121 遠征編6 ぼっちの防衛戦
ご心配をおかけしました。
データ救出出来ました。
カイルの艦隊が次元跳躍門に入ると僕は直ぐに次元跳躍門を閉めロックした。
8A星系の戦闘配備が終了するまでは時間稼ぎをしたいからね。
そしてカイルを納得させるために出した5千艦を次元格納庫にしまう。
ここに艦隊がいるなんて判ったら敵が全力で攻めて来るからね。
僕も遮蔽フィールドを展開して姿を消すつもりだ。
敵が油断――機械生命体がするのかは知らないが――してくれれば、隙を突いて母艦級を破壊する。
敵はこの8B星系から母艦級の次元跳躍能力で8A星系を目指すはずだからね。
その母艦級が破壊されたら、敵が8A星系へ向かうにはハブ次元跳躍門攻略が必要になる。
ハブ次元跳躍門はセキュリティが厳しいので、ハブ次元跳躍門攻略前に帝国軍主力が援軍に戻って来れるだろう。
後は8B星系の人的被害を如何にして減らすか。ギリギリの見極めが必要となる。
予測では敵は15万、まともにぶつかったら次元格納庫内の無人艦5千は使い潰さないとならないだろう。
8H星系の次元跳躍門が制圧されてから半日、敵が8B星系の次元跳躍門手前の亜空間に到着した。
カイルは8A星系に到着。8A星系の予備戦力10万と合流し12万の艦隊で8A星系を守っている。
8G星系の帝国軍主力は損害を出しつつも敵50万(実質45万?)を殲滅しつつある。
僕らは8B星系がターゲットだと判明した時点で援軍要請を出していたので、時間さえ稼げれば援軍の見込みがある。
おそらく半日あれば援軍が来るはずだ。
僕は次元跳躍門にハッキングをかけている敵に対して電脳空間で嫌がらせをするべく、次元跳躍門のシステムに介入することにした。
少しでも時間を稼げれば8B星系を守れる可能性があるからね。
僕は次元跳躍門に取り付くと次元跳躍門のシステム端末を開きネットケーブルを直結した。
僕、専用艦の電脳、サブ電脳1、サブ電脳2と間に補助を入れて接続する。
僕の目の前に仮想画面による電脳空間が広がる。
僕はアバターになって次元跳躍門のシステムを目指す。
こちらは正規アカウントのため、何の妨害もなく次元跳躍門のシステムを図案化したグラフィック前に到着する。
その先では壁の穴から出て来た蟻人間が手に持った槍で必死にシステムを攻撃している。
おそらく蟻人間が敵のアバターだろう。
システムは蟻人間の攻撃を障壁で防ぎ、レーザーで蟻人間を撃ち殺している。
しかし蟻人間は次から次へと穴から出てくると槍でシステムの障壁を突く。
その行為が延々と繰り返されている。
するとダメージの溜まった障壁がガラスの様に砕けて壊れた。
システムの障壁が1枚突破されたのだろう。これは僕も介入するべきだ。
僕のアバターは蟻人間に近付くと手にしたビーム砲を撃ち込む。
そして蟻人間が出てくる穴まで押し戻すと穴から外へ全火力を発射する。
これでおそらく敵の電脳――あるのか?――に被害が出ているはずだ。
蟻人間の穴を潰すこと数十回、蟻人間の出てくる穴が増え、こちらにも攻撃して来るようになった。
システムの障壁もいよいよ後数枚といったところだろう。
僕のアバターは蟻人間の群れに一斉射撃をすると撤退を開始した。
いよいよ次元跳躍門のシステムが制圧される。
僕は接続を切り有線ケーブルを外すと専用艦に遮蔽フィールドを纏わせてステルス化する。
専用艦を次元跳躍門から離し、敵の進入を観察しやすい射撃位置を取る。
僕が発射位置にスタンバイすると同時に次元跳躍門が開かれ円形の次元境界面が鏡のように輝く。
鏡の面が波打つと艦が1隻進入して来る。おそらく斥候だ。
斥候艦は8B星系に待ち伏せが無いことを確認したことだろう。
続けて多数の艦が8B星系に進入して来る。
進入して来た艦は次元跳躍門の正面から外れると周囲を守るような配置を取る。
その数、およそ5万。推測通り8G星系に向かった母艦級が搭載する艦の1割が別行動をとっていた。
そして安全を確認したのだろう。母艦級が次元跳躍門から現れた。
その母艦級は直径100kmの円柱形で次元跳躍門ギリギリの大きさだった。
ステーション級要塞艦が全長・幅100kmの高さ20kmで次元跳躍門ギリギリの大きさだった。
だが、この母艦級は次元跳躍門の次元境界面とほぼ同じ円形の幅・高さ100km、全長250kmの円柱だった。
これは次元跳躍門を通過するためのギリギリを意図的に狙った形なのだろう。
その母艦級が2艦進入して来た。
チャンスだ。8B星系に抵抗する戦力が無いことを確認したため、母艦級は搭載艦を放出しない。
そのまま次元跳躍で8A星系に侵攻する気だろう。
僕が発射準備をしていたのは反物質粒子砲だ。
今回は前回発射した時のように手加減するつもりはない。
前回は反物質1個で威力を抑えたが、今回はフルチャージで撃つ。
母艦級さえ破壊すれば敵は次元跳躍で侵攻出来ない。
僕は反物質粒子砲をスタンバイし母艦級に狙いを定める。
反物質が対消滅反応炉から抽出され専用ケースに封じられると反物質粒子砲の薬室に運ばれる。
今回は2発のケースが用意されている。
ケースから反物質が薬室に移される。内向きの停滞フィールドで封印された反物質に運動エネルギーが付加され加速が始まる。
停滞フィールドの特性、低速では捕まえ中速では反射し高速では突破するという特性を利用し、ケースに捕まえ加速路で反射し加速、突破される寸前で解放する。
一条の光条が敵母艦級の中心部に吸い込まれていく。
反物質が母艦級の停滞フィールドを突破し装甲に当たると同時に対消滅し膨大なエネルギーを放出する。
今回はフルチャージ。母艦級は跡形もなく爆散した。
続けて次弾発射。2艦目の母艦級も為す術なく爆散した。
その爆発に護衛として周囲に展開していた5万の艦も巻き込まれる。
僕は残存艦掃討に向け次元格納庫の無人艦を発進させた。
程なく敵残存艦全艦を殲滅し戦闘は終了した。
とりあえず敵巡洋艦級1艦を鹵獲した。
「今回は偶然勝ったけど、次回はどうなるかわからない。退き時は常に頭に入れておこう」
僕は反省の言葉を独り言ち、次元通信を送った。
『こちら第6皇子アキラ。8B星系へ侵入した敵の掃討を完了した。脅威は排除した。以上』
僕は8B星系の人達の命を守ることに必死だっただけなんだけど、やり過ぎたことに気付くのはしばらく後のことだった。
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