093 領主編5 戦後処理
「ファム5の伯爵館は、もぬけの殻だったんだね?」
「はい、家族含めて誰もいませんでした」
「家族は逃がしたってことか……。なんで一緒に逃げないかね……」
僕はタタラ4の宙域でファム5派遣艦隊からの報告を受けていた。
ダグラス伯爵領のファム5には伯爵の勢力は居なかった。
「領民も協力的で施設の破壊も家畜の処分といった妨害工作もありませんでした」
「わかった。ファム星系は防衛艦隊を1000配置して制圧完了とする」
隣にある僕の直轄領ファム4も攻撃を受けることなく無事だった。
ダグラス伯爵も仕事に対しては誠実で真面目だったのだろう。
これでダグラス伯爵領ファム5は僕の直轄領になった。
「工場衛星は当分使えないんだね?」
「はい、メイン反応炉がダウンしていて操業停止状態です」
「工業製品製造の要が使えないか……」
一番被害が大きかったのはタタラ4衛星軌道の工場衛星だった。
いや、僕が破壊したんだけどね。
工場衛星はステーションよりも大きいが工場母艦(野良宇宙艦の巣)よりは遥かに小さい。
工場母艦という名前にしたのが過小なのか、工場衛星という名前が過大なのかは判らないが、イメージ的には逆転してしまっている。
「要塞砲を撃つところだったんだから仕方ない。直るのか?」
「はい、時間が必要ですが、なんとかなります」
工場衛星のスタッフはダグラス伯爵に脅されていただけで、心から協力していたわけではなかった。
逆に徴用と称して盗まれた物品の数々に腹を立てているようだ。
そのため、解放軍である僕達に協力的だった。
「工場衛星に搭載された要塞砲のエネルギー逆流でメイン反応炉がダウン。
強制排出されたエネルギーで伝送系に被害が出ています。
発射されるべく圧力を上昇させていた破壊エネルギーが、その圧力で逆流したのだからたまったもんじゃありません」
それにより、工場衛星の生産施設が稼働できなくなっていた。
(ごめん、それ破壊したの僕です)
「そして要塞砲を制御していた司令室も破壊され修理が必要です」
(それも僕です)
「他にもダグラス伯爵は建造中の艦や各種兵装を奪って行きました。
そこには帝国よりもたらされ製造中だった新兵器も含まれていました」
「新兵器?」
「反物質粒子砲です。対消滅反応炉を搭載している艦の反応炉から反物質を流用し発射する兵器です」
「それはまた物騒な兵器だな……」
もし僕らが次元跳躍門から星系に突入していたら、その新兵器の洗礼を受けていた可能性が高い。
おそらく、この新兵器があったからダグラス伯爵の意思は反乱に傾いてしまったのだろう。
「危なかった。工場衛星が再稼働したら味方に新兵器を配備しないとならないな」
ダグラス伯爵の艦隊を過小評価していたことに僕は寒気を感じた。
戦争で犠牲を出さないわけにはいかないのは解っているけど犠牲が多くなるのは避けたい。
ここが僕の弱点になるってシイナ様に指摘されていたことを思い出した。
(甘いのかな。僕は。だから社長が回収艦を葬ってくれたんだろうな……)
今後この新兵器は僕の敵となる連中の艦隊には装備されていると考えなければならない。
対消滅反応炉を持つ艦が少ないから数は多くないだろうが脅威は脅威だ。
対抗手段を考えることと、こちらも新兵器の配備を進めなければ……。
「我らをこのまま工場衛星で使っていただきありがとうございます。
我らの恭順の証として、こちらをお納めください」
彼ら工場スタッフから提供されたのはジェネシス・システムというものだった。
これは所謂テラフォーミングを行うシステムだ。
ハビタブルゾーンにある惑星を居住可能な状態にするという目的で使用される。
アノイ星系ではアノイ2が居住可能であるが環境が厳しすぎる。
おそらくアノイ2をリセットして作り直してしまおうという考えで用意されたものだ。
アノイ要塞をアノイ2に配置し調査団を入れていることからもそのように伺える。
僕としては既に生態系の成立している惑星でそれはしたくない。
ならばハビタブルゾーンにあるもう1つの惑星、アノイ3をテラフォーミングしてしまおうという手段も有りだ。
『データを我に分けてもらえないか』
「こちらの工場に製造データをもらっても良いかな?」
「はい、構いません」
工場母艦と呼称している野良宇宙艦の巣は、工場衛星の上位存在だ。
今は宇宙艦ばかりを製造しているが、設計データを渡すだけであらゆる物を製造する能力があった。
工場母艦は工場衛星のデータを喜んで吸い上げてジェネシス・システムも量産態勢に入っていた。
他にも次元跳躍門の設計データがあった。
これにより僕は新領地開拓で他星系の制圧が可能となった。
他星系に次元跳躍で到達、次元跳躍門を設置すれば領地を拡大可能となる。
当然、無人の星系を目指す。そこなら侵略じゃないよね?
「惑星ウェイゼン4、制圧完了しました」
「ご苦労。後の管理も任せる」
「「「はっ」」」
アノイ要塞3領軍の分遣隊からも報告があった。
惑星ウェイゼン4は、農業惑星で野菜や穀物を生産している。
その農地や管理する領民も含めて3領主に分割して与えた。
どうせ僕が支配しても彼らに食料を分けることになるのだから、彼らに全てやってもらっても同じだからね。
戦後処理も恙無く終えられた。
丁度良い品も手に入れたし、次は領地防衛の方針と領地拡大を検討するかな。
評価ありがとうございます。
最新話の下の方に評価欄がありますので、評価がお済みでない方はポチっとしていただけると作者の励みになります。