104 領主編16 傭兵
本日2話投稿です。前に閑話があります。
俺はマイケル。某A国を拠点としている傭兵だ。
SFCという宇宙戦艦を育てるゲームに嵌まって、そのプロリーグであるSFOにプロゲーマーとして参加した。
だがそこはリアル宇宙戦争の戦場だった。
お子ちゃまは電脳空間で模擬戦に興じているが、俺は命をかけた戦場に身を置き巨万の富を稼いでいる。
どうせ俺は地球でも戦場を渡り歩くしか能がない男だ。
SFOはまさに俺のホームグラウンドだった。
その発進補給基地であるステーションが攻撃を受け、宇宙の彼方にあるアノイ要塞に避難して来ても、俺の生活は変わらなかった。
戦場に出て敵を倒し収入を得る。そこに地球奪還という任務が加わっただけだ。
だがそれはSFO代表、宇宙人のプリンスによる地球人誘拐の隠蔽工作だった。
それが発覚し、プリンスの手の者との戦争が起きた。
俺は帝国第13皇子プリンスに対抗しうる、地球人の帝国第6皇子アキラに従い戦場を渡り歩いた。
アキラはこの戦闘に於いてもステーション基準の報奨金を出してくれている。
その点で俺の生活は全く変わっていなかった。
だが最近その生活が変わりつつある。
アキラが強すぎて敵が攻めて来なくなったのだ。
アキラ自身も地球人奪還と内政に力を注ぎ、自ら戦争をしかけることも無くなった。
平和、それは傭兵を殺す暇を生む要因だった。
「アキラよ。暇でかなわん。何か良い戦場は無いのか?」
「傭兵さんか。戦いはまだしばらく先だと思うよ。プリンスとケインのルートに仲間や親玉がいるはずだから、そことの戦争は不可避だと思うんだけどね」
「そいつらとの戦いはいつになるんだ」
俺は禁断症状にも似た焦燥感でアキラに詰め寄った。
「今は自主的に地球人を返してくれる人達の反応待ちなんだ。その後、理由もなく返還に応じない連中と軍事力を背景にした交渉になる。その時が傭兵さんの出番だよ」
「待ちきれん。地球から呼んだ傭兵も戦いの場が無くて苛ついているぞ」
「うーん、困ったね。今ある仕事は小惑星からの鉱物採取か野良宇宙艦の迎撃ぐらいしかないね。今は専用艦の改造でもして英気を養ってもらうしかないんだよね」
「傭兵は常に武器を整備し使える状態を維持しておくものだ。長期のドック入りなど許容出来ん」
「ドック入りの最中は艦をレンタルしてもいいよ? 最新鋭の無人艦が有人コントロールも受け付けてるから」
最新鋭艦か、興味はあるが使い慣れた武器には代えがたい。
俺が悩んでいるととったのかアキラが最新鋭艦を勧める。
「最新鋭艦は工場母艦が僕のDNAから武装を製造したからGバレットが撃てるよ。それが1000艦あるからみんなで使ってみる?」
「是非お願いする!」
あのGバレット装備なら乗るしかないわ。
俺は二つ返事で最新鋭艦のレンタルを決めた。
最新鋭艦の諸元は以下。
『AK0001』
艦種 重巡洋艦
艦体 全長250m 高速巡洋艦型 2腕
主機 熱核反応炉C型 高速推進機C型
兵装 主砲 長砲身5cmレールガン単装1基1門 通常弾 100/100 特殊弾 20/20
長砲身20cmレールガン単装1基1門 通常弾 300/300
副砲 20cm粒子ビーム砲連装2基4門
対宙砲 10cmレーザー単装4基4門
ミサイル発射管 なし
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板
耐実体弾耐ビーム盾E型 1
停滞フィールド(バリヤー)D型
電子兵装 対艦レーダーC型(射撃補正装置付き) 広域通信機D型
空きエネルギースロット 1
状態 良好
一般的な重巡洋艦に晶羅の専用艦で有名になった長砲身5cmレールガンを装備。
Gバレットを20発搭載し発射可能。しかし特殊弾の製造能力は無く補給は晶羅の専用艦からの譲渡のみである。
侵食弾と跳躍弾はシステムの都合上晶羅の専用艦から特殊弾を譲渡し、さらにそのコントロール下でなければ撃てなくなっている。
また帝国が領主領建造艦に強いていた、レールガンの弾丸搭載量の制限が撤廃され、搭載量が大幅に増えている。
搭載量制限は帝国が反乱を恐れ、必殺兵器であるレールガンに強制的に使用制限を設けたものだった。
帝国艦全般に渡る使用制限であり、晶羅の皇子認定により晶羅の支配下のみその制限が撤廃された。
その後初の新造艦が工場母艦による、このアキラ専用護衛艦(最新鋭艦)だったのため、晶羅以外がその恩恵に与ることが無かったのだ。
反応炉も高性能なため、エネルギースロットが1余っている。
これによりまだカスタマイズの余地が残されている。
「Gバレットが20発か。戦艦でも撃破可能だな。それにエネルギースロット1で追加武装も可能だ。
長砲身20cmレールガン1門追加でも20cm粒子ビーム砲連装1基2門追加でもいける。
速度を犠牲にすればミサイルも搭載出来る。拡張性の余力が凄い」
俺は最新鋭艦のスペックに惚れ込んでしまった。
「俺の専用艦いらなくね?」
もしこの艦に俺のノウハウを蓄積した俺の専用艦の電脳が搭載出来たなら最強と言えるだろう。
そうか、電脳の融合。やってみる価値はあるかも。
「アキラよ。もしもだが、俺の専用艦の電脳をこの最新鋭艦に搭載できたら、俺の専用艦ってことだよな?」
「そうなるかな。でも丸々1艦分の部品代は請求することになるよ?」
「おまえ、プリンスみたいに俺たちを借金漬けにするつもりか!」
「そこはビジネスだからね。そうだ。地球軍の士官になってくれたらあげてもいいよ?」
「アキラ、抜け目ないな……」
俺は真剣に悩んでしまった。
この最新鋭艦が俺の専用艦になるのは拭いがたい誘惑だった。
「わかった。士官になろう。ただし融合が成功したらだからな?」
「それは絶対成功するって愛さんに確認済みだよ」
そして、完璧な融合が完了した。
カスタマイズは長砲身20cmレールガン1基1門の増設。
傭兵は常に武器を整備し使える状態を維持しておくものなのに2日も待ってしまった。
最新鋭艦は俺の専用艦として過去に蓄積した戦闘データが移植されていた。
他にも俺と同じ行動に出た傭兵が4人。
奴らもGバレットと最新鋭艦の誘惑に勝てなかったようだ。
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俺はいま慣熟航行でアノイ要塞にある次元跳躍門前の宇宙空間に居る。
例の同僚4人も一緒だ。
彼らのカスタマイズは20cmビーム砲連装1基2門増設を選んだ者1名と、長砲身20cmレールガンを降ろし長砲身30cmレールガンに換装した者が1名。
ミサイルを増設し迎撃ミサイル制御用のサブ電脳を搭載した者が2名だった。
皆、自分の専用艦のスタイルを踏襲したようだ。
標的を放出し実弾射撃演習を行う。
Gバレットは支給品なのでもったいなくて撃てないが、5cmレールガンの通常弾は大量にある。
全員一通り武装の試射を終える。
その時アノイ要塞から緊急連絡が入った。
『敵侵入警報、速い、発進中の艦は任意に迎撃に移行せよ!』
俺が次元跳躍門の方を見た時には、既に敵艦隊が次元跳躍門面から出てくるところだった。
識別信号赤、5艦。
「久しぶりの獲物だ! 狩るぞ!」
「「「「おう!」」」」
俺達は飢えた狼の如き速度で敵艦隊に襲いかかった。
俺達の接近を知った敵艦隊は俺達に正対するとレールガンの発射態勢に入った。
そのレールガンを見て俺は叫んだ。
「敵、レールガン、Gバレットの可能性!」
そう奴らも長砲身5cmレールガン装備だったのだ。
敵艦隊がレールガンを撃つ。
俺らもレールガンで弾体を迎撃する。
もちろんこっちの弾体はGバレットだ。
2つの艦隊の中間でこちらのGバレットの重力が増す。
その重力に引っ張られて敵のGバレットと弾体同士が当たりお互いがエネルギーを放出する。
Gバレットを迎撃されるとは思っていなかった敵にこちらのサブウェポンが火を噴く。
20cmレールガン、30cmレールガン、20cm粒子ビーム砲、ミサイル。
そして追加のGバレット。次元跳躍門近くの重力異常とGバレットによる重力異常を経験で捻じ伏せレールガンの弾体が敵艦隊に迫る。命中する。
俺達は敵艦隊の迎撃に成功した。
5cmレールガンで敵艦の戦闘能力を奪う。
俺達は傭兵だ。敵艦を拿捕鹵獲することで金に替える。
撃沈しては意味がない。
こうして俺達は久しぶりの獲物と戦闘の高揚感を得た。
「え? 捕虜?」
何やら面倒事がやって来たようだ。
そこは俺達の仕事じゃない。
次元跳躍門による重力異常の影響を加筆しました。
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