162 自由浮遊惑星編4 自由浮遊惑星
side:帝都 (カイル)
自由浮遊惑星接近の報告が皇帝の所まで上がって来るのに3日かかっていた。
と言っても皇帝陛下が直接報告書を目にするわけではない。
皇帝が療養中で宰相亡き後、事実上の執政官となっている皇帝代理の所に書類が回って来たにすぎない。
カイルは首を傾げる。
このような自然現象の報告が、どうして此処に来ているのか?
皆がそう思ったが故に此処に上がるまで3日もかかったのだが。
その間に追加報告が入り、報告書を厚くしていた。
カイルは訝しがりながら報告書に目を通した。
報告書の内容はおおまかに言えば次の通り。
次元レーダーにより自由浮遊惑星つまり周回する恒星を持たず単独で存在する惑星を発見した。
自由浮遊惑星は次元跳躍を使わずに光速を越える速度で移動している。
そのような速度で動く惑星など存在し得ない。
コースはまだ未確定だが帝国本星に向かって来る可能性あり。
戦艦を次元跳躍させて先回りでコースを観測しようとしたが、速すぎて実像が捉えられなかった。
次元レーダーのトレース結果によると自由浮遊惑星は帝国本星に向かって来ている。
自由浮遊惑星が帝国本星系外縁に到着。
速度を落としたため、やっと外観を光学観測出来た。
速度を落とすという行動により何らかの知的生命体の関与が疑われる。
ニアヒューム反応は無し。
「ここに至って報告を止めていた担当者も皇帝陛下に判断を丸投げして来たということか」
これは困った。相手が文明人でこちらに用がなければ目立たないようにするかコースを変えていただろう。
つまりこちらの星系に用事があるということだ。
もし相手が文明人なら星系に進入する前になんらかの連絡を寄越すだろう。
連絡もなく進入するならそれは敵対行動だ。
それが判らないほどの文明が光速を越える速度で惑星を動かすことなど出来はしないだろう。
とにかく相手を刺激しないように防衛戦力を配備しなければならない。
尤も帝都の防衛戦力は要塞艦200以上、宇宙艦は総数400万艦は配備されている。
ニアヒューム対策で地方に派遣されている艦を含めれば要塞艦500、宇宙艦総数1000万艦は越えるだろう。
貴族の領軍を加えればあと2割は増えるだろう。
「問題は失われた3日か。派遣軍を呼び戻すのには最低1週間はかかる。
今直ぐ呼べるのはアキラぐらいのものか。
100万殺しならアキラ1艦で25%もの戦力アップになるな」
カイルはアキラに緊急招集をかけるのだった。
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side;エリュシオン星系軌道上要塞衛星内アキラ邸 (アキラ)
『緊急招集?』
カイルからの通信に出ると開口一番帝都への緊急招集命令を受けた。
『ちょっと微妙な案件があってね。協力してくれ。良くて外交交渉、悪くて戦争だ』
カイルが不穏な事を言う。
『お兄様。私と旦那様の団欒を邪魔するつもりですか?』
実は緊急だというのでカイルからの通信はリビングで受けていた。
極秘の話なら電脳空間の極秘会議室に呼ばれると思ったからでもある。
なので横でしっかりステフが聞いていたのだ。
『ステフ、そんなつもりではない。帝国の危機なのだ。わかってくれ』
カイルも実妹からの抗議に慌てている。
確かにステフが嫁いで来てから初めての2人の時間かもしれない。
それぐらい僕は帝国のために働いていた。
『では、私も同行してよろしいですわね?』
ステフが我儘を言い出した。
だがそれは駄目だ。カイルは最悪戦争だと言った。
彼女を巻き込む訳にはいかない。
僕は彼女を説得するべく口を開いた。
「ステフ、でも「「「私達も同じよ!」」」」
そこには目を釣り上げた獣人嫁ーずの姿があった。
「やっと一緒にいられるのに」「私達だって旦那様を助けたい!」
ああ、これは絶対引いてくれないパターンだ。
どうする。彼女達の安全もはかって緊急招集に答える方法は……。
「わかった。この新型要塞衛星で向かおう。これなら次元跳躍加速装置を実験搭載してある」
この新型要塞衛星なら防御力も戦闘力も高い。そして4万艦の艦隊を収納している。
対消滅反応炉を複数搭載しているから、いざとなれば待ち時間もなく次元跳躍で逃げられる。
エリュシオン星系防衛の切り札だったから、あまり見せたくなかったんだけど仕方がない。
『カイル、要塞衛星で向かう。これが落ちるようなら帝都も落ちるだろう。
まあ、平和的な会談で終わることを祈るよ』
『すまないな。アキラ』
「次元跳躍準備! 目標帝都。次元跳躍開始!」
僕はみんなを巻き込んで帝都へ次元跳躍した。
この時は、まさか相手が自由浮遊惑星だとは思ってなかった。
ロレンツォは途中で情報をインターセプトしてました。
何気に優秀な情報網を持ってます。