133 遠征編18 帝国の文化度
「それは証拠映像が帝国データベースに上げてあるので見れば一目瞭然でしょ?」
僕は同じことを何度も何度も尋問されて辟易していた。
皇帝が重症を負うという大事件なのはわかるけど、証拠が目の前にあるのにそれを無視して噂話で追求を受けるのは納得出来なかった。
僕とカイルは事情説明という名目で隔離され尋問を受けていた。
まるで皇帝暗殺未遂の容疑者扱いだ。
それは宰相の一言から始まった。
『第6皇子アキラがニアヒュームのスパイだという証言があります。彼が皇帝陛下暗殺を企てたのかもしれません』
もうアホかと。
誰かさんが自分の艦隊がニアヒュームに寄生されるという大失態を隠すために根も葉もない噂をたてたとしか思えない。
そんなアホな噂を宰相という立場の人間が公に語ったため、僕を英雄扱いしていた世論が突然バッシングに変化した。
あまりの民度の低さに衝撃を覚えた。
「だから皇帝陛下を暗殺したいならニアヒュームと全面的に戦わせて戦死させればいいでしょ。
僕は合計100万近いニアヒュームを倒したんだよ? 敵侵攻勢力の半分以上なんだからね?
どうしてその僕が敵のスパイなのさ」
呆れてものが言えないとはこのことだろう。
帝国は恒星間航行技術を実現する科学技術を持っていながら、人の文化レベルや民度は地球の中世に近い。
中世レベルなのに恒星間航行技術を与えられてしまったと言った方がいいのかもしれない。
宰相ともあろう人が、噂話だけを耳にして知った気になって批判するとは、自分の影響力をどう考えているのだろうか?
好き嫌いで物事を判断したり、派閥の論理を持ち出したり、やり方の程度が低すぎるんじゃないか?
民衆も民衆で、宰相が批判したら手のひらを返すのか? 思考誘導というか国民扇動というかあまりにも短絡的すぎやしないか?
映像を見た素直な気持ちはどこへ行った? 宰相が言うならと流されて批判に回るって、それまでの自分の気持ちは嘘だったのか?
僕は帝国の実態がやっとわかった。
帝国は旧帝国から地位と文明を簒奪して成立した国家だ。
つまり帝国が持つ文明の数々は旧帝国の遺産であり、現帝国が作り上げた文明ではない。
そのため使っている科学文明とは程遠い文化度や民度しか持っていないのだ。
野蛮人が文明人を滅ぼしその文明を掠め盗った。そしてそのまま野蛮人の文化で恒星間国家を運営しているんだ。
だから僕が戦術兵器統合制御システムを使って情報提供したことに驚いたんだ。
科学文明はブラックボックスで知っている使い方しか出来ないし工夫も発展もしようとしない。
生まれ持ったDNAにレアな遺産が含まれていたら大当たりという感覚なんだ。
そういや遺伝子実験をしていたゲールも旧帝国の末裔だった。
現帝国の人達はその助手は出来ても、独創から実験を主導することは出来ないんだろう。
「いいかげん怒るよ? これ以上は証拠を持って来ない限り協力しない。
証拠も無しに侮辱するなら宰相に決闘を申し込む!」
「そんなことを言っていいのかな? 例え皇子殿下でも喋りたくなる方法を使ってもいいんだからな?」
宰相の威を借りた尋問官が脅してくる。
喋りたくなる方法とは拷問だろう。
もういい加減付き合うのがバカバカしくなった。
「それは僕に対する挑戦ととっていいんだな? 宰相共々後戻りは出来ないぞ?」
「ふん。どうせここからは出られん。その生身で決闘なんて出来ないだろ」
「わかった」
『この会話は記録したな?』
『はい』
腕輪で通信を送ると専用艦の電脳が答える。
『よし転送だ。転送場所は専用艦CIC。戦闘態勢を取れ』
僕は転送によって専用艦CICに移動した。
僕の専用艦には跳躍弾という次元跳躍弾がある。
その機能を応用することで個別転送が可能だと気付き実現させていたのだ。
既にジェーンと美優も新鋭艦でスタンバイしている。
『ジェーン、美優。帰ろう。次元跳躍の間、しばらく次元格納庫に入ってもらうよ』
『わかった』『ん』
新鋭艦が次元格納庫の有効範囲に入ると姿を消す。
次元格納庫入りしたのだ。
『カイル、無事かい?』
『僕は大丈夫だ。事情説明は終わった。君のような尋問は受けていない』
『アキラ様、私も連れて行ってください』
カイルとの通信にステフが割り込んで来た。
専用艦に乗って発進して来たようだ。
『そうだ。妹を頼む。君の嫁だから人質にされ、君に自白を強要する道具にされるかもしれない』
『わかった。これ以上言いがかりをつけるなら宰相は倒す。苦労をかけることになるがいいんだな?』
『はい』
文化が中世なら中世らしい解決方法でやってやる。
これ以上誹謗中傷をするなら第3皇子もろとも覚悟しておけよ。
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帝都に来ていた嫁の名前を間違えていたので修正しました。キャリー→ジェーン