122 遠征編7 敵ニアヒューム
ノートPCの画面が見辛くて誤字修正が微妙になっています。
随時修正しますのでお許し下さい。
カイルの艦隊が戻ってくるか帝国軍主力の援軍が来るまで、僕は8B星系から動けなかった。
未だ敵の襲撃が終わったのか判断がつかず、防衛力の無いまま星系を放置するわけにはいかなかったからだ。
僕はその暇を潰すため、いや敵を知るために鹵獲した敵巡洋艦級を調べることにした。
敵艦の見た目は機械というより生物的なフォルムを持った何かだった。
材質は金属とシリコン、金属生命体といった外殻素材に網目状の金属とケーブルが詰まっていた。
僕は戦術兵器統合制御システムを使って工作艦を遠隔操作する。
工作艦はもしもの時のために次元格納庫に搭載していた。
その工作艦は30mクラス、腕は艦に比べれば大きいが指先がさらに分かれていて繊細な作業も出来る。
敵艦はエネルギー伝導系を破壊し行動不能にしているが、まだ電脳は生きている。
僕は工作艦を使い、敵艦の装甲を剥いで内部構造を調べる。
内部構造はエネルギー発生装置と思われるコアとそこから繋がる推進装置、エネルギー伝導ケーブルだろうか、ケーブルが各種武装に繋がっている。
僕は解剖するかのように工作艦を操り敵艦の内部を探っていく。
武装はエネルギーを生物的なレンズで収束させる高出力レーザー、敵艦をそっくりそのまま小型化したような内部に爆薬を詰めたミサイル、おそらく帝国の艦から奪った粒子ビーム砲がそのまま搭載されていた。
そして艦をコントロールする中枢には電脳に直結された人間が搭載されていた。
幸か不幸か、その人間は既に亡くなっていた。
僕が気密を破ったというわけではなく、装甲の破孔により真空に晒されたのはもっと前のことだ。
宇宙に出るのに宇宙服で守るわけでもない。本当に部品扱いなんだ。
「うわ。これは女の子には見せられないな……」
僕はその非人道的な状態に言葉を失った。
ただ生体部品として生かされているだけのその状態は、脳を活かすために必要な部分を残しただけという感じと言えば理解いただけるだろうか?
その元人間の生体部品に機械が纏わり付き栄養なり酸素を送っていて、逆に生物的に見える金属の電脳に頚椎から出たケーブルが繋げられていた。
もし8B星系が帝国本星防衛のために見捨てられていたら、住人はこうなっていたんだと思うと寒気がした。
しかし数十万の人間を生体部品にして銀河腕を渡ってきたとなると、隣の銀河腕の文明は根こそぎ制圧されてしまっているのだろうか?
それは旧帝国が版図を広げた先の同胞達ということだろう。
人類の天敵、相容れない存在。なるほど、これは人類にとって生きるか死ぬかの生存を賭けた戦いなんだ。
野良宇宙艦なり人類側の敵艦なら、そのまま鹵獲して部品にしたり無人艦にして活用出来るが、この敵艦は利用価値が全くない。
僕は敵艦から工作艦を離すと敵艦を30cm粒子ビーム砲で全てを焼き尽くし葬った。
記録は残した。実物は必要ないだろう。
僕は星域警備中の無人艦に対し敵艦の残骸をみつけたら電脳を破壊するように命じた。
敵艦の内部を見て、部品さえ集めれば復活しそうな予感がしたからだ。
部品は大量に浮遊している。
内部のケーブルが生き物のように蠢き部品を取り込み、敵艦が復活するところを僕は想像してしまったのだ。
「念には念を入れておこう」
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8B星系に援軍がやって来た。
8G星系で敵主力と戦っていた帝国軍主力の分遣隊だ。
これで8B星系の防衛は任せられる。
僕が重責からの解放にホッと胸を撫で下ろしていると、分遣艦隊旗艦から通信が入った。
『こちら帝国軍第348艦隊司令ハワード伯爵です。第6皇子アキラ殿下に皇帝陛下よりの召喚命令が出ております。
直ちに8H星系にお向かいください。8B星系の防衛は我らにお任せあれ』
『了解しました』
「召喚命令って所謂呼び出しだよね? 悪い意味の。僕は何か悪い事したかな?」
全く思い当たることがない。
だが遅刻して印象を悪くするのも問題だろう。
帝国軍主力は主戦場となった8G星系から、敵ニアヒュームに制圧されてしまった8H星系の解放に向かっていた。
あの生体部品を見てしまうと、8H星系の人々の安否に不安でいっぱいになる。
僕は8G星系ではなく、8H星系外縁に向けて次元跳躍を敢行した。
『こちら第6皇子アキラ、呼び出しに応!』
僕に向けて帝国軍主力80万――敵との総力戦で損耗した――から一斉にレールガンが発射された。
面での制圧射撃だ。通常動力では避ける余地もない。僕は次元跳躍を準備する。
「一番安全な場所はどこだ? あった!」
僕は帝国総旗艦の後ろに飛ぶ。
レールガンの弾体が到着するまで時間があったから出来たことだ。
僕は不敬だが皇帝が座乗する帝国総旗艦に5cmレールガンを向ける、というか艦首を向けると自然に照準が合ってしまうだけなんだからね?
『えーと、第6皇子アキラです。撃たないでください』
自分達が護る内側に次元跳躍アウトして来た僕の専用艦に殺気立つ近衛艦隊。
近衛艦隊の武装が一斉に僕の方を向く。緊張が走る中、皇帝が声を発する。
『やめろ! 先に撃ったのはこっちだ! すまなかったなアキラ。全ては誤解だ』
『誤解?』
『ああ、また敵ニアヒュームが次元跳躍アウトして来たと誤解したのだ。許せ』
『わかりました。帝国総旗艦の後ろに付いたこちらの失礼をお詫びします』
『ははは、もし近衛がお前を撃ったら、俺を撃ったか?』
『ご冗談を。とっとと逃げましたよ』
『そういうことにしておこうか』
一番の安全地帯だと思った場所が一番ヤバイ場所だった。
皇帝を怒らせていたら終わっていたところだ。
8H星系には要塞艦が派遣されていた。
今後はこの要塞艦と搭載艦3万が常駐し、5万の艦隊が帝国より派遣され交代でパトロールすることになっていた。
現在は帝国軍主力80万が遊弋し敵ニアヒュームの星系進入を監視している。
そのへ僕が次元跳躍アウトして来たので攻撃されたというわけだ。
いま僕は要塞艦の格納庫に専用艦を停泊させていた。
要塞艦の会議室に呼ばれているからだ。
こういった会議は艦隊通信や電脳空間の会議室でやればいいのに、皇帝はなぜか顔を合わせての会議が好きなようだ。
まあ怒られるのに通信やアバターでというのも間違ってるとは思うが……。
「嫌だなぁ。何を言われるんだろう。召喚命令後の不敬行為もプラスだもんな」
少なくとも帝国重鎮のお小言は避けられないだろう。
「気が重い。生身だと身を守る術もない」
僕は不安を抱えつつ皇帝の待つ会議室へと向かったのだった。
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