000 プロローグ
ミッドナイトに投稿していましたが、長くエロが出て来ないためR15に軌道修正して移籍することにしました。
読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありません。
この作品は半角文字を使うと投稿文字数エラーが出てしまい投稿できないという現象に悩まされたため、英字や数字を全角文字で書いています。
目が覚めるとそこは白い部屋だった。
僕はベッドから上半身を起こして部屋の中を見回す。
部屋の中には僕が寝ていたベッドしかない。
周囲では材質の良くわからない壁がぼんやり光っている。
ふと違和感を覚え、出入口と思われる扉が無いことに気付く。
(うん、お約束のあれだな)
僕はやっちまった感を胸に抱きながらベッドに横たわり神様の登場をしばらく待つことにした。
『お目覚めですか?』
唐突に声が空間に響く。若い男の声だ。
なんだ、女神じゃないのかよ。
脳裏に不満が過ったが、僕はそれを隠して単刀直入に聞く。
「神様なのか? もしかして異世界転移なのか?」
『フフフ、日本の方はみなさんそう仰りますね』
笑いながら男の声が答える。
『残念ながら神様ではありません。そしてこれは異世界転移ではなくアブダクションです』
「なんだってーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」
僕はパニクってつい叫んでしまった。
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僕、八重樫晶羅は、この日まで平和な高校生活を満喫していた。
身長165cm中性的な外観で女性と間違われることもあるが、わざわざ男よりにすることもなく、むしろ女性グループに違和感なく溶け込める容姿に感謝すらしていた。
女好きだからである。女子間では身体的なコミュニケーションも盛んで、そこに紛れ込み巫山戯てお互いにタッチできるという環境は天国だった。
あえて制服のカワイイこの私立高校を選んだのも、女生徒比率が倍もあるという環境を狙ってのことである。
その高校一年の夏休みを迎えようという終業式の日、僕は担任の高田教諭に職員室脇の談話室に呼び出された。
高田教諭の外観はモブなので省略する。
「八重樫、まずいことになった」
担任が深刻な顔をして話しはじめる。
僕は怪訝な顔をして担任の言葉に耳を傾ける。
「おまえ、入学金未納で除籍、悪くすれば退学になるかもしれない」
「はぁ?! なんでだよ高田先生!」
僕は担任に詰め寄る。
話を要約するとこうだった。
この私立高校は合格した際に入学手続きをすると、一次入学金を納めることになっている。
所謂すべり止め、併願キープのために払う入学金で戻って来ないお金だ。
そしていざ入学となると二次入学金を追加で払うことになっていた。
これは入学してもいないのに高い入学金が返されないのは不当であるという訴訟があって、そこで返還判決が出たための措置らしい。
この二次入学金が未納だったらしい。
その他の授業料制服代等大部分のお金は納めてあったため、手違いだろうと猶予期間が設けられ、それが一学期中であったそうだ。
つまりタイムリミットは二学期が始まる前まで。あと1ヶ月半しかない。
「学校事務が八重樫の保護者に何度も連絡をとろうとしたそうだが、全く連絡がつかないそうだ。お前の方でなんとかしないと本当に退学だぞ」
担任の高田教諭も困り果てているようだ。
いや、そんなの僕の方が困るわ!
「先生、どうやら原因はバカ姉貴だ。口座に金はあるはずなんで直ぐに振り込めると思う」
この時はまだ僕も簡単に考えていたんだが、これが悪夢の始まりだった。
まず簡単なことから始めた。
保護者である姉貴に連絡して振り込んでもらえばそれで任務完了だ。
ああ、保護者が姉貴というのは両親が亡くなっていて姉と弟の二人しか親族がいないという事情だ。
スマホに直電するも電源が入っていないらしい。一応留守電を入れておく。
続いて姉貴の仕事用メアドにメールを送った。
するとメールが返ってきた。
案外、簡単に終わったな、そう思ってメールを開くと会社のサーバ管理者からのメールだった。
『弟さんですね。お姉さんと連絡が取れないんですが、事情を知りませんか?』
どうやら姉貴はまた行方不明らしい。
実は姉貴は仕事を兼業している。
両親が亡くなった時にいろいろあって、ある意味逃亡生活を余儀なくされたため、借金を抱えたからだ。
そのため表の仕事と裏の仕事を持っていた。
表の仕事は僕がメールを入れた会社で、裏の仕事がプロのゲーマーだ。
”Star Fleet Official edition”通称SFOという宇宙戦艦を育てて宇宙を駆け戦うというVRMMOで、そのプレイ映像の放映権がお金になるんだそうだ。
そのVR環境がオーバースペックすぎて、一般の回線やゲーム機では実現不能なため、特別なプレイスポットが用意されている。
なので大会中のプロゲーマーはそこに篭もることになる。
そのプレイスポットが秘匿されているため、プロとしての大会期間中は数日行方不明になるのだ。
それが今回は会社に申請した休暇届けを軽くオーバーしていて、騒ぎになっているということらしい。
(うーん、困ったな。姉貴から連絡して来るまで待つしかないか……)
会社のサーバ管理者にはこちらもわからない旨をメールする。
だが、やることはまだ残っている。
姉貴の口座からお金を勝手に引き出して、入学金を払えばいい。
家に帰って制服から着替えて姉の預金通帳と印鑑を持って銀行に向かった。
ちなみにキャッシュカードは持っていない。
なので窓口での面倒事を回避するために、姉に見えなくもないよう中性的な格好を選んだ。
銀行に着くと整理券を取って用紙に引き出し額を書こうとして、出金申し込み用紙を探す。
するといくつかの用紙の中に振込用紙があることに気付いた。
そうだ、担任から渡された振込用紙があったんだ。
口座からの振込手続きで良いことに気付き、そのまま順番を待つことにする。
整理券の順番が来て番号を呼ばれ窓口に向かう。
窓口には30代前半ぐらいで眼鏡をかけたちょっと神経質っぽい女性行員が座っていた。
「振込をこの口座からお願いします」
通帳と振込用紙を渡して言うと、眼鏡女性行員は通帳の名義を見て僕の顔をじっと見つめてきた。
やばい名義人と別人だと気付かれたか。
僕はちょっと焦る。でも焦りを顔に出さないようにする。
自慢じゃないが僕の外観は中性的でベリーショートの女性に見えなくもないのだ。
家に帰って私服に着替えたのは、ボーイッシュな女性だと思われれば、性別や名義の違いを誤魔化せるかもしれないという腹積もりだったのに。
男子制服なら当然終わっていた。
眼鏡女性行員は僕から目を外し振込用紙を見つめた。
よし!誤魔化せたな。
喜んだのも束の間、眼鏡女性行員から思いもよらない言葉が出た。
「では、身分証をお願いします」
「え?」と僕。
「振込額が30万円以上だと免許証等での本人確認が必要な決まりなんです」
眼鏡女性行員がきっぱり言う。
こんな所に罠が!うちの高校私立だしブランド制服だし入学金も高いんだよな。
(女子の制服の可愛さで選ぶんじゃなかった!)
僕は魂の叫びを心の底に押し込め眼鏡女性行員に告げた。
「今日は持って来てないので後日また……」
僕はすごすごと退散した。
家に帰ると対策を練ることにした。
第一目標、姉貴と連絡をつけて払ってもらう。
第二目標、なんとか本人確認を掻い潜って銀行からお金を引き出す。
第三目標、お金を借りる。
第四目標、お金を稼ぐ。
第一目標は姉貴からの連絡待ちでこちらからはどうにもならない。
だが待つにしてもタイムリミットは設定しなければならないだろう。
第二目標は姉の委任状を偽造する手があるが有印私文書偽造はさすがにまずい。
キャッシュカードがなくても通帳だけでATMからお金が引き出せるらしいけど、残念なことに僕は姉の口座の暗証番号を知らない。
第三目標は論外だな。僕達姉弟は天涯孤独。親も親戚も居ない。
収入のない未成年に金を貸す金融機関もないだろう。
第四目標は第一目標のタイムリミットを迎えた時の最終手段になる。
家族口座にある生活費の大部分を回しても20万ぐらい足りない。
だが今のうちに高額バイトのアテを探しておくべきか……。
そこでふと一石二鳥の手段を思いついた。
「そうだ! SFOのプロになれば姉貴と連絡が取れるし、最悪金を稼げる!」
僕はこの名案に賭けることにした。
僕は姉貴の部屋を漁って目的のソフトをみつけた。
”Star Fleet Consumer edition”通称SFC。SFOの家庭版だ。
このソフトをクリアすればSFOの参加資格を得られプロゲーマーへの入り口に立てる。
そしてSFO運営会社と連絡がつけば姉貴との連絡もとれるというわけだ。
早速ゲーム機をネットとヘッドマウント仮想モニタに接続しソフトを起動する。
HMVRモニタに搭載されたカメラにより撮影された目の前のリアル映像に、コントローラーエラーのアイコンと文字が重なって出る。
どうやら特殊なコントローラーを接続する必要があるらしく、センサーと通信アンテナの付いたベルトが4つと受信機1つが映像で表示され、エラーアイコンが点滅している。
姉貴の部屋を再捜索して、その筋電位感知式コントローラー”Muscle potential sensing controller”を探し出す。
どうやら両手両足にセンサーと送信機のついたベルトを巻いて、そのセンサーで感知した筋電位データを送信、本体が受信してコントロールする装置のようだ。
本体同梱の通常コントローラーをコネクタから外し、MPSコントローラーの受信機をコネクタに嵌める。
センサーのベルトを上腕部と大腿部にアンテナ部分が外側になるように撒く。
これで準備完了。いよいよゲーム起動だ。
ゲームを起動すると各種チェックの後、HMVRモニタに新規プレイ画面が表示される。
すると右腕のセンサーの所からチクリと針で刺すような痛みが生じ、それとほぼ同時にユーザー画面が開く。
『DNAチェックによりユーザー確認を行いました。ユーザーを八重樫花蓮と識別しました』
HMVRモニタのヘッドホンから声が聞こえる。
モニタには姉貴の本アカウントと複アカウントでセーブポイントが表示されている。
「ん? 姉貴でログインしてしまったぞ」
これはラッキーかもしれない。姉貴がプロゲーマーとして使っているのは本アカの方だろう。
そっちは使えないが、複アカのセーブポイントを使えばクリア間近なんじゃないだろうか。
アカウントの総プレイ時間を見る限り、3ヶ月はプレイしないとクリアは不可能みたいだ。
僕に残された時間は1ヶ月半だ。どうやっても間に合わない。
どうせ姉貴と連絡するのが目的だし、これを使ってしまおう。
悪いのはDNA検査までしてユーザーを誤認したソフトだ。
もっとも、こんな装置でしかもこんな短時間でDNA検査が出来るわけも無いから、ゲーム上の演出なんだろうけど言い訳にはなる。
無意識にポリポリと右手で頭を掻く。するとカーソルが右上に跳ね上がった。
「なるほど、腕を動かした信号がダイレクトにカーソル操作として伝わったのか」
まずは複アカのユーザー登録を僕に書き換えておかないと後々面倒になりそうだ。
右手を下げカーソル位置をユーザー登録設定に合わせる。
「選択はどうすればいいんだろう?」
HMVRモニタに手をニギニギするグラフィックが現れる。
それに習って右手を握り複アカのユーザー登録設定を掴むとユーザー設定画面が開く。
名前欄の「花蓮」を握りつぶして削除。50音表から「あ・き・ら・変換」と掴んでいく。
表示された「あきら」の変換候補を右手人差し指を下げてスクロールさせて「晶羅」を探し掴む。
結構感覚的に使える。
「それよりこの名前よくあったな」
名前欄が八重樫晶羅となったことを確認して登録を掴んで確定させる。
すると間もなく設定画面が閉じた。
これで複アカのユーザー名が僕になった。
ということでセーブポイントのマークを右手で掴む。
「これでセーブポイントでプレイ開始だ。さて何処らへんからコンティニューするんだろう?」
目の前にエンドロールが流れ始める。
どうやらクリア直後でセーブしてあったようだ……。
「これ、いいのかな? まあいいかw」
エンドロールが終わる。
『あなたはSFO参加資格を得ました。参加を希望しますか?』
という声と同時にYES、NOと保留が表示される。
なるほど、ここで保留を選ぶとエンドロールがセーブポイントになるんだな。
当然YESを掴む。
すると目の前が真っ白になり僕は意識を失った。
そして、冒頭の白い部屋で起きることになったわけだ。
連続10話投稿します。
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