136 遠征編21 ニアヒューム対策
第3皇子の領地がニアヒュームに汚染されていたわけだが、同様の事が第2皇子に起きていても不思議じゃなかった。
しかしヘンリーはカイルの忠告を受け入れ徹底的な汚染調査をして難を逃れていた。
カイルが皇子会議を招集し、緊急決議で皇帝代理に付くことで内戦は回避された。
さらにカイルが皇帝代理としてヘンリーを説得してヘンリーの艦隊からニアヒュームを殲滅させることが出来たのだ。
その際、ヘンリーが自ら全裸になって機械人形にされていないことを証明するというオマケが付いた。
『ねえカイル。イーサンだけ汚染されてなかったって変だと思わない?』
『そうだなアキラ。何らかの意図があったのかもしれないな』
『もし、もしもだよ。同じことがヘンリーにもあったら、ヘンリーの領地は……』
『それを調べる手段が欲しいな』
いま僕達はニアヒュームに汚染されているか否かを直接臨検で判断している。
艦の電脳にニアヒュームのコアが寄生していたらアウト。CICの航宙士が機械化されていたらアウトといった形だ。
その臨検している者が既にニアヒュームに汚染されていたら簡単にスルーされるということだ。
僕が星系に乗り込んで、怪しい艦の電脳を支配下に置いて調べればコアの有無はわかるんだけど、帝国内の宇宙船を民間船を含めて全てを僕が調べるのは現実的じゃない。
時間がかかれば調べている間に調べ終わった艦が汚染されているかもしれないと永遠に作業が終わらなくなる。
そこで必要とされるのが誰もがニアヒュームを探知出来る方法の開発だ。
同時に銀河腕を渡ってくるニアヒュームの早期警戒態勢も確立する必要がある。
だが帝国には新規の技術を開発する能力がない。既存技術の応用を考えることもしない。
持ちうる技術をマニュアル通りに使うのみ。いやそのマニュアルも年々抜けて使い方を忘れつつある技術もある。
この仕事は帝国の誰にも任せる事は出来ないだろう。
『ニアヒュームの探知方法は僕の方でなんとかしてみるよ』
『頼む。対ニアヒューム技術の開発はアキラに全権を委任する』
僕は戯けて言う。
『第6皇子アキラ、拝命いたします。皇帝代理閣下w』
『うむ。良きにはからえ』
僕の悪ふざけにカイルも乗ってくれた。
だがこの冗談の遣り取りの中でリアルに僕はカイルから全権を委任された。
さて僕の所ではダロン4や工場母艦で失われた技術が解放されている。
今まで帝国が製造出来なかった物を僕の領地では製造できる。
帝国がニアヒュームの侵攻に気付いたのは第8管区に侵攻されてからだ。
つまり攻められて初めて気付くというかたちだ。
次の侵攻に気付けたのは、その侵攻ルートをトレース中に次元異常を観測し次元跳躍の痕跡を掴み、その現場に次元跳躍の出来る艦で強行偵察をかけたからだ。
たまたま観測していた方面に次元異常があったという偶然を今後も期待するのは酷だ。
やはりまず開発するべきなのは次元レーダーだろう。
次元跳躍中の敵艦をトレースし次元跳躍アウト地点を算出可能。
そして時空間を越えて数十光年先を探査することが出来る。
恒星系内距離対応の対艦レーダーに対し次元レーダーは恒星間距離を想定している。
超長距離レーダーと言っても過言でない性能を持つのが次元レーダーだ。
現在次元レーダーを搭載している艦は僕の専用艦ぐらいだろう。
これを帝国に渡すとなるとある種の対策が必要となるのではないだろうか。
今後、真・帝国復興で帝国と争うことになった場合に、次元レーダーを渡すことでこちらが不利になるかもしれない。
となると僕の支配下にある艦にのみ次元レーダーを搭載し貸し出すという方法を取った方がいいかもしれない。
いや盗もうと思ったら部品取りして融合すればいいだけだ。
むしろ移動出来ないぐらい巨大な装置にするとか。それどうやって配備すればいいのか……。
順当なところでブラックボックスに停止装置を入れとくか。
『工場母艦にお願いなんだけど?』
『我が君、何用でしょうか?』
『次元レーダーは製造できるよね?』
『はい。我が君のDNAより設計図は取得済みです』
『制御装置をブラックボックス化して、いざという時にこちらの制御で停止出来るように出来る?』
『お安いご用です』
『じゃあ、それで量産よろしく』
これでニアヒュームの早期警戒態勢はなんとかなるはず。
次にニアヒュームに汚染された艦の探知方法の開発だ。
ニアヒュームの搭載艦を調査した時のデータと寄生された艦を調査した時のデータ、そして機械人形にされた貴族を調査した時のデータを専用艦の電脳で精査してみる。
何か特徴的な観測値があれば汚染を探知出来るかもしれない。
やってみるもので、ある波長でニアヒュームのコア同士がリンクしていることが判明した。
この波長を観測すれば、ニアヒュームを探知出来るかもしれない。
これは通信機さえあれば特別な装置を必要としない。皇子のみんなと情報共有して試してみよう。
ニアヒュームは僕達に対抗して進化する力がある。
機械人形を作ったのも僕達の行動に適応し対抗したということだろう。
この波長を傍受するという手段もいつかは対抗され無力化されるだろう。
もしかすると機械人形も進化して適応済みかもしれない。
こちらの技術である人型有機端末を奪われたら構成素材まで人そっくりな機械人形ができているかもしれない。
「なんか嫌な可能性に思い当たってしまったぞ。カイルに相談しとくべきだな」
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