124 遠征編9 レベルアップ
前話の晶羅の台詞ですが、わざと悪い口調を使ったという部分を強調するため加筆修正しました。
「それでは、僕はこのへんで帰らせて……」
「待て」
敵も殲滅したし、帰ろうとする僕を皇帝が止めた。
「お前は帝都常駐だ。これから敵ニアヒュームの襲来が活発化する。お前は貴重な戦力だ。存分に働いてもらう」
「いや、住むところもありませんし!」
「娘をやるからには屋敷ぐらい用意する。おい! 適当なところをみつくろっておけ!」
皇帝の命令で家令と思われる人達が動き出す。
僕は帝都に住むことになりそうだ。なんとかしなければ。
「領地の運営や家臣への采配もあるんですよ? 常駐は困ります!」
「ふむ。なら領地替えしてこっちに呼ぶか」
「それも困ります! 領地に愛着だってあるんです。わかりました単身赴任しますよ」
僕に拒否権は無かった。
カイルがそっと僕の肩に手を置いて同情の目を向ける。
よかった、カイルとの関係が拗れなくて。
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領地に連絡をとるために次元通信を行おうと格納庫に向かうと、僕の専用艦が繭に包まれていた。
融合フィールドだとすると、何を取り込んだのだろうか?
まさかニアヒューム? 逆に乗っ取られそうで怖いわ!
僕が慌てていると融合フィールドが解かれ融合が終了した。
こんなことって僕が見ていない間によくあったのだろうか?
何にしても電脳の情報をチェックだ。
僕は専用艦のCICに乗り込むとパイロットシートに座った。
僕の脳と艦の電脳が繋がる。システムチェック。違和感がないか調べる。クリア。
ログチェック。いったい何があったのか調べると、どうやらレベルアップのようだ。
今までレベルアップはいつのまにかしていたことに後で気づいただけだった。
まさか融合フィールドを展開するほどの事だとは思っていなかった。
今回のレベルアップで備わった能力は2つ。
まずは次元レーダーS型。次元跳躍の予兆や痕跡を追うことが出来るらしい。
そして次元跳躍加速装置。
次元跳躍距離と速度が飛躍的に向上する。
もしかして、僕の主星系と簡単に行き来出来るんじゃ?
僕は次元格納庫からダミー艦を格納庫に出す。
居なくなったことがバレないように布団の中に枕を入れるようなものだ。
そしてそのまま専用艦をエリュシオン星系に向け次元跳躍させる。
一瞬でエリュシオン星系に次元跳躍アウトする。
まるで瞬間移動レベルだ。
続けてアノイ星系へ。これも一瞬だった。
僕はアノイ要塞の格納庫に専用艦を入れると、久しぶりに事務所へと向かった。
「ただいまー」
「お帰りなさーい。早かったねー」
「おかえり……」
事務所に行くと紗綾と美優がたまたま居て迎えてくれた。
思いっきり抱きついてくる。
拙い。彼女達に言わなければならないことがあったんだ。
「紗綾と美優、あと綾姫に言わなければならないことがある」
「なーに?」「……」「何よ」
「ごめん。活躍しすぎて嫁を取らされることになった!」
「「「えーーーーーーー!!!」」」
「皇帝の娘で断れなかった。でも3人とは偽装結婚だから大丈夫だよね?」
その時、空気が凍った。僕はその殺気に背中に冷たい汗が流れた。
「紗綾は本気だってずっと言ってたよね?」
「晶羅、死ぬ?」
「私は、どっちでもいいけど……。みんなが本気なら私もそっちで」
紗綾と美優の殺気が凄い。綾姫は便乗らしい。
「皇帝の娘だから正妻にしないとならない。それでもいいか?」
「今でも嫁は6人もいるんだから紗綾は気にしないぞ」
「美優も」
「私は晶羅と一緒なら嫁が何人いてもいいよ」
そうだった。獣人嫁ーずにも話をしないと。
事務所と僕の自宅は直ぐ側だから、呼んだ獣人嫁ーずが直ぐに事務所に到着する。
「「「旦那様、お帰りなさいませ。ご無事で何よりです」」」
「やあ、みんな。今帰ったよ。ちょっと話があるんだが……」
僕は皇帝の娘を娶る事情を話した。
「「「それは、おめでとうございます」」」
「え?」
「「「え?」」」
「嫌じゃないの?」
「皇帝陛下の姫を娶るというのは武人として大変名誉なことです。その旦那様の嫁として私も嬉しく思います」
「私もです」「あたいもだよ」
どうやら貴族家の娘としては誉高いことらしい。
嫁6人全員が歓迎してくれるという奇跡だった。
「ところで、皇帝陛下の娘さんとはどのような方なんですか?」
綾姫の質問に僕は言葉に詰まった。
肝心な事をすっかり忘れていたからだ。
「まだ会って無かった!!」
「「「「「「えーー!」」」」」」
「これから帝都で一緒に住むことになってるんだけど顔合わせもしてない」
「旦那様、帝都に住むとはどういうことですか?」
キャリーが耳聡く気付いた。
「ああ、皇帝からの命令で僕は帝都に常駐することになった」
「「「「「「聞いてないよ!!」」」」」」
「付いていくんだからね」
「いや、まだ住居も決まってないから一緒に住める場所かどうかもわからないから」
「でも護衛は必要だろ? あたいなら最適だぜ」
紗綾が付いていくとゴネる。
ジェーンも護衛として来るという。
「とりあえず専用艦がレベルアップして次元跳躍が進化したから頻繁に帰って来れる。それで我慢してくれ」
「「むう」」
「じゃあ、黙って抜けだして来たから今日はこれで……」
「「「こらー! 逃げるなー!!」」」
「……」
僕は逃げるように帝都に向かった。
格納庫内に次元跳躍アウトするとダミー艦を次元格納庫に収納する。
「さて、これからどうしようか」
僕が専用艦を降りようとすると、パイロットシートの後ろで何かが動いた。
「だ、誰?」
「バレた? いやー美優ちゃんが忍び込む所を見ちゃってさ」
「え? 美優が?」
そこには美優を背中に隠したジェーンの姿があった。
「付いて来ちゃたのか……」
「ん……」「てへ」
ジェーンは護衛で誤魔化せるけど、美優はどうしようか。
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