148 帝国内乱編6 罠
side:ロレンツォ
アキラの専用艦が沈む様子を目撃し、ロレンツォは自責の念に囚われた。
自分とレオナルドの戦力比は6万5千:18万。
要塞艦の戦闘力を5千艦相当としても11万:18万。
アキラの戦闘力を宛てに出来ないなら勝ち目なんか最初からなかった。
いや勝ち目がないからアキラが時間を稼いで撤退の隙を作ってくれようとしたのだ。
アキラの専用艦なら連続次元跳躍で逃げられたはずだ。
レオナルドがニアヒュームと潰し合って戦力が低下している。
そんな都合の良い結果を信じて偵察もせずに突入してしまった。
あのような巧妙な欺瞞工作など誰が出来ると信じようか。
「すまない、アキラ……」
そう一言発するとロレンツォは気持ちを切り替えた。
「撤退だ! 次元跳躍準備。敵が混乱しているうちに引くぞ!
まず半分逃がす。次元跳躍準備完了まで、我が領軍所属要塞艦の要塞砲で牽制する。
そうか通信妨害されていたのだったな。命令書を持ち連絡艇を発進させろ」
ロレンツォは正規軍の要塞艦を先に逃し自軍の要塞艦4を殿軍として撤退戦を開始した。
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side:レオナルド
「殺った! アキラの野郎を殺した!」
アキラの専用艦が爆散する様子を見て、レオナルドは狂喜していた。
レオナルドは気が狂ったように笑いながら奇妙な踊りを舞っていた。
たぶん本人にとっては勝利の舞だったのだろう。
そこに指揮の空白が一瞬生まれた。
「敵要塞艦、次元跳躍していきます!」
「なんだと! なんで撃たねーんだよ!」
「それは……」
レオナルド配下の参謀が言い淀む。
「いいから言いやがれ!」
「殿下が18万艦でアキラを討てとの命令されましたので……」
「はぁ?」
「殿下は命令以外のことを我らがすると気分を害しますので……」
その参謀がレオナルドの蹴りを受け宙を舞った。
「使えねー奴ばかりだな。敵は撃て。当たり前のことだろうが!」
レオナルド混成軍17万によるロレンツォ軍への攻撃が始まった。
既に1万艦はロレンツォの要塞砲により撃沈されていた。
今のままでは敵との距離がありすぎた。
このままではロレンツォの要塞砲で一方的に叩かれてしまう。
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side:ロレンツォ
「敵の動きが鈍い。今のうちに次元跳躍だ!」
ロレンツォの号令で残りの要塞艦が次元跳躍していく。
最後に残ったのはロレンツォの乗った要塞艦だった。
レオナルドの艦隊とは距離があった。
敵との距離はレールガンの最大射程を超えている。
レールガンの最大射程とは、余裕を持って避けたり迎撃が可能な距離を言う。
質量投射兵器であるレールガンは真空の宇宙空間では初速を維持したまま突き進むため、基本何も対応をしなければ射程の限界は無い。
だが何もしないわけがないため、当たる見込みが無い距離として最大射程というものが存在する。
そのため亜光速で到達する要塞砲なら、射程はエネルギーが減衰する距離であり、要塞砲の高出力なら長射程になり一方的に敵を叩けるのだ。
しかし、要塞砲にエネルギーを使っている限り次元跳躍にエネルギーを回すことができない。
牽制するためには要塞砲を撃たざるを得ず、撃つとエネルギー充填時間で次元跳躍が出来ない。
そのためロレンツォは1艦ずつ撤退させていった。
「アキラが作ってくれた撤退のチャンスだ。無駄にするわけにはいかない」
ロレンツォは迷わず撤退するための次元跳躍準備に入った。
レオナルド混成軍の艦が射程距離に入るため前進して来る。
既にアキラの専用艦が爆発した場所を数万艦が越えたような位置だ。
戦艦と思われる敵艦のレールガンがちらほら届き始めている。
ロレンツォは要塞艦に回避機動をさせつつ後退し次元跳躍機関へエネルギーを貯める。
その時、要塞艦を衝撃が襲う。
「何があった!」
「右舷より敵艦隊! ニアヒュームの別働隊です!」
いつのまにか回りこまれていたようだ。
いや最初から伏兵を潜ませていたのか。
「ニアヒュームに侵食されるな! コアを破壊しろ!」
ロレンツォの指示が飛ぶも次元跳躍機関からエネルギーが抜けていく。
さらに接近中のレオナルド混成軍からのレールガンが要塞艦に当たり始める。
「くっ。このままでは……」
その時。接近中のレオナルド混成軍の中心で爆発が起こる。
そこはアキラの専用艦が爆発した場所だった。
アキラの置き土産、反物質カートリッジが開放され対消滅の爆発を起こしたのだ。
アキラが残した罠に敵が引っかかった瞬間だった。
と同時に要塞艦に取り付いたニアヒュームにレールガンが撃ち込まれる。
爆散するニアヒューム艦。
「次元跳躍機関、エネルギー充填再開!」
「何があった!?」
ロレンツォが尋ねるも、誰も理由はわからなかった。
その時、通信が入る。
『ロレンツォ、君が殿軍はないよ。僕の苦労をなんだと思ってるんだよ』
『アキラか! 無事だったのか!』
ロレンツォは心底驚いている。
『うん。ちょっと罠をしかけてステルス化で様子を見てた』
『しかし、専用艦が爆発したように見えたが……』
『あれはダミー艦だよ。変わり身の術ってやつだ』
ロレンツォは半分呆れたような顔をしていたが、違和感に気付き尋ねる。
『ん? そういえば通信が復活したのか?』
『次元通信は僕が提供した物だからね。まさかとは思ったけど次元レーダーのブラックボックスに停止命令を送ったら通信妨害まで止まったよ。
さて、そんな無駄話をするほど余裕は無い。次元跳躍出来るかい?』
『大丈夫だ』
『それじゃ撤退だ。戦力を立て直してリベンジだ』
僕の専用艦とロレンツォの要塞艦は次元跳躍でラスティ星系から離れた。
レオナルドが移動にニアヒュームの小母艦をあてにしている限り、次元跳躍距離は1日1光年だ。
態勢を立て直すには充分な時間が稼げるだろう。
評価、ブックマークありがとうございます。
感想読んでます。誤字報告も助かります。
きんぼー様よりレビューをいただきました。ありがとうございます。
レールガンの射程に関する記述を加筆しました。
宇宙で質量投射兵器には基本的に射程はありませんが、この世界では避けられる迎撃できる余裕のある距離を射程距離と呼称しています。
表現不足を解消するため加筆修正しました。