123 遠征編8 デブリーフィング
キーボード打ちにくい。
僕は絶対に怒られると思ってビクビクしながら会議室のドアを開けた。
そこには楕円形の机が置かれ、左右にずらっと帝国正規軍の将軍が座っている。
手前側に2席あり、右の席にはカイルが座っていた。どうやら召喚されたのは僕とカイルだったらしい。
僕はカイルに挨拶し将軍たちに会釈すると空いている席に座った。
一番奥の皇帝の席はまだ空いている。
全員が揃いしばらく待つと奥の扉から皇帝が出て来てその座席についた。
皇帝の後ろ両脇にはタブレットを手にした作戦参謀が立っている。
その作戦参謀が口を開く。
「作戦後状況報告を行います。
敵ニアヒューム侵攻軍は帝国軍主力100万の攻撃により殲滅を完了しました。
敵は母艦級12艦、搭載艦計60万艦の戦力での侵攻でした。
銀河腕を次元跳躍で渡って8H星系に侵攻。
星系を制圧すると母艦級10艦が短距離次元跳躍によって8G星系に侵攻。
残り母艦級2艦と先行した母艦級10艦から発進した搭載艦の1割にあたる5万艦が次元跳躍門を制圧し8B星系に侵攻しました。
よって8G星系に進行した母艦級10艦の搭載艦は9割の45万艦でした。
8G星系に次元跳躍アウトした敵は45万の搭載艦を出撃させ我軍100万艦と交戦、敵の殲滅に至りましたが我軍も2割20万の艦を失いました。
一方8B星系に向かった母艦級2艦と搭載艦10万、単独侵攻の5万の艦隊は8B星系防御艦隊により殲滅されました。
帝国軍主力は、そのまま8H星系に進出し敵上陸部隊を掃討いたしました。
以上、ここに敵ニアヒューム侵攻軍の完全殲滅を宣言します」
「みな良くやってくれた」
「「「「「「ははっ!」」」」」」
皇帝の労いに将軍達が頭を垂れる。
そして皇帝は僕とカイルの方に目を向けると、厳しい口調で問い詰める。
「さて、8B星系は2万艦の防衛戦力のはずだったが、どうやって母艦級2艦と15万の艦隊を殲滅したのかな?」
僕がカイルの方を向くと、カイルは震えていた。
カイルが8B星系を離れたことは次元通信で報告済みだし、合流した8A星系の予備戦力10万が良く解っている。
まさか僕単艦で15万の艦隊を殲滅するとは思わなかったからこその常識的な戦力集中だったはず。
僕だって殲滅出来るとは思わなかったのだから、カイルの行動を責めることは出来ない。
でも、それを皇帝にどうやって説明すればいいって言うんだ。
僕が困っているとカイルが徐ろに口を開いた。
「私は母艦級2、敵艦5万が8B星系へ侵攻中との報告を受け、2万艦での星系防衛は不可能との判断をしました。
それにより、8A星系の予備戦力への合流とハブ次元跳躍門防衛の遅滞戦闘により帝都侵攻を防ぐのが最善と判断し星系を離れました。
しかし、8A星系には敵は現れず戦うこと無く終わりました。以上です」
カイルが正直に話す。そして後は知らぬ事と僕に説明を投げた。
やれやれ。手柄をカイルに押し付けて知らんぷりしようと思っていたのに。
カイルが何もしなかったという悪いイメージにならなければいいけど。
彼の不興を買って敵に回したくないものだ。
これは僕も正直に話すしかこの場を切り抜けるのは無理そうだと観念する。
どうせ信じて貰えないだろうけど。
「8B星系で僕は専用艦をステルス化して敵を待ち伏せしていたんです、だ。
敵が星系の防衛戦力は逃げたと判断したのか、母艦級は搭載艦を出撃させなかった。
たぶん出撃収納の時間を惜しんで、さっさと8A星系に次元跳躍侵攻しようと思ったんでしょう。
これはチャンスだと思いましたので必殺兵器・反物質粒子砲で母艦級2艦を搭載艦ごと葬った。
そうしたら母艦級の周囲に展開していた護衛艦隊5万も爆発に巻き込まれてほとんど破壊された。
残敵は僕の専用艦の搭載艦で殲滅した。以上です、だ」
僕の変な口調に将軍達が僕を胡散臭そうに見ている。
僕はカイルの印象を良くするため、敢えて失礼な口調をしようとした。
ほらね。案の定、僕単艦での敵15万の殲滅なんて信用されてない。
僕が敵を逃したか、僕が敵の協力者で敵を隠匿していると思われてる。
別に手柄を認めて欲しいわけじゃないから、これでいいんだ。
しかし作戦参謀がタブレットを操作して資料を読み始めると状況が一変した。
「8B星系に派遣された分遣艦隊、第348艦隊司令のハワード伯爵の報告です。
8B星系に夥しい数の敵艦残骸を確認。母艦級2艦の残骸と思われる部品の数々が確認されています。
星系住人への聞き取り調査でも、天空に浮かぶ大爆発の閃光が2つ目撃されています」
ハワード伯爵GJ!
僕が格納庫を出て会議室へ向かい、皇帝が着席するまでの短い時間でまさかそこまで調べているとは。
「バカな! 本当に敵母艦級2艦と15万の艦隊を殲滅したのか! たった1艦で!」
将軍の1人が叫ぶ。
「いやー、隙だらけの母艦が搭載艦満載で目の前に来るとは運が良かっただけです。
もし搭載艦を出撃されていたら、時間稼ぎで少し引っ掻き回したら僕も次元跳躍で逃げるつもりだったからね」
将軍達がジト目で見てくる。
え? 何か変なこと言ったかな?
あ、口調変えるの忘れてたか!
「どうやら気づいていないのは本人だけのようだな。アキラ、お前が一番手柄だ。褒美として娘をやる」
「はいぃ?」
「嫁だ、嫁。これで俺の縁戚だろうが。つまり血筋に連なったということだ。皇位継承順だって変動しかねないからな」
拙い。なんとかしないと。この人やっぱり信長みたいな行動原理だよ!
もし僕の皇位継承順が上がってカイルが下がりでもしたら彼と険悪になってしまう。
それに真・帝国のみんなに何と言えばいいんだ。
「僕には嫁が、正妻がもういます! お嬢様を迎えるわけには……」
「別に側室でもいい。お前の血を帝国に入れろ。そして必殺兵器を帝国によこせ」
それが目的だったのか! 確かに反物質粒子砲は今のところ僕にしか扱えない。
せっかく神澤社長の専用艦にも搭載したのに、発射システムが作動しなかったんだ。
DNAによるロックじゃないかと推測されていたけど、僕の子なら使えるだろうということか。
さすが皇帝、武装に関する制約など、言わなくてもわかるんだな。
逆らえない。そこまで譲歩されて断ったら身の破滅だ。おそらく側室にするという選択肢も無い。
「謹んでお受けします。正妻として仲良く過ごします」
僕は皇帝に屈服した。まあ正妻は貴族からの嫁圧力緩和のための偽装嫁だったから大丈夫だろう。
こんな報酬を貰ってしまってカイルに申し訳ないと、僕がチラチラとカイルを見ていると、皇帝が徐ろに話しだした。
「カイル、おまえの行動は正しい。地方星系防衛より帝都防衛の方が重視されて当然だ。よくやった」
「ありがとうございます」
カイルがほっとしている。どうやら僕は皇帝に助けられたようだ。
だが、主戦場に参戦した第2から第4皇子の活躍は全く聞こえて来ない。
第4皇子が嫉妬すると面倒くさいな。
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