131 遠征編16 汚染
前話の文章で不確定なまま敵に汚染された艦を葬ったような表現になっていたため修正しました。
晶羅には敵だとの確信があっての攻撃命令です。
敵ニアヒュームに汚染された大型艦は反物質爆弾と同じだった。
侵食弾で拘束したとはいえ、そのままにしておくわけにはいかなかった。
そして気になる点が1つ。いつもなら電脳から伝えられるメッセージが無い。
ニアヒュームのコアにはナーブクラックが使えない。
つまり完全な支配下に置くことが出来ないということだ。
『一応解剖しといた方がいいよね?』
『貴族の艦だからな。無実の貴族を誅したなどと後で濡れ衣を着せられても困る』
『そこは気づかなかった。カイルはさすがだね。しっかり証拠として映像を残して帝国ネットワークに上げよう』
僕は工作艦を操って侵食弾で拘束した貴族の戦艦を解剖していった。
『侵食弾の侵食にコアからの汚染が対抗しているね。侵食弾が艦の制御経路を侵食するとコアがケーブルを伸ばして迂回しようとしている』
僕はリアルタイム映像を主力艦隊全艦と共有して解剖を進める。
『これはやっかいだな。まだ侵食弾の方が優勢だが、拘束を逃れる艦が出かねない』
さらに解剖を進めていく。
この艦に寄生したコアは航宙士まで寄生出来ていないのか有機部品が見当たらない。
『CICが生きていて隔離出来ていれば、貴族本人は無事な可能性があるのかな?』
『そうなるとやっかいだぞ。なぜ助けなかったという批判を受けかねない』
僕は戦艦からCICを分離すると工作艦の格納庫に入れた。
貴族が無事なことを想定して与圧するためだ。
さすがに宇宙空間でCICを開けて中を見るわけにはいかないからね。
『カイル、このようなことの前例は?』
『知らない。ニアヒュームと戦闘になったら必ずコアを潰せという通達があるだけで、それを守り続ける限りは問題がなかった』
『コアを潰せか。つまり、コアを潰さずにやっかいなことになった前例が過去にはあるということか』
格納庫の与圧が終了し回収したCICを開ける。
CICにはコアから伸びたケーブルが絡みついている。
そのケーブル自体は切断され死んでいる。コアと繋がっていなければ無害のようだ。
『開けるぞ』
工作艦の格納庫内にある工作機械を駆使し、僕はハッチを開けるのではなくCIC自体を割った。
中から出てきたのは……。
『寄生されてるね。まるで機械人形のようだ』
そこには首から下が金属のボディにすげ替えられた貴族がいた。
しかし、その姿はただの生体部品にされた成れの果てではなく、独立した機械生命体に見えた。
『これはまさか……』
カイルが絶句する。
それは人に擬態し人の社会で活動するための形態だった。
そう、まるでター◯ネーターだ。
『対人類兵器!』
その時、その機械貴族の胸が光り、あたりにケーブルが伸び始める。
『こいつ動くのか!』
カイルが叫ぶ。
機械貴族は工作艦を汚染しようとしている。
僕は機械貴族の胸で光るコアを破壊した。
機械貴族は動かなくなった。
『これで寄生された艦は処分しても問題無いね。証拠も撮れたし』
僕の言葉にカイルが頷く。(艦隊内通信では顔映像がやりとりされています)
『CIC内の調査と機械人形のコア破壊も必要になって来るね。一緒に爆破すればいいかな?』
『いやそれはダメだ。あれだと航宙士が生きていたと判断して回収艦に転送され回収されかねない』
『!』
『『拙い』』
僕とカイルは同時に声を上げた。
それは機械の殺戮者が人に紛れて人類社会に進入した可能性を示唆していたからだ。
そして次元跳躍で逃げた者の中に寄生されて動き回っている機械人形が居る可能性も示していた。
『回収艦に通達! いや乗っ取られていたら意味が無い。星系防衛艦隊に回収艦の隔離を命じる』
『拙いぞ。アキラ。君は主力艦隊の指揮権を既に返上している。それに星系防衛艦隊への命令権もない』
『そうだった。今までは緊急事態で従ってくれてただけだ』
『これも緊急事態ではあるが、その危機感を共有するのに時間がかかる』
『せめて皇帝陛下の乗っている回収艦だけはなんとかしないと』
僕達は青くなった。皇帝が汚染され本人のふりをした機械人形が命令を発すればいったいどうなってしまうのか。
帝国存亡の危機がそこにあった。
僕はカイルに交渉を任せる。近衛艦隊の説得にはカイルの方が向いているからだ。
『第1皇子カイルだ。この映像を見るように』
『近衛隊長のグスタフです。人に機械が寄生するのですか!』
『この機械人形が皇帝陛下と同じ回収艦に乗っていたらどうなるか理解出来るな?』
『はっ!』
『ならば近衛艦隊に命ずる。皇帝陛下をお守りしろ。敵の弱点はコアだ。破壊せよ。指揮権の逸脱は後で私が直接皇帝陛下に謝罪しよう』
『了解しました!』
さすがカイル。信用が違う。僕だったら疑念を持たれて反発されてるところだ。
なにせ近衛艦隊の防衛ライン内側に次元跳躍アウトして皇帝総旗艦の後ろを取って武器を向けた張本人だからね。
困ったのは勝手に次元跳躍して逃げた連中だ。
対消滅反応炉を搭載し次元跳躍機関を持つ戦艦の持ち主。
どう考えても皇子か上級貴族のみ。
そいつらが寄生され人のふりをした機械人形だったら、その権力を使い寄生先を増やしていったら最悪の事態を招く。
『カイル、第2皇子と第3皇子を調べる術ってある?』
『無理だね。皇帝陛下が無事で命ずる以外にはないだろう。僕らは継承順が付いていても立場は同列だ。僕らが調べるのは無理だ』
『もしも、もしもだよ? 皇帝陛下にもしもの事があったら、カイルが皇帝になれるの?』
『僕は皇太子ではないからね。今のところ継承権1位というだけで、皇帝陛下の中では既に違う考えかもしれないしね』
カイルが僕のことをじっと見つめて言う。
え? 僕のことを言ってるの? 冗談でしょ?
『各皇子を皇帝にするべく支援している貴族達がいるから、皇太子指名が無いと内戦状態になりかねないね』
『それが機械人形だったら帝国は終わるね。僕はカイルを推すよ』
『まあ万が一のことだから。これ以上はやめておこう』
カイルが苦笑しつつ話を終わらせた。
『それじゃ残敵掃討と行こうか。コアを破壊しCICを開ける』
『それは手間がかかる。回収艦の転送機能を停止すれば、爆破で大丈夫なはずだ』
『そうか! そっちで行こう。だけど、もし無事な人がいたら……』
『敵に利する行動をするまで汚染され乗っ取られているなら、CICの中身が無事で済むはずがない。敵の行動原理からも人を害さない理由がない』
『ならば遠慮無く破壊しよう』
僕とカイルの艦隊は敵を掃討していった。
対消滅反応炉を部品取りしたかった。これはSFOゲーマーの性だろう。
だが汚染された部品からも汚染が広がりかねないので我慢するしかなかった。
ナ◯シカの腐海の胞子みたいなもんだ。1つでも残したら人類の生活圏が後退する。
既に隣の銀河腕は制圧されてしまったようだからね。
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CIC内が安否不明なまま敵に汚染された艦を葬ったような表現になっていたため修正しました。
連番が狂っていたので修正しました。