125 遠征編10 再侵攻1
「これはある意味密入国だ。次元跳躍機関がレベルアップしたことを隠していては説明する術がない……」
僕は帝都へ進入した記録の無い2人をどう説明するか頭を抱えていた。
戦局を左右しかねない次元跳躍加速装置なんて存在を、僕にとって潜在的な脅威でもある帝国や皇子達に知らせるわけにはいかない。
最初から一緒だったと説明したら、嫁連れで戦場に来ていたのかと言われてしまう。
ジェーンは護衛で誤魔化せそうだけど、美優はどうしようもない。
「一度戻って降ろすか」
「いや! 離れない!」
無口な美優がいつになく強い意思表示をした。
この気持ちは蔑ろにしてはいけないと僕は直感した。
僕は頭を捻る。
そもそも帝都に来て専用艦を皇族専用駐機スポットに泊めた時点で、艦内に他には人がいないことはセキュリティ上チェックされているはず。
拙い。それなのに2人も乗ってましたは不自然すぎる。
やっぱり次元跳躍門で帝都にやって来たという記録を残すのが自然だろう。
「こっそり隣りの星系に送るから、そこから次元格納庫の新鋭艦に乗って次元跳躍門で帝都に入れ。
嫁が僕を追って来たことにする。それなら一緒にいられる」
「わかった」
美優が満面の笑顔で頷く。
そんな笑顔を向けてくれる嫁の存在に僕はドキドキしてしまった。
「次元跳躍門を通ると半日はかかる。善は急げだ。今から送ろう」
僕はステルスモードで隣の星系に次元跳躍アウトする。
そして予め2人を乗せておいた新鋭艦2艦を次元格納庫から出し即次元跳躍で戻る。
後は2人が次元跳躍門を使って帝都に進入するだけだ。
帝都に入った記録よりも隣の星系に入った記録が無いことは重要視されないだろう。
バレたらバレたで裏技を匂わせればいいか。
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僕は皇帝の家令が用意した部屋に泊まっていた。
ここは皇帝の居城の客室らしい。
あれから皇帝には会っていないんだけど、嫁の件はこのまま知らばっくれられないだろうか?
無理か。
一夜明け、ジェーンと美優が帝都に到着した。
第6皇子の妻と名乗ったため僕に照会が来る。
本人であることを保証するとすんなり帝都入りが認められた。
入港も皇族専用駐機スポットに回される。
まあ僕の専用艦の横だ。巡洋艦なら間を開けても10数艦停泊出来るスペースがある。
なんたって2km級の戦艦が余裕で停泊出来る大きさだ。
僕が偽装で横にダミー艦を出したって駐機位置がズレてるとすら気づかれないぐらいだ。
駐機スポットはタラップを回すのが面倒になったのか、人工重力を切って乗り降りするようになった。
僕がちょくちょく次元通信を使いに来るので好きにしろということだろう。
当然ジェーンと美優も空中を遊泳して艦を降りる。
出入口は桟橋に上がれるため正規の出入口が使える。
僕が迎えに行くと、2人が丁度隔壁の扉を抜けるところだった。
隔壁の扉はエアロックになっているので、そこに入った段階で人工重力が働きはじめるようになっている。
外扉が閉まり、空気圧を確認する時間でゆっくり重力が効いてくるという感じだ。
内扉を開けて施設内に入るときには、既に標準重力になっているという行き届いた心配りだ。
2人は僕を見つけると胸に飛び込んできた。
「来た」「来たぞ」
「よく来たな」
打ち合わせ通り、長い間会ってなかった夫と妻を演じた。
さて、2人を皇帝に紹介するべきだろうか?
紹介するなら護衛妻と愛玩妻かな?
愛玩って変な意味に取られるかな?
カイルに聞いてみよう。
と思っていたら腕輪にカイルから通信が入った。
『アキラ、どこにいる? 敵の再侵攻だ。第8管区に敵の第2陣が襲来した!』
『いま駐機場だ』
『なら緊急発進で8B星系に向かえ。敵の侵攻は二段構えだったようだ』
『皇帝陛下や正規軍は?』
『出撃準備をしているが、8A星系到着までに1週間かかる』
『いや、それは拙い。僕だけ先行しても迎撃は不可能だ』
『敵はまだ3光年先だ。奴らの能力で次元跳躍3回つまり3日だ。君ならまだ間に合う』
『めちゃくちゃ貧乏くじじゃないか!』
『すまない。君しか8B星系を救えないんだ』
『撤退の権限を僕が持つのでいいなら行くよ』
『それは当然だ』
通信が切れる。僕はジェーンと美優に向かい指示を出す。
「2人はここで待っていてくれ。戦場へは僕の専用艦で次元跳躍するしかない」
「あたい達も次元格納庫に入れば一緒にいける」
「ダメだ! 敵は十万単位の軍勢だ。2人を連れて行ったら、緊急次元跳躍で逃げられない」
「足手まといだってことね?」
「はっきり言って、2人を回収する間に潰される。それだけの大軍勢だ。守れない」
「わかった。残る。ジェーンも」
ジェーンはラーテルとして僕を護衛したいのだろう。
だが、美優が折れた。
「僕を信じろ。危なければ逃げる。逃げる前に引っ掻き回すだけだ」
「うん。信じる」
「わかったわよ」
僕は皇帝の家令に2人を引きあわせて任せる。
その時、カイルから通信が入る。出撃の督促だろうか?
『僕が君を死地に追い遣るようで心苦しいから、皇帝陛下も明かしていない秘密を話そう。
君の嫁になるのは僕の同腹の妹だ。僕と君は義兄弟になる。帰ったら盛大な結婚式をあげるぞ』
そうか、僕は帰ったら皇帝の娘と結婚するんだ。
カイル、これって死亡フラグだよ……。
僕は8B星系に向けて専用艦を次元跳躍させた。
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