただいたという次第です。
転移酔いは二度目以降は軽くなり意識を失うということはもう無いと思います。
ようこそSFOへ。八重樫さんをSFOのプロゲーマーとして歓迎いたします」
つまりプロゲーマーになれるということは間違いないようだ。
ただ問題のひっかかる部分を聞いてみる。
「少し質問してもいいかな。宇宙人とアブダクションがわからないんだけど」
プリンスはうんうんと頷き説明する。
「アブダクションは転移で連れてきたことを指します。
ここの施設を見たり説明を受けることで翻意される方も居られまして、そういった方は記憶を消して家に戻しているのです。
その方にとって消えた数時間はアブダクションとなるわけです。
お気づきの事と思いますが、この転移は現在の地球では実現不可能な技術です。
プレイに使用する宇宙戦艦も文明の進んだ地球外生物でなければ用意できません。
我々は宇宙戦艦の性能強化のため、地球人ゲーマーに宇宙戦艦を預け育ててもらうことを目的としています。
だから高額なギャラが出るのです。もちろん守秘義務契約は結んでもらいます。違反者は処…ゲホンゲホン記憶消去のうえ資産没収です」
何か危ないことを言いかけたが黙っておこう。
「つまりSFOというゲームは宇宙人の技術によるリアル宇宙戦艦を使った模擬戦闘であって、VRMMOなんかじゃなかったということか。
ゲーマーは宇宙戦艦を育てることでギャラが発生する。つまり、放映権という話は嘘だった?」
僕はプリンスの目を見据えて返答を促す。
「いいえ、放映権販売による収入も副次的に発生します。育成が苦手な人や自己顕示欲が強い人はそちらで収入を得るのです。
育成は結果を公表する手段がありませんが、放映権は地球で有名になるチャンスですから。
そして模擬戦闘は仮想空間でデータにより行われます」
「じゃあ、リアル宇宙戦艦は何に使うんだ?」
「敵艦の迎撃戦です。他にもデブリ採取の仕事があり、成果の回収物を売ることで収入を得ます。これが最も多額な収入となるでしょう」
そういえばプロゲーマーのくせに姉貴のプレイ映像を見たことが無かったな。
姉貴は育成や戦闘で稼いでいたのか。苦労かけてごめんな姉貴。
「ん? ということはプロゲーマーって地球に帰れるのか! 異世界転移だと行ったきりが定番だろ」
「はい。あくまでもSFOはVRMMOゲームであるというスタンスを崩さず、守秘義務を守っていただければ行き来は自由です。
契約が終われば、この転移の腕輪を嵌めてもらいます」
プリンスが腕に嵌められた金属製の腕輪をポンポンと叩く。
「この腕輪でステーションと自宅間を自由に転移出来ます。
ちなみに、このステーションは太陽系アステロイドベルト軌道の内縁にあります。
時空間的に疑いようのない完全な地球圏です。なので定義上異世界ではありません」
おそらく通信装置で位置情報を伝えステーションの転移装置で転移させる仕組みだろう。
スタート◯ックの転送装置と同じような感じか。
しかも火星軌道より外とか無茶な距離だ。光速を超えるヤバイ技術てんこ盛りだろう。
もしあの腕輪に転移装置が入っていたら、事故で壊れた時にどんな被害が出るかわからない。
他にも会話を拾って守秘義務違反を監視するぐらいはしているだろう。
軍事大国に腕輪を売ろうとする奴も出かねないからね。
僕の心は固まった。契約して金を稼いで高校にも通えるなら、こんなに良いバイトは他にはない。
姉貴の収入を考えると入学金ぐらいなら1ヶ月しないで稼げるだろう。
借金返済に結構な額を払っていると言っていたし。
「わかった。契約する」
「そう言ってくれると思っていました」
プリンスが渾身の笑みを溢れさせる。
(イケメンはずるいな)
契約書が用意され一応全てに目を通す。
契約書には盲判を押すなと姉貴から口を酸っぱくして言われてるからね。
姉貴の苦労はそれ絡みらしいし。
参加条件、ギャラのこと、修理補給のこと、その他オプションの追加報酬など、どこからどう見ても悪い契約じゃない。
僕は迷わずサインをした。
だが、そのサインを見てプリンスが怪訝な顔をする。
「失礼ですが、八重樫花蓮さんではないのですか?」
「はい? 八重樫晶羅だけど? 花蓮は姉貴だ」
「ちょっと待っていて下さい!」
慌ててプリンスが退出する。
しばらくして焦ったプリンスが戻ってきた。
「申し訳ありません。手違いがあったようでアカウントのDNAが花蓮さんで登録されています。
晶羅さんでは登録出来ない可能性があります」
困惑するプリンスに僕は説明する。
「いやDNAはほぼ同じだから。姉貴と僕は同じDNAの双子だ。
僕の方にはY遺伝子があって9歳年下だけどな。
そもそも姉貴はここでプロゲーマーをしているはずだぞ。
同じ人間が二重登録するわけないだろ」
ああ、嫌なことを思い出してしまった。
あの壮絶なバッシングは幼い心にも響いたな。
僕は遺伝子実験の化け物じゃないぞ。姉貴共々辛い逃亡生活だった。
そこで僕は大事なことを思い出した。
「そうだ、姉貴に連絡をとって入学金振り込めって言ってくれないか?
高校を退学になる危機なんだよ」
プリンスは怪訝な表情を見せたが、僕の説明を理解したようで、DNAの再提出を求めてきた。
「申し訳ありませんが、DNAを提供していただけますか?」
そう言うと腕輪の通信機能を使って助手を呼んだ。
壁がシュッと空き女性が採取キットを片手に入ってくる。
「こちらは助手のGNミーナです。彼女に晶羅さんのDNAを採取してもらいます」
僕はミーナの猫耳に驚く。ピコピコと動いていて本物だとわかる。
ミーナは外観は人と全く同じ美少女で、肩で揃えたショートの白髮に蒼い目をしている。
胸は大きくも小さくもない普通だが、スタイルは程よく筋肉質でバランスがとれている。
白色の三角の耳が頭の上に立っていて、お尻からは長い同色の尻尾が揺れている。
露出している肌は毛深くなく普通の人類と同じ感じで、耳と尻尾だけ白い毛に覆われている。
服装は軍服よりのデザインで長袖ミニ。オリーブ色で材質はスペースジャケットみたいな光沢のある感じだ。
ガン◯ムのジ◯ン軍制服(女性用)みたいと言えばわかりやすいだろうか。
獣人。いやネコ型宇宙人か!
僕はポカンと口を開けてしまっていた。
「ミーニャにゃ。口を開けるにゃ。ってもう開けてるにゃ」
ミーナの腕が素早く動き僕の口腔内に綿棒を突っこむと頬の内側を軽くこする。
「終わりにゃ」
ミーナの早業でDNA採取が終わる。
「では、再検査させていただきます。しばらくお待ち下さい」
プリンスがミーナを連れまた退出する。
小一時間待つとプリンスが恐縮した顔で現れた。ミーナも連れている。
「システムのチェックミスです。確かに晶羅さんのDNAでアカウントが登録されていました。
男性遺伝子以外は全く同じという珍しいケースでシステムが誤認していたようです。
他にも気になることはありますが、個人情報ということで詮索はいたしません。
話は変わって花蓮さんですが、現在ゲートを通って他星系に行っているようで、伝令の連絡艦を送りましたので後ほど連絡がつくと思います」
プリンスから腕輪を受け取り機能説明をうける、
「専用艦は晶羅さんのDNAによりカスタマイズされます。
そのため専用艦の竣工までには7日ほどかかりますので、竣工しましたら腕輪の通信機能で連絡いたします。
それまでは地球に転移で戻るなり、ギルドで艦をレンタルして仕事をするなり自由です。
ミーナに案内をさせますのでステーション内を見学するといいでしょう。
それではこれにて契約成立です。頑張ってください」
そう言うとプリンスは慌ただしく駆けて行った。
「さて、どうするか……」
とりあえずステーションの見学とギルドに案内してもらおう。
ギルドといえば掲示板に仕事を張り出して斡旋しているお約束の所だ。
「なんか楽しくなって来たな」
DNAが同じで性別が違う9歳差の双子。
おかしいことを言ってますが、あんな技術やこんな技術がというお話はもう少し先で。
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