157 帝国内乱編15 後始末
side:アキラ
みんなの所へ帰ると、僕は各所へ通信を送り戦闘の後始末の協力を要請することにした。
また通信中に攻撃されるなどという失態を犯さないために、電脳に警戒と自動迎撃を任せる。
まずはクロウニー星系の残敵を掃討する。
『ロレンツォ、アキラだ。この星系の残敵掃討は任せていいかい?』
『任せろ。無人艦が手に入ったから戦力も充分にある。
ただしニアヒュームだけは抑えておいて欲しい』
ロレンツォの言うことももっともだ。
今はニアヒュームを無力化出来ているから優勢になっているだけだ。
それが解除されれば、また劣勢になってもおかしくない。
『そこは菜穂さんのジャミングに任せて大丈夫だよね?』
『ええ、ニアヒュームの妨害は任せて。けれど先のことは考えて欲しいわね』
『そうだね。何らかの手段をクロウニー星系に残すか、ニアヒュームをどうにかするように考えるよ』
僕は無力化したニアヒュームの今後の処遇を思案した。
ニアヒュームは集合意識として何らかの通信手段で繋がっている。
その繋がりを電子・量子・次元通信を妨害することで無力化することが出来ている。
となると次元格納庫に格納することで外界と遮断すれば、少なくとも他にいる上位の命令権限を持つニアヒュームからは隔離することが出来るはずだ。
次元格納庫内に隔離してジャミングが出来ればどうにか出来るかもしれない。
実際、真・帝国にいるニアヒュームは有機アンドロイドの脳殻に格納して外部と遮断して生活させている。
外部との繋がりは有機的な五感に頼るしかなくなっている。
不思議なことに集合意識から遮断されたニアヒュームには個性が育っているらしい。
『無力化したニアヒュームの対策はカイルも巻き込むしかないね。
大掛かりすぎて僕の手には余る。ただし、菜穂さんの手を煩わせるのは早急に終わらせたい。
菜穂さんの専用艦と同等のジャミング機能を持つ艦を用意しよう』
僕はこの際彼女の招集を決意した。
『助けて! 工場母艦!』
アノイ星系からエリュシオン星系に移っていた工場母艦に僕は次元通信を送った。
さすがに工場母艦が直接次元跳躍して来ても到着まで時間がかかるので、別の用事を済ませておこう。
『これから僕はカイルと会議を行う。
電脳は自動迎撃態勢に入れ。ブラッシュリップスのみんなも護衛よろしくね』
『わかったわ』『ん』『りょーかい』『オッケー』『任せて』
『カイルへ、極秘会議室で待ってる』
みんなが居るのがこんなに安心出来るなんて、なんか嬉しいな。
さてと。あんまり親しい人には聞かせたくない話をしてこようか。
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side:電脳空間極秘会議室(アキラ、カイル)
「カイル、居る?」
僕のアバターが電脳空間の極秘会議室の防壁を越える。
そこにはカイルのアバターが待っていた。
「アキラ、無事でなによりだ」
「あはは、僕も死んだかと思ったよ」
とても嬉しそうに言うカイルに僕は苦笑いで答える。
それもつかの間、僕は顔を引き締めて話しだす。
「まず、謝らなければならないことがある」
「なんだい?」
カイルが首を傾げる。僕に謝ることなんてあったかという顔だ。
「ニアヒュームを操っていたのは、僕の行方不明だった姉貴とあのプリンスだった」
「それはまた……」
カイルは顎に手をあてて考え込む。
「それはたぶん、僕の方が謝る事案だろう。弟がすまない。
奴はご存知の通り人を騙すのに長けている。
そして女性を色仕掛けで騙すのも常套手段だ。恥ずかしながらあえて言うなら結婚詐欺師だ」
「!」
カイルの言葉に僕の方が絶句してしまった。
「姉貴は言動がおかしかった。僕を偽者だと言っていた」
「それはプリンスの虚言に踊らされているのだろう」
「プリンスの嘘を暴けば目を覚ましてくれるんだろうか……」
あるいは罪の意識に耐えられるだろうか?
姉貴の行動で実際に被害を受けた人が存在するということだから。
「でも、2人のせいで実害が出ているはずだよね。ロレンツォの配下で亡くなった人も多いはずだ。
その人達に僕は弟として何と言えばいいのか言葉が浮かばないよ」
「そこはプリンスが騙して利用したのだとロレンツォも解ってくれるだろう。
まあ、それは2人を捕まえてからの話だな。ああ、プリンスは殺してしまってもいい」
カイルがさらっと怖いことを言う。
廃嫡が決まってから、プリンスは皇家の面汚し扱いになっているらしい。
そして帝国に対する謀反の手助け。既に生死を問わないお尋ね者扱いだ。
「そして、今回の反乱の首謀者であるレオナルドだが、奴の廃嫡も決まった。
ロレンツォとの決闘ですらない、帝国に対する反乱だからな」
「そこでお願いがあるんだ。
ロレンツォの星域は今回の戦闘で次元跳躍門が破壊されている。
他のハブグループの星系まで遠征する手段が要塞艦の次元跳躍機関しかない。
その要塞艦もダメージが大きくて、ロレンツォの主星系であるラスティ星系の解放がせいぜいだ。
なのでレオナルド星系に逃げたレオナルド討伐は帝国正規軍にお願いしたい」
「それは現在クロウニー星系に進軍中の正規軍を回そう」
「頼む」
権限のある人への相談は話が早くていいね。
次はクロウニー星系のニアヒューム無効化の話だな。
「クロウニー星系のことなんだけど、現在6万弱の無力化したニアヒューム艦がいる。
殲滅することも可能だが、攻撃すれば防衛行動でニアヒュームも反撃して来る。
僕は今後のために隔離したいと思っている。
この隔離技術が確立すればニアヒュームと戦わずに済むかもしれない。
帝国の今後のために予算をつけて欲しい」
「仕組みはどのようなものなのか?」
「異次元への隔離と相互通信の遮断かな。一応既存技術でなんとかなると思う」
カイルが思案する。帝国軍の被害による損失と隔離予算とを頭の中で試算しているのだろう。
「わかった。予算は通そう。作れるんだな?」
「お安くしときます」
ここにニアヒューム隔離装置の予算が認可された。
「それじゃ、僕は現場に戻るよ。ありがとうカイル」
「達者でな。アキラ」
僕は電脳空間を抜けコクピットに意識を戻した。
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side:アキラ
僕が電脳空間の極秘会議室から戻り、しばらくすると次元レーダーが巨大質量の次元跳躍アウトを感知した。
トレース情報によると出発点はエリュシオン星系。工場母艦の到着だ。
『来ちゃった。てへ』
『うん。待ってたよ』
僕がピンチになると飛んで来る工場母艦だが、今回は僕が呼ぶまでは来ないように厳命していた。
なので呼ばれたことが嬉しくて最大速度で来てくれたようだ。
『それで、お願いなんだけど、電子戦装備の特殊艦の製造と、次元格納庫を使った隔離装置の製造をお願いしたいんだ。いいかな?』
『お安い御用だ!』
さっそく菜穂さんの専用艦から電子戦装備の情報を、僕の専用艦の本体から次元格納庫と反支配化信号対策装置の情報を工場母艦にコピーした。
これで無力化したニアヒュームの対策は大丈夫だろう。
『ところで、みんなはどうやって僕の危機を察知したんだい?』
『それはね。晶羅が1人で出撃してから、みんな心配でずっと次元レーダーで様子を見ていたの』
『そしたら晶羅っちが劣勢になって撤退したでしょ?
ジャミングで次元レーダーも使えなくなったし、これはヤバイって、みんなで飛び出したんだー』
『中継点に到着した時に、急に次元レーダーが使えるようになって、お兄ちゃんが危ないとわかって次元跳躍で飛び込んだってわけ』
『危機一髪だったよねー』『ん。危なかった』
『そうだったんだ。ありがとう』
もし次元レーダーで見ていてくれなかったら、直ぐに飛び出してくれなかったら、僕は危なかったんだな。
彼女達の行動に感謝だね。
更新日を1日間違えてました。ごめんなさい。