101 領主編13 地球人奪還1
4箔5日の海洋リゾート旅行を終えて帰ってきた僕はカサカサになっていた。
毎晩交代で襲撃してくる肉食獣に、応戦する間もなく蹂躙され、倒れた所を今度は優しく慰められた。
得難い経験を得たが、失ったものも大きかった。
菜穂さんは流石に大人だからスルーしてくれたが、残りメンバーと楓が目を合わせてくれない。
護衛が護衛じゃなかった。ラーテルという最強生物に組み敷かれてどうすれば良いっていうんだ。
仮初の嫁と妹は熱りが覚めるまで時間がかかりそうだ。
特に紗綾は怒っていた。毎晩個室でドキドキしながら待っていたらしい。
「何を?」と言ったら殴られた。あれは拙かった。
格闘技の練習は大変だ。(おい)
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アノイ要塞に帰ると一つの調査結果が出ていた。
【地球人誘拐に関する報告書】
ステーションに残された航海記録や公式記録を調査した結果、僕達の時と同じようにステーションが他星系へ移動した記録が残っていた。
その前後でSFOプロゲーマーとしての活動記録が停止している人達、これが誘拐された地球人であろうと推測された。
そこに僕の姉貴も含まれているのは覚悟していたが、それが現実になるのは辛いものだ。
「データを見る限り、定期的に誘拐したというより、欲しいターゲットが集まったタイミングを見計らったという感じかな」
そこには誘拐の定期性は無かった。
SFOが開始されてから、スターゲーマーが現れては消え現れては消えしていた。
これらスターゲーマーは大金を稼いで引退したものだと思われていた。
しかし実際はプリンスに誘拐され星の彼方へ連れ去られていたわけだ。
VRゲームとしてSFCが発売されプロゲームSFOが開始してから5年。
その間に誘拐された地球人は競技人口の少なかった初期は少なかったものの、競技人口が増えるのに比例して増え続け、合計約4千人に登ると推定されている。
「古いものほど追跡調査に時間がかかる。まずは直近の誘拐、姉貴が巻き込まれた誘拐から調べるべきかな」
姉貴が失踪したと把握されたのは、SFO休暇を取った1週間が過ぎても、会社に出社しなかったことからだ。
両親が亡くなった時のバッシングの影響で、姉貴が極力個人情報を秘匿していたため、会社が僕に接触することもなかった。
また僕も姉貴が居なくても普通のことという、ぼっち生活をずっと続けていたため失踪に気付かなかった。
そして終業式の日に担任の高田教諭から姉貴と連絡がとれないと言われ、僕も失踪に気付いたわけだ。
おそらく日付的に姉貴が休暇を取った1週間、その間でステーションが移動したのが地球時間の6月13日。
つまりその日が誘拐日だろう。
目的地で1週間の引っ越し日をとり再び地球に戻って来て、そして入れ替わりで僕がSFOに参加する。
それが7月20日。ステーションがそれに間に合うように帰って来るには、往復30日以内に行ける場所が目的地だ。
当然アノイ要塞でないことは把握済みだ。
それは何処なのか? ステーションの航法データに答えがあった。
「惑星ブライビー4のハブ次元跳躍門か。地球次元跳躍門からは11日の距離なら、計算が合うな」
どうやら誘拐先を見つけたみたいだ。
「愛さん、惑星ブライビー4の惑星領主とブライビー星系の星系領主は?」
「はい。惑星領主はブライビー男爵で、星系領主は第10皇子殿下です」
「その第10皇子はプリンスの何だ?」
「現皇帝陛下を父に持つ兄です」
「父と強調するからには腹違い?」
「そうです」
腹違いだとあまり仲が良くは無さそうだな。
だがプリンスが便宜をはかるぐらいには近い存在か。
「第10皇子の戦力はわからないよね?」
「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」
「支配星系は?」
「主星系のケイン星系、ブライビー星系、ドゥーム星系、ジェースト星系です」
「それは言っていいんだ」
「帝国の国土地理院に登録された公開情報ですので」
「ああ、じゃあ僕のエリュシオン星系も登録しないとならないな」
「AKR1~12含めて既に登録済みです」
「仕事が速いな……」
「先に登録した者に権利が発生しますのでスピード勝負なのです」
「あ、それは公開拒否出来るの?」
「出来ます。晶羅様の許可待ちで非公開にしてあります」
「なら非公開のままで」
「わかりました」
主星系の存在は秘匿しておくべきだよね?
しかも遺跡レベルの古い次元跳躍門があるんだし。
それとエリュシオン星系の次元跳躍門は太陽系のハブ次元跳躍門と直で繋がるハブ次元跳躍門だった。
しかも跳躍時間が5日と近い。これで地球からの移民も移動が楽になる。
それまでに想定していたのは太陽系からアノイ星系まで2週間、カプリース星系まで1日、エリュシオンまで3日で合計18日かかるはずだった。それが5日だ。
さらにアノイ要塞から地球までが9日に短縮された。
ハブ次元跳躍門様様だ。
今後の仮想敵である第10皇子の星系は4つ。こちらと比べれば生産力はおそらく半分以下だろう。
同盟相手がいる可能性があるが、その同盟相手であろうプリンスを見捨てたことから、あまり繋がりは強くないのだろう。
自分の事で精一杯なのかもしれない。
もっと詳しく調べるためにはどうしたらいいんだろうか?
ブライビー男爵を善意の第三者に認定して地球人のその後を問い合わせてみるか。
それで反発するなら黒、しらばっくれるならグレー、詳しく教えてくれる或は地球人を返還してくれるなら白だろう。
ちょっと揺さぶりをかけてみるか。
「愛さん、公式文書の書き方を教えて。ブライビー男爵にブライビー星系に連れ去られた地球人の事を問い合わせたい」
姉貴奪還には諸々の危機で時間がない。藪蛇になるかもしれないけど動くしか無い。
新たな戦乱の予感がするが、地球人奪還は責務だ。避けるわけにはいかない。