111 領主編23 嫁ーず動く2
貴族令嬢の専用艦と衝突して責任問題に出来るような艦となると軍は駄目だ。戦争になる。
ブコブコスキーといかいう男爵家の家令ぐらいが丁度いいんだけど、そんな人がうろついているわけもない。
軍から艦を払い下げられるような立場というと警邏隊か宙域管制の艦か……。
「ちょっと、ジェーンさん、何やってるのよ? キャリーさんを押さえるのを手伝ってよ!」
グラウル子爵令嬢マリーちゃんの専用艦がキャリーさんの専用艦を腕で掴んで必死に押さえている。
いや、その子はもう自由にさせた方がいいと思うんだけど。
「マリーちゃん、わたくしは旦那様のために身を削った作戦中なので邪魔しないでくださる?」
「何よ? 作戦って?」
あたいはマリーちゃんに衝突作戦を伝える。
「ジェーンさんはアホですか! そんなことで国際問題になったら迷惑するのは旦那様ですよ?」
ちょっとマリーちゃん、アホとはなんですかアホとは。
「アホとは聞き捨てならないわね。あなたたちノープランより行動するあたいの方がなんぼかマシか」
「だからアホだって言うんです。猪突猛進すればいいってもんじゃないんですよ?」
「なんだって? そういうことは代案を示してから言ってよ!」
「それより離しなさい! バーゲンの時間が過ぎてしまいますわ!」
『そこの3艦! 何をもめている! 航路の邪魔だ。速やかに退去せよ』
あたいたちの諍いを目にして警邏隊のパトロール艦がやって来た。
チャンスだ! あれなら旦那様が求める情報が得られる。
「ちょっと、どこへ行こうというのよ!」
「離しなさい! 千載一遇のチャンスなの!」
「わざとらしいからやめてーーーー!!」
動こうとしたあたいの専用艦をマリーちゃんの専用艦が押さえる。
と同時にキャリーさんの専用艦を捕まえていた腕が離れる。
「「あっ……」」
押さえられていた反動で急激な機動をするキャリーさんの専用艦。
その制御を失った進路の先にパトロール艦が……。
「いやーーーーーーーーー!!!」
キャリーさんの悲鳴が艦隊内通信に響く。
現場に急行して来たパトロール艦が制御を失ったキャリーさんの専用艦に突っ込む。
飛び散る豪華な装飾品。
口を開けて見守るあたいとマリーちゃんの目の前で作戦通りの事故が起きた。
「結果オーライ?」
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私達はウグリチ3の軌道上にある宇宙港施設に専用艦を収容し応接室に通されていた。
キャリーさんの艦とパトロール艦は未だ分離出来てないため一緒に収容されている。
男爵領で子爵令嬢の専用艦に星系警邏隊のパトロール艦が突っ込んだ事故だ、扱いに苦慮することが容易にわかるからこその応接室だ。
警邏隊と事故なんて一般市民なら取り調べ室に入れられるところだ。
「それでは、あなた方がバーゲンの言い争いでもめている所にパトロール艦が高速で接近。
子爵令嬢を押し留めていた腕が外れてしまい艦がコントロールを失った。
その結果があの事故ということですね?」
「そうですわ」
キャリーの視点ではまあ嘘ではないな。確かに偶然が偶然を産んだ事故だ。
「わかりました。今回は不幸な事故として処理しましょう。令嬢の専用艦の修理費は此方で持ちますので請求してください」
「では、そちらのパトロール艦の修理費は私が持ちますわ」
「それではパトロール艦の被害状況を見聞させてもらおうか」
よし計画通りだ。
「いえ、それには及びません。こちらはほとんど損傷しておりませんし老朽艦ですので」
「は?」
「はい?」
拙い。想定外だ!
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キャリーさんもジェーンさんも困ったものです。
私が一番年下だからって妹扱いで軽く見て、一番の知性派が私だってことがわかってないんだわ。
キャリーさんは何ですか! 旦那様の役に立つためにこの星系にやって来たのにブランド品のバーゲンに目が眩んで。
「ちょっとキャリーさん。ブランド品の買い物は後にしてください!
ダメです。惑星へ降下するのは許可がいるんです!」
私はキャリーさんの専用艦を必死で押さえます。
ジェーンさんもジェーンさんで、旦那様の迷惑になりかねないザルのような作戦を実行しようなんて脳筋にもほどがあります。
「ちょっとジェーンさん、何をしようとしているの?
え? 作戦? アホですか! そんなザルのような作戦で」
え? パトロール艦? ほら騒ぎになっちゃったじゃないですか!
あ、ジェーンさんパトロール艦をターゲットにしてるんですか?
「ちょっと、どこへ行こうというのよ!」
私はジェーンさんを必死に止めようとしたのに……。
それが仇となってキャリーさんの艦がパトロール艦と衝突するなんて……。
うん「結果オーライ?」だ。
ところで、どうやってパトロール艦を調べるつもりなんですか?
え? 修理費を此方が持つから被害状況を見聞させろって?
いや無理無理無理無理カタツムリでしょ。
ほら、断られた。
だから知性派の私が付いて来たんだからね?
私は自身の専用艦の戦術兵器統合制御システムを起動しキャリーさんの専用艦とデータリンクする。
旦那様の戦術兵器統合制御システムはS型だけど、私の専用艦のはC型だ。
それでも許可されている艦とならデータリンクして制御が可能だ。
続けて旦那様の専用艦と次元通信を繋ぐ。
キャリーさんの専用艦で接触状態のパトロール艦を各種センサーで情報収集、そのデータをこっちでは処理出来ないので旦那様の専用艦に送る。
これで目的は達成出来るんじゃないかな?
どう? 私が付いて来てよかったでしょ?
「ジェーンさん、キャリーさん、それではお暇しましょう」
「いや、まだ目的が……」
ジェーンさんが慌てて口を噤む。ここで自白するわけにはいかないものね。
「ご迷惑をおかけしたのだから、買い物はまた後日にしましょう」
私は目で合図を送って席を立つ。
「万事上手く処理出来たのですから」
もう長居は無用です。
2人を引きずってでも帰ります!
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「ダロン4産の艦の情報が手に入ったんだって?」
「はい。旦那様の専用艦にデータを転送してあります」
マリーが得意げに報告する。
「私の専用艦が身を犠牲にしてサンプルを採取しましたわ」
キャリーも手柄を主張する。
「全てはわたくしの作戦なんだからね?」
ジェーンも黙ってない。
「みんなよくやってくれた。でも、危険は冒して欲しくなかったな」
「ごめんなさい。旦那様♡」
(((よし、これで今夜は♡)))
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