167 自由浮遊惑星編9 外殻侵入
side:ニビル外殻構造物 (アキラ)
『それでは、宇宙港へ誘導しますので、そのまま進入してください』
ニビルの表面に明かりが灯ると大きな円を描いていく。
地球の直径の8倍もある球体であるニビルの表面に、しっかり円として描かれて見えるということは、あの円一つで月ぐらいの大きさがあるのだろう。
その中心が宇宙港の入り口なのだろう。
僕は宇宙空間から円の中心を拡大して観察する。
するとそこには宇宙港の入り口と思われる開口部があり、そこから誘導のレーザーが発信されていた。
僕は専用艦をその二条のレーザーの間に入るようにコースを取らせ進めて行った。
そこには宇宙港というより巨大な通路とでも言うような空間が待ち受けていた。
どうやら空気は無さそうだ。
「あ、拙い。パイロットスーツを着てなかったんだ。どうやって上陸しようか?」
1200年も隔絶した文明同士が接触するからにはお互い検疫をしないと致命的な病気をうつされてしまう可能性がある。
それを防ぐには安全が確認されるまでは防疫服、いやここなら宇宙服を着て接触するべきだ。
しばし僕が思案しているとまた通信が届いた。
『外部扉が閉まると内部扉が開きます。そのまま外殻の裏側を航行し北極点真上の制御エリアにお越しください』
通信の通り、外部扉が閉まると内部扉が開き出した。
その先には1つの惑星が収められていた。
やはり惑星を中心にしたダイソン球なんだ。
おそらく惑星で銀河を旅するために惑星ごと運ぶための外殻構造物なのだろう。
惑星はほぼ地球サイズ。外殻との間に空間を持たせるため外殻部の直径が8倍になっているのだろう。
その惑星と外殻の隙間を航行しろということらしい。
僕は専用艦を外殻の厚みである数百km進め外殻内部に進入する。
そして外殻に添って航行し北極点真上つまり惑星の自転軸の北天方向の外殻を目指す。
なるほど、最重要設備には外から直接行けないようになっているんだな。
それにしても、惑星1個あれば10億人ぐらいの食料は生産できるだろうに。
なぜコールドスリープに入ったのか? なぜ食糧援助が必要なのか?
何かあったとしか思えない。
そんなことを考えながら進むと専用艦は北極点真上に到着した。
『到着した。どうすればいい?』
『外殻の格納扉を開けます。そちらに着陸して下さい。
こちらの制御室にご案内します。そこで制御端末を操作していただきます』
外殻を見ていると、侵入経路を示すラインが描かれていく。
その侵入経路に添って専用艦を進めると人工重力を感じた。
慌てて艦の上下を入れ替えるべくロールをする。
そのまま誘導に従い、外殻に開いた格納庫へと僕は専用艦を着陸させた。
「それにしても、制御端末を直接操作しなければならないのか?
検疫の問題もあるし、あまり相手のテリトリーで生身は晒したくないんだけどな」
検疫も出来てない所に生身で乗り込むのは遠慮したい。
もしニビルの民がコールドスリープに入った原因が疫病なら、そこに生身は晒すのは自殺行為だ。
なんとかならないものか。
僕の専用艦に向かって格納庫のあちこちからケーブルや乗降チューブが伸びてくる。
さすが同一技術の末裔。1200年経っても互換性があるようだ。
「ん? ケーブル? そうかネットワークも互換性があるはず!
現帝国にネットワーク技術が残っているということは、ニビルにも残っているはずだ」
僕は専用艦の電脳を通じてニビルの有線ネットワークに侵入を開始した。
ニビルのネットワークのセキュリティは現帝国が使っているものとほとんど違わなかった。
権限レベルが設定されていて、その権限を持たない者は操作出来ないという基本は同じ。
ただし、その権限レベルを設定したのが1200年前なのだ。
つまり同じシステムでもクローズド環境で使い続けられたネットワークは、外部から新たに権限を持つ人間がアクセスしても、その権限を持っているという情報を得ていないのでアクセス出来ないということだ。
だから端末を直接操作しなければならないのか……。
『こちらは緊急発進で宇宙服が無い。検疫も無いまま生身を晒せないので上陸出来ない。
端末操作ではなく、ネットワークからの操作を試みたい。
そちらのアクセス権限をお借りしたいんだけど無理ですか?』
『権限? わかりません。操作方法は失伝してしまっているので……』
なんということだ。
端末操作すら出来ないからコールドスリープの解凍を止められないんだ。
『わかりました。強制介入してもいいですか?』
『よくわかりませんが、同胞の命が救えるのならお願いします』
よし言質はとった。
「提督コマンド、最上位命令発動! ナーブクラック、権限掌握!」
僕はネットワークを通じて奥の手を使ってみた。
『皇帝陛下による提督コマンドを確認。ニビル制御電脳は陛下の指揮下に入ります。ご命令を』
ネットワークを通じてニビルの制御電脳から返事が来た。
ん? 何か変なことを言ったぞ?
まあいいや。皇帝の因子が何かに作用したんだろう。
僕はネットワーク経由で命令を発する。
星の守り人達を間に入れても話が通じそうもないからね。
『コールドスリープ解凍中止。解凍シーケンス中の者は再凍結だ』
『命令を受領しました。コールスリープ解凍中止。再凍結開始します』
「ふ~。なんとかなったか」
それにしても星の守り人達が歳月を経て全く機能していない感じだ。
これは星の守り人達よりニビル制御電脳に経緯を聞いた方が早いな。
『コールドスリープに至る経緯を報告してくれ。そして食料生産事情も頼む』
『了解しました。民がコールドスリープに入ったのは……』
ニビルの制御電脳が語り始めた話に僕は愕然とした。
「(ニビルの)乗員」を「(ニビルの)民」に変更しました。