149 帝国内乱編7 敗走
side:クロウニ―星系(アキラ、ロレンツォ)
ラスティ星系から15光年、物理的に隣の星系であるクロウニー星系にロレンツォの討伐艦隊は集結していた。
ここはロレンツォが星系領主となっている星系の1つだ。
ロレンツォの主星系であるラスティ星系は奪われてしまったが、他の星系にはまだレオナルドの手は伸びていなかった。
『次元跳躍門をロックしろ! ラスティ星系のハブ次元跳躍門を使われたら半日で敵が押し寄せるぞ!』
クロウニー星系に到着するやいなやロレンツォが指示を出した。
せっかく1日1光年という進行速度のハンデがあるのに、次元跳躍門を使われたら元も子もない。
『いや、次元跳躍門は物理的に破壊しよう』
僕の言葉に星系領主であるロレンツォが驚く。
星系にとって次元跳躍門は交通手段であると同時に生命線である。
自星系で産出生産出来ない物資を輸入し、自星系の生産物を輸出する貿易の要だ。
いわば帝国における経済の大動脈が次元跳躍門システムなのだ。
それを壊せというのは星系領主にとって自国民への裏切り等しかった。
『レオナルドには正体不明の乗っ取り技術がある。次元跳躍門のシステムが乗っ取られたらこの星系も簡単に奪われるよ。
それに次元跳躍門ならうちの星系で新造出来るんだ。
この戦いが終わったら直ぐに復活させると約束するよ』
『わかった。くれぐれも戦後の次元跳躍門復旧を頼む』
僕の説得にロレンツォは折れた。
僕は次元跳躍門をダウンさせ、制御機構のブロックに近づくとごっそり次元格納庫に収納した。
クロウニ―星系の次元跳躍門は物理的に閉鎖された。
『さて、これで一息つけるね。レオナルドの次元レーダーはロックしたから、こっちの動きは掌握していないはずだ』
『カイル司令に報告と援軍要請をしないとならないな』
『僕とカイルは電脳空間で定時報告会をしてるからロレンツォも一緒に行って話し合おう』
『そうさせてもらえると有難い。要塞艦にはクロウニ―星から補給を! アキラ、君も要塞艦で休むといい』
『いや、僕はここが一番安心できる。今後のためにやることもあるし……。
君の領の他星系も次元跳躍門を壊さないとならないし……』
『わかった。次元跳躍門はもう好きにしてくれ』
『定時報告会も早急に開く必要があるからカイルの都合もきかないとならないからね』
『そうか。なら私のことはいつでも呼んでくれ』
『了解』
ロレンツォは今後の方針を決め終わると姿勢を正して口を開いた。
『あらためて言わせてもらう。アキラ、助かった。礼を言う』
『いや、それはレオナルドを叩いてからにしようよ』
ロレンツォは僕の言い分に苦笑し答える。
『そうだな。気が早かったかもな』
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side:ラスティ星系 (レオナルド)
「アキラめ! ただでは死にやがらねーな!」
アキラの置き土産が艦隊のほぼ中央で爆発したため、直径100kmほどの球状のエリアに居た艦が消し飛んでいた。
その残骸が残弾のように広がり、直径300kmの範囲で破損する艦が続出、その数ざっと6万艦に達していた。
その被害も大きかったが、先程から次元レーダーが使用不能になって通信妨害もダウンしていた。
要塞艦も次元レーダーも帝国本国からの貸与だ。
対ニアヒュームに使用することを目的としている戦力と新兵器を私利私欲のために使おうとしたら、いや帝国に仇なそうとしたら当然使用制限がかかる。
当たり前のことだった。
要塞艦の使用制限は通信妨害をかける前だったので帝国本国からの遠隔操作だろう。
だが、次元レーダーは通信妨害がかかっている最中に無効化された。
つまりその通信妨害を抑えて対処したということだ。
それは要塞艦の時のように遠隔操作というわけにはいかなかったはずだ。
何者かが星系内で対処したということだ。
レオナルドは野生の勘で気付いた。
「はん。そんなことが出来るのはアキラだけだろ!」
レオナルドが苦虫を噛み潰したような顔をすると吐き出すように言う。
次元レーダーの無効化の権限を持っているのはこの戦場ではアキラだけだろう。
そして無効化はアキラの専用艦が爆散した時より後だ。
「つまりアキラは生きているってことじゃねーか!!」
レオナルドがまた暴れだした。
取り巻きは空気を読み既に距離を置いていた。
「殿下! ハブ次元跳躍門よりロレンツォ領の各星系へ送った占領艦隊より報告です!」
「なんだ!? 早く言え!」
「はっ! 次元跳躍門不明により亜空間で迷子になっているそうです」
伝令が恐る恐る言う。
レオナルドの顔が怒りで真っ赤になっていく。
「迷子たぁなんだ! 迷子たぁ!」
「はっ……。 次元跳躍門が閉鎖ではなく物理的に破壊されたもようです」
その報告にレオナルドは気付く。
「この思いっ切りの良さに動きの早さ……。連続次元跳躍が使えるアキラの仕業かっ!」
レオナルドはアキラの生存を確信した。
「やりやがったな! これで星系占領の手間が何十倍にもなりやがる!」
レオナルドは思案する。
奴らの居場所はその星系のどこかだろう。
だが隣の星系でさえ15光年離れている。
レオナルドの軍は移動をニアヒュームの小母艦級の次元跳躍機関に頼らざるをえない。
その小母艦級の次元跳躍能力でも一番近い星系まで15日かかる。
黒騎士なら個別に次元跳躍機関を持っている。
しかし彼らを動かすとニアヒュームを抑えることが出来なくなる。
「なら要塞艦をどうにかするしかねーな」
レオナルドは妙案を思い付き不敵に笑った。
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