プロローグ
初登校です。
俺は昔からよく夢を見る質だった。就寝時だけでなく居眠りやうたた寝のときでさえや想像力が豊かなのか眠りが浅いのか、ほぼ毎日といっていいほど夢を見る。
その内容は、空を自由に飛ぶもふのや世界的なスポーツ選手になるもの、様々なアニメや映画などの登場人物になりきるもの、それと身の毛もよだつような悪夢
それこそ数え切れないほどの夢を見てきた。ほぼ毎回違う夢ではあったが、ただ一つだけ共通していたことは起きたときその夢を必ずはっきりと覚えているということだった。
だから俺は今回もいつも通りの変わらないような、時間が来たら醒めてしまう夢だと、そう思っていたのだが………
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「いつまでそうされているおつもりですか……」
「だが………」
振り返ると美しくて可愛らしく、それでいて妖艶さも感じられる美女がヤレヤレとでも言いたげに首をすくめため息をついていた。
「ここまで醒めない夢も珍しいな……」
「だからさっきから夢じゃないって何度も言ってるじゃないですか!」
どうやら認めたくはないが本当に夢ではないらしい。先程から何度も頬を抓っているが、効果はなく痛いだけ。黄昏てみたが現状は全く変わらなかった。
この自称「月の女神様」と望まない出会いをしてからかれこれ3時間超。俺は現実(?)から逃避しようとしていた。
「いい加減お認めになったらどうですか?」
「どうしてこうなった……」
「まずは落ち着いてください。深呼吸ですよ、深呼吸。吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー」
「………」
本当にどうしてこうなった。
〈〈 3時間程前 〉〉
春の終わり、5月の中頃。とある地方の県立高校の一教室では午後の最初の授業が行われている。
授業も中盤に差し掛かる頃には暖かい陽気と昼食後という時間が強力なファクターとなって生徒達に抗いがたい眠気を催していた。その中に彼、望月 刃誠も例外なく含まれていた。
横に目をやると幼馴染みの少女が船を漕ぎ、その奥には完全に机に突っ伏したまま動かなくなっている友人の姿が見えた。2人だけではなくあちらこちらでそんな光景が見られた。教壇に立つ担任でさえも心なしか眠そうに見え、実際に寝ている生徒を注意することも無さそうだった。
そんな状況だったので彼が睡魔と戦うのをやめてしまうのも道理といえば道理というものだった。
(また夢をみるんだろうが時間もあるし仕方ないよな……おやすみ……)
突然床が輝き教室内を白に染め上げ、驚きと困惑の声をあげる生徒教師をこの世界から連れ去ったのは彼が眠りに身を任せてから30秒程たった後のことだった。
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「お目覚めですか?おはようございます!」
目を覚ました俺を最初に迎えたのはそんな言葉だった。
「ん〜っ、おはよう」
「いいお目覚めですかね?長く眠られていたので心配ですけれど。」
軽く伸びをして挨拶に答えた俺に返されたのは美しい声。耳は聞こえるが、周りがかなり明るいらしく目が慣れない
「よく見えないんだけど、ここは?」
すると声の主はよくぞ聞いてくれた!と言わんばかりの声色で続けた。
「ここは天界です!あなたは〈 神々の試練 〉の参加者に選ばれたのでここに来たのです!おめでとうございます!パチパチパチパチ」
自分で拍手を入れているがしかしその内容は突拍子もない、しかも意味不明な言葉だった。が、問題は無い。驚きも焦りもない。
「あぁそう天界ね。了解。神々の試練ってのも面白そうでいいね。」
そういいつつ、ようやく目が慣れたので声の方向へ体を向けるとそこには白くて白く白い美女が立っていた。整いすぎている顔立ちと肢体、明らかに人間ではないその作り。特に背中の羽。一目見るだけで現実ではないことを感じさせた。ただ一つ、その表情だけは呆気にとられたような豆鉄砲を食らったようなそんな表情で妙なアンバランス感を出していた。
「ず、ずいぶん軽いですね……しかも結構あっさり……なんか聞いてたのとちょっと違いますが……こうもっと「えー!」とか「は!?」とか驚かれたりするのかと思いました……」
「驚くも何も……こういうのは慣れてるからな、続けていいよ。」
そうこんなのはいつもの事だ。夢に毎回毎回驚いてなどいられない。突拍子もないことなんてのは夢なんだから当たり前のこと。なんならもっと急な出来事だってあるくらいだ。目覚めから始まるだけマシというものである。
「まぁ理解が早いに越したことはありませんからね。ではまず自己紹介から、私は月の女神〈 セレネ 〉と申します。あなた様は刃誠様でよろしかったでしょうか?」
「あぁ、あってるよ。よろしく女神様。」
「よろしくお願いしますね。では早速なんですが本題の方に入らさせて頂きます。神々の試練の概要からいきましょうか。」
すると女神はフリップのようなものと大きな装丁の本をどこからか取り出してきて、どうやらそれを使って説明を始めるようだった。
「ではご説明致しますと、〈 神々の試練 〉とは大まかに言えば神々が使徒を選び使徒と共に他の神々と使徒と競い勝利を目指すというものになります。今回の場合は私と刃誠様が神と使徒の関係にあたるわけです。」
「はぁ、なるほど。競争ねぇ……」
ここでフリップを女神は使う様だった。フリップには大きな島、というより大陸が描かれ国境線と思わしきものも引かれていた。
「えぇ競争です。そしてその舞台となるのがこちらの大陸〈 アトランティス 〉になります。そこであなたは使徒、あちらでは勇者と呼ばれる存在となり、基本的には自分のパートナーである神を信奉する国に属し他の勇者と競っていくことになるわけです。」
……まぁ随分とベタな内容である。夢でこのクオリティは想像力の貧弱さを物語っている。夢だからこそなのかもしれないが。
「そして競うということですが、当たり前ですが勝利条件があります。
1、相手側使徒の全滅
2、所属する国の首都制圧
(所属がない場合は最初に降りた国)
3、使徒もしくは神の心からの降伏
以上がこの試練の勝利条件となります」
「おいおいおい、全滅って言うと殺しも入るのか?随分と物騒な勝利条件だな。使徒は命賭けなきゃならねぇのかよ?」
流石に危ない勝利条件に語尾と言葉遣いが荒くなる。この辺りからファンタジーな世界で妙なリアリティを感じるところに少しづつ違和感を感じはじめていた。
「別に殺さずとも降伏を促すことも出来ますし事故で相手方が亡くなった場合もこちらの勝利となります。」
「結局殺しは否定しなかったな。いくらなんでも恨みもない相手を競争相手だからってことで殺し合いなんてできないからな。」
「まぁ、そこは追々考えればいいことですよ。次にいきますね。次は使徒として戦うということで特別な力が必要ですから、そちらについてご説明しますね。」
納得しない俺を流しおいて次に進もうとする女神。次の説明をするためにまた新しいフリップと本を出したようだった。だが大きい本はついでという風で傍らに置いた。
「特別な力、ここではスキルとでも呼びましょうか。スキルはプロフィールポイント、通称PPで取ることが出来ます。PPは自分のプロフィール内容によって増減します。プロフィールは例えばどこで誕生するかや使徒の人数、魔法の才能などがあります。その内容によってPPは増えたり減ったりするわけです。ここまでよろしいですか?」
「まぁ、何となく理解した。つまり勇者の設定ってことだよな。」
「そう身も蓋もない言われ方をされると困るのですが、まぁ例としてお見せしましょう。少し後ろを向いてください。」
「ん?こうか?」
そうして後ろを向いた俺の
「そうですね、そのまま動かないでー…」
背中に女神は
「こうやって、こうです!」
使徒の紋を刻んだ。
「痛ってぇぇ!痛てぇ!痛てぇ?痛てぇっ!?」
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