010 修行編10 電脳戦
ミッドナイトからの続きです。R15になります。
レンタル艦10番の電脳が敵艦の下位電脳にハッキングをかける。
その様子が目の前の仮想スクリーンに表示されている。
所謂ところの電脳空間の映像化といった感じだ。
空間には、データの流れのライン、各種データの塊、防壁といったものがグラフィック化されている。
その空間をレンタル艦10番のアバターが飛んでいる。
アバターはシルバーメタリックなロボット少女といった出で立ちで、左腕にドリルを持ち右下腕部の外側にレーザー砲がついている。
左上腕部には小さな盾もあり、背中にはスラスター付きのランドセルを背負っている。
その推進力で加速し、両脚の外側にあるスラスターで器用に回避運動をしている。
「これは武装少女ってやつだな」
そのアバターが僕の身体制御にリンクして動いている。
レンタル艦10番の電脳が自動制御し、そこに僕の操作が上位命令として優先介入する感じだ。
僕はR10アバター(今後こう呼称する)を敵の防壁に接近させるように意識した。
スラスターが噴射し、R10アバターは防壁に接近する。
僕は右腕を上げレザーを防壁に向けて撃つ。
敵の防壁がしばらく抵抗するが、ついにガラスのようにパリンと割れる。
実際にはなんらかのプログラム的な攻防があったんだろうけど、視覚には絵的な現象として表現される。
防壁を突破しラインをたどる。
それを繰り返すうちに防壁の向こうに敵の電脳と思われる脳みそのオブジェが現れた。
電脳戦はR10アバターが圧倒的有利。このままなら難なく敵の電脳を屈服させられるだろう。
そう確信した瞬間に事は起こった。
爆発音がして無数の衝撃がレンタル艦10番の艦体を揺るがす。
爆発音がするということは、こちらの艦体に直接爆発物が当たったか、繋がっている敵側が爆発したかだ。
そうでなければ真空の宇宙空間で音は伝わらない。
爆発後の衝撃音からすると、おそらく後者だろう。
「自爆しやがったのか!」
僕は焦ってレンタル艦10番に被害報告と外周監視を命じる。ハッキングは中断だ。
艦の被害は無数の岩塊が衝突したことによる装甲と一部センサーの破損で航行に支障なしだった。
センサーの破損により精密探査が不能になったり外周監視に穴が出来たが、幸いレーダーが生きていて、外部カメラも敵艦をとらえていた。
どうやら敵は隠れ蓑にしていた岩塊を爆破分離したようだ。
その岩塊が四方に飛び散りレンタル艦10番の停滞フィールドを破って艦体にぶつかったということらしい。
僕は頭を抱えた。艦の被害は自分持ちというレンタル規約を思い出したからだ。
レンタル艦10番にダメージコントロールの優先を指示する。
だが、この指示が仇となった。航宙士の指示は最優先。他の作業を中止してでも行わなければならない。
その時、僕の脳にガツンと衝撃が走った。
目の前の仮想空間を見るとR10アバターが茨の蔓に巻きつかれて拘束されていた。
そして虫のようなグラフィックで表された敵の攻性防壁が、僕の脳を示すグラフィックに攻撃を仕掛けていた。
そう、レンタル艦10番は敵艦とネットケーブルで直結したままだった。
そのレンタル艦10番の電脳と僕の脳は直結状態だ。
僕は電脳空間で敵と対峙していたR10アバターを、よりによってダメージコントロールのために活動停止させてしまったのだ。
その隙をついて敵が逆ハックを仕掛けて来ているというのが現状だ。
僕は小さなミスで人生最大の危機を迎えてしまった。
元々電脳の性能で言えば敵艦の方が優秀だったはずだ。
向こうは200m級(岩塊が離れた後の観測結果による)で、こっちは30mの小型艇だ。
主電脳が破壊されて下位電脳が相手だというのが唯一の希望だが、こちらはR10アバターを拘束されてしまい電脳の補助が受けられない。
僕の脳vs敵の下位電脳という戦いになってしまった。
こんなので勝てるのだろうか?
「まあ、こっちも死にたくないから、やるしかないわな」
僕の脳には防御プログラムも攻撃プログラムも無い。
だから相手にイメージをぶつけるしか方法を思いつかない。
まず脳をガンガンぶん殴ってくる敵の攻性防壁にイメージを送る。
「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」
「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」
「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」
「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」
「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」「破壊」
敵の攻性防壁を表す虫のグラフィックが崩れ去った。案外いけるもんだ。
拘束されているR10アバターの前に出る。
「ん? これが僕のアバター?」
そこには女の子のアバターが表示されていた。
女っぽい男ではなく女の子だった。まあ構ってる暇はないので無視して先に進む。
「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」
「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」
「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」
「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」
「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」「威圧」「破壊」
威圧もかけると進行スピードが上がった。
やってみれば、なんでもいけるもんだ。
しばらく進むと先ほどの敵下位電脳の脳オブジェに辿り着いた。
破壊よりも服従だろうとイメージする。
「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」
「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」
「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」
「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」
「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」
「威圧」「侵食」「服従!」「威圧」「侵食」「服従!」
その時、横にR10アバターがやって来た。R10アバターを拘束していた茨の蔓が消えたようだ。通信が入る。
『提督コマンドが使用可能です。発動しますか?』
僕は迷わず提督コマンド(何だか知らないけど有用そうなので)の発動をイメージする。
そして頭の中に浮かんだ台詞を叫ぶ。
「提督コマンド。最上位命令。ナーブクラック、絶対服従!」
その台詞と同時に光の奔流が敵下位電脳の脳オブジェに突き刺さる。
敵下位電脳の脳オブジェは震えて恭順を示した。
ここにやっと敵艦拿捕が成立したのだ。
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