115 領主編27 帝国の敵
『おまえはいいな。まだ遠征に呼ばれてないんだろ?』
僕が騙されきっていると思い込んでいる第4皇子ルーカスは、僕にいい顔をしようとやたら親切にしてくれている。
元第8、第9皇子領の復興支援にも協力してくれる。
自分で壊しておいて自分で援助するという無駄なことをやって悦に入っている。チョロい。
「持ち上げてプライドを擽ってやればもっと金を出すだろう」とは神澤社長の談だ。
利用出来るだけ利用して浮いたお金は地球人誘拐被害者の賠償金にまわしてやろう。
そうこうするうちにルーカスは兄貴風を吹かせるようになって、なんだかんだ僕に世話を焼いて来るようになった。
そんなある日、ルーカスが先のようなことを言って来た。
『遠征? なんですかそれは?』
『やっぱり知らなかったか』
ルーカスは僕が知らないことを見つけると得意になって教えたがるという癖があった。
まあ愛さんが禁則事項で教えてくれないことまでベラベラ喋ってくれるので重宝している。
今回もルーカスは優越感に浸って得々と教えてくれる。
『帝国が膨大な戦力を備えているのは知っていると思うが、それは何も皇子同士が争うためのものではない。
外敵と戦うための備えだ。お前の領地は辺境だから直接戦闘することは無いだろうが、上位皇子ともなれば皇帝陛下の遠征に随伴することもあるんだ』
『その外敵というのは旧帝国や野良宇宙艦とは違うの?』
『ああ、違う。帝国が国をあげて生存を賭けて戦う外敵、それが』
いきなり次元通信が切れた。
高度な帝国機密にでも触れる事を言おうとしたんだろうか?
それより次元通信が盗聴検閲されているということに恐怖を覚える。
第4皇子のプライベート回線を勝手に切れるとはどんな権力の持ち主なんだろう。
まあ、僕がターゲットじゃないから気にしないでおこう。
第1、第2、第3、第4の上位皇子達の戦力や経済力がとんでもないことが判ってきた。
だが彼らもその戦力を後継者争いだけに使っているわけではない。
帝国が正規軍まで揃えて戦う相手、その存在を僕は知らなかった。
そんな外敵に対し皇位継承権を持つ上位の皇子は戦う義務があるらしい。
その外敵の話を第4皇子ルーカスから聞いている途中で通信が切られた。
まだ僕には早いということなのか、血筋皇子じゃないから蚊帳の外なのか、想像を巡らせたけど何もわからなかった。
「まあ、余計な仕事を押し付けられる前に内政を充実させよう」
壊滅状態のダロン4だが、インフラ復興は急速に進み、食料の輸送も順調で生活するには不自由することがなくなって来た。
だが、住民が従事していた産業が破壊されてしまっている。
多くの住人が工業技術者であり、破壊された工場の再建など想像もつかない状態だった。
「そういや、彼らの所の建艦設備であるX母艦はどこにあるんだ?」
ダロン4の衛星軌道上にあったのは、ハブ次元跳躍門防衛用のステーション同型艦のダロン要塞と附属設備の工場衛星だった。
それらは第4皇子軍の集中砲火により破壊されていた。
だが既に自動修復に入っていて材料の鉱物さえ与えれば融合による修理と似たような方法で直るらしい。
その作業にダロン4の住人を従事させよう。
だが、肝心のX母艦が見当たらない。
僕としては工場母艦クラスの小惑星があると思っていた。
それが行方不明となっていた。
もしかすると次元跳躍で逃げているのかもしれない。
僕はそう思ってダロン4の難民代表に質問をしてみた。
「ここは工業惑星だと聞いていたんだけど、艦船を建造するドックはどこにあったんだ? 軌道上には見当たらないが?」
僕の言葉に難民代表は怪訝な顔をする。
そして何かに気付いたような表情をすると語りだした。
「ああ、ご存知なかったのですね。この惑星自体が工場なのです。
私どもは地下で自動製造された部品を組み合わせて地上の工場で組み立てているのです」
「つまり上モノの工場は組み立てスペースがあればいいのか?」
「はい。艦もカスタムオーダーを地上の端末で注文し、地下から完成品を受け取って納入するだけです」
「なら、上モノの工場建設は簡単に出来るんだね?」
「はい。以前のような生産力に戻すのに半年もかからないでしょう」
「生産出来れば、後は勝手に経済がまわると見ていいんだね?」
「はい。お任せください」
ダロン4の復興は案外早そうだ。
そしてその生産力が戦力増強に繋がる。
「よし工場惑星の主電脳に会いに行こう」
僕は地下へ降りると主電脳に接触し工場母艦と同じように支配下に置いた。
『アキラ様、ご命令を。何でも製造してみせます』
工場惑星の主電脳がまた僕のDNAに反応して服従したのだが、それと同時にリミッターが解除され、その製造能力がとんでもないことになった。
ステーション型の要塞艦が製造できる。工場衛星《要塞砲付き)も製造できる。
つまり軌道上の残骸から修理しなくても新品を製造できるということ。
地下で製造し、そのまま地下の次元跳躍門で軌道上の次元跳躍門に飛ばし宇宙空間に配置出来るらしい。
逆に資源も次元跳躍門から小惑星を取り込んでいるんだそうだ。
いっそ修復前のダロン要塞と工場衛星を材料として飛ばせば建造が早いかもしれない。
何このチート製造工場。
ルーカスも僕に渡したくなかったんだろうけど破壊するには勿体ないと思ったのだろう。
住人を取り込めば地下の工場のことはバレないという腹積もりか。
だが破壊工作をやりすぎて人心はルーカスより僕に傾いた。
想定外だっただろうな。
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しばらく内政に勤しんでいると、帝国に激震が走った。
敵勢力の侵攻。旧帝国でも野良宇宙艦でもないあの帝国機密指定の敵。
帝国は臨戦態勢に入った。上位4皇子が招集される。
そして僕も含めた第7皇子までも準備期間の後、帝都に来るように命令が下った。
そして解禁される敵の情報。
彼らは有機生命体を部品としか思っていない機械生命体だった。
人類の天敵。相容れない存在。どちらかを滅ぼすまで続く戦いの相手なんだそうだ。
「もしかして、帝国を転覆すると人類にとってマイナスなんじゃないだろうか?」
僕は帝国への見方を変えなければいけないのかもしれないと頭を悩ませた。
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