ヤツは強敵でしたっ
寒い寒い寒い……。
季節は秋なのに、冬かよっ!って文句をつけたくなるような風が吹くなか私は、少し震えながら街灯に照らされた車道を自転車で走っていました。
夜のこの静かな雰囲気は好きなのですが、やはり寒いのは嫌ですね。
夕方から回転寿司に行っていたのですが少し夜の寒さを舐めてました。
夕方はね、まだこんなに寒くなかったんですよ。
だから薄いシャツで出掛けたんですが間違いでしたね。
なにかもう一枚着ていけばよかったです……。
あぁ、早く帰りたい。
そんなに家までの距離は遠くないんですがこういう時は、なぜか遠く感じますね。
やっと自宅が見えてきた頃にはもう体は冷えきっていました。
「よいしょっと。」
自転車から降り、ドアの鍵を開けまだ電気をつけてないので暗いマイホームに入ります。
「ただいまー。」
誰からもお帰りの返事は返ってこないですが、なんとなくいつもいっちゃうんですよね。
つい癖で。
まぁ、返事が返ってきたらそれはそれで恐怖なので返ってこないほうがいいですけど。
さて、ここから勝負ですっ。
帰宅したら、手洗いやうがいなどしなければいけないことって結構ありますよね。
でも、私にとって手洗いやうがいよりも先にやらなくてはいけないことがあるんですよ。
それは、天上から伸びる細いひもを見つけ出し、それを下に引っ張るという作業です。
まぁ、簡単にいうと電気のスイッチをつけるってことです。
これがね以外と難しいんですよ。
昼だと簡単なんですけどね。
夜だとカーテンの閉まったこの真っ暗な部屋から、カーテンのわずかな隙間から入ってくる月の光りだけを頼りに見つけ出さなければいけないですからね。
モード的にはスーパーハードですねっ。
前にこの話を立川さんにしたときに、じゃあスマホの光りを使って探せばいいじゃんって言われたことがありました。
しかしっ、私はそんな方法は絶対に使いませんっ。
そんなのは邪道ですっ。
私はこの部屋に引っ越してきてから今までずっとこの方法で電気をつけてきました。
別に、立川さんに言われるまで気づかなかったとかじゃないんですからねっ!
まぁ、それはおいといてこれは私と電気のスイッチさんとのずっと続いてきた一対一の神聖な勝負なのです。
まずは、靴を脱いでから一歩踏み出し、更にもう一歩ゆっくりと慎重になにかにぶつかっても、大丈夫なように進みます。
そして、心を落ち着かせてできるだけ穏やかな気持ちで暗闇のなかを見つめます。
ん?
今、なにか見えたような気がしますね。
見えましたっ!
「そこかっ。」
すっと、手を伸ばすと確かに細い長いひもの感触がありました。
ふっ、今日も私の勝ちですねっ。
そのひもを引っ張るとまるで私の勝利を祝うような明るい光りがつきました。
さて、やっと電気がついたので手を洗うとしましょう。
なんだか水が温かく感じますね。
これは別に温かい水を出してる訳じゃないので、水の温度よりも私の手が冷たくなっているのでしょう。
めっちゃ冷えてるじゃないですか……。
早く温かいお風呂に入りたいです。
服を脱いでから思ったのですがやっぱりこの気温にしてはこのシャツはないですね。
薄すぎます。
まったく私を寒さから守ってくれませんでした。
あまり熱すぎない温度にしたお風呂につま先からゆっくり入り、肩まで浸かると今日の疲れがとけていくような気分になれますねっ。
「幸せー。」
お風呂から上がり体を拭いているとお風呂場の鏡がふと目に入ります。
しかし、すぐに視線を逸らします。
ふっ、私は鏡なんて見ませんよ?
特に服を着ていない時には。
それは、数年前からまったく成長しない、まな板な胸を見ると悲しい気分になってくるからですよ……。
べ、別にそんなに気にしてませんけどねっ。
さて、さっさと髪を乾かしちゃいましょう。
いつもだとお風呂に入ったあとは、テレビを見ながらだらだらするのですが今日は疲れたのですぐに電気を消してベッドにインしました。
「おやすみー。」
いつものように、誰にも届かないおやすみを言って私は深い眠りに落ちていきました。
やっぱ寒い時のベッドは最高ですねっ。