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ヒーローライクヒール  作者: 手頃羊
2話:微笑みは手に入れるもの
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その3・はじめてのせんとう

街の外へ出る。

広い平原のあちこちで魔獣が歩いている。

マキノは同行せず、研究の続きがあると帰ってしまった。


ハゼット「マキノには後で会いに行こう。」


クロノ「武器の実験台の感想言わなきゃですしね。」


(でもまぁ、なかなか良い武器貸してくれたわけだし、感謝しないと。)


ハゼット「さて、最初は…あいつかな。」


クロノ「あいつって、アレですか?」

少し離れたところに兎らしき動物がいた。


ハゼット「丁度いい。アレは倒しておかないといけないやつだ。」


クロノ「倒しておかないとって…」


(アレを倒すってこと…?)

ピョコピョコと小さく跳ねながら歩いている。

どこからどう見ても可愛いウサギちゃんである。


ハゼット「アレは…まぁ近くで見れば分かる。」

ハゼットと共にウサギの所へ向かう。



ウサギもこちらに気づいたようで、ウサギからこちらへ近寄ってきた。


クロノ「うん?」

ウサギの口の周りに血が付いているように見える。


クロノ「え、ちょ」


ハゼット「こいつは肉食なんだ。しかもかなり獰猛な魔獣だ。こいつ一体で商人の馬車を制圧できるくらいには強い。」


クロノ「かなり凶悪じゃないですか‼︎」


ハゼット「見たところ、昼飯を済ませた後のようだな。」


クロノ「ってことは何すか?俺はこれからあいつの食後のデザートですか?」

ウサギがこちらを見つける。

肉食と聞いてしまったせいで、見られているだけなのに脚が震えそうになる。


ハゼット「そうならないように、しっかり倒すんだ。ほら、剣を構えろ。」


クロノ「は、はい…」

腰から剣を1本取り出し、構える。

武器を扱うのは初めてで、さすがにいきなり2本持っては戦えない。


兎の魔獣がこちらを警戒し始める。

武器を構えたことで、自分の敵であると認識したようだ。


ハゼット「こちらから攻めるも、相手が攻めてくるのを待つのも自由だ。お前なりのやり方で戦ってみろ。危なかったらフォローする。」


(じゃあやるだけやってみますか…)


兎に向かって走り、剣を振り下ろす。

クロノの右側へ跳んで避け着地し、剣は地面に突き刺さる。

避けた兎はすぐに、次の跳ぶ動作へと移る。


(これは横腹いかれるやつ‼︎)

剣先を地面に刺したままグリップを持って重心をかけ、そこを軸にして兎に後ろ回し蹴りをしかける。

左足のかかとが命中。

魔力で強化していたおかげで、ウサギは数メートルほど吹っ飛んだ。


ハゼット「良い蹴りだ!だがまだ奴はピンピンしてるぞ。」

吹っ飛ばされた兎は空中で1回転し、綺麗に足から着地する。


クロノ「マジか。」

兎がクロノの元へ突っ込んでくる。


(ならもうちょい本気でやればいいのかな…)

右手に持っていた剣を左手に持ち替え、右手に魔力を集中する。


(イメージすれば魔力が扱えるなら、手が熱く燃えるイメージをすれば…)

手がどんどん熱くなるが燃えさせはしない。

飛びかかってくる前に手を燃やしてしまえば、兎が警戒してしまう。


(もう少し…もう少し…)

2mほど手前で走り、跳ぶ。


クロノ「ここだ‼︎」

魔力を一気に開放。

手が炎に包まれ、魔力が溢れ出す。

右手を振り上げ、兎の腹にぶち当てる。


クロノ「っしゃああああらあああ‼︎」

ボキボキと兎の骨が折れる音がする。


クロノ「ああああああらああああああ‼︎」

拳を振り抜く。

兎はきりもみ回転しながら天高く舞い、そのままベシャリと落ちた。


クロノ「ふぅ……」

戦闘が終わったことで気が抜けてしまい、尻もちをつく。


ハゼット「魔法を扱い始めて初日で属性攻撃。いや、できないことはないが、筋はある方だな。」

ハゼットが兎の所まで歩いていく。


ハゼット「ふむ、1つ目は合格だな。」


クロノ「2つ目以降があるんすね。」


ハゼット「あぁ。次に行くぞ。次は少し…いやかなり、この兎よりも危険な魔獣だ。」


クロノ「この肉食殺人兎よりも?」


ハゼット「肉食かどうかじゃない。相性というものがあるんだ。この兎は確かに危険だが、魔獣全体の中では弱い方だ。」

兎の死体を持って歩いていく。



川の近くを歩いていると、突然川の中からブヨブヨしたゼリーのような何かが出てきた。


クロノ「え」


ハゼット「お、良いところに現れたな。こいつが2つ目の目標だ。」


クロノ「何これ、スライム?」

まさにスライムといった外見。

青色で透明な液体がゼリーのような柔らかさで、地面を這うように動いている。


ハゼット「そうだ。そっちの世界にもいるのか?」


クロノ「いや、いないけど…架空の存在として知られてるって感じではありますかね。向こうの住人にはそういうの考えるの好きな人がいたりするんですよ。」


ハゼット「架空か。ならこっちの世界に来てしまったら大変なことになるな。さて、このスライムだが…絶対にやってはいけないことがある。」


クロノ「やってはいけないこと?」


ハゼット「あぁ。こいつは水分のある場所の近くに棲息する。川とか、池とかな。だから雨が降ると一気に活動範囲が広がる。街に入れないようにするので精一杯だ。雨の日に馬車で国から国へ移動するのは、余程急ぎの用事でもない限りする奴はいない。だから、比較的よく見る魔獣であり、且つ弱めの魔獣の中では最も対処に注意が必要な魔獣でもある。」


クロノ「というと?」


ハゼット「こいつに物理攻撃は全く聞かない。」


クロノ「え⁉︎あっ、あぁ…」

一瞬攻撃が効かないと聞いて驚いたが、すぐに納得する。


クロノ「そりゃ、あんなの殴っても勢いが吸収されちゃいますもんね。」


ハゼット「あぁ。全く意味がない。」


(逆にゲームとかでスライムを物理で倒してた勇者達がイカれてたんだ。)


ハゼット「だが弱点はある。魔法攻撃だ。特に、こいつらは火の攻撃に弱い。」


クロノ「火ですか。」


ハゼット「あぁ。蒸発させてしまえばいい。そうすれば、奴の生命の源である水分が無くなり、死んでしまう。」


クロノ「はぁ…なるほど。」


ハゼット「さて、そんなスライムの絶対にやってはいけないことだが…」


(まだ本題じゃなかったか。)


ハゼット「近付いてはいけない、ということだ。」


クロノ「近付いてはいけない?それは、物理が効かないからですか?」


ハゼット「それもまぁそうなんだが、理由は奴の食生活にある。」


クロノ「食生活?」


ハゼット「スライムは基本的に肉食の生物だ。肉食というからには、当然肉を食べる。魔獣や人間もな。さて、その時、奴らはどうやって食事をするのか。」


クロノ「さぁ…」


ハゼット「答えはこうだ。」

持っていた兎の死体をスライムの近くへ投げる。

地面に落ちた兎にスライムがすぐに気づき、素早く兎の所へ移動する。


クロノ「あっ…」

スライムが兎の体を取り込む。


クロノ「えっ、ちょ…」

スライムの体が突然赤く染まり始める。

中で兎の体から大量に血が溢れているようだ。

ヂューーという何かを吸うような音も聞こえる。


クロノ「あ、まさか…」


ハゼット「そうだ。奴らは肉体を溶かし、その溶けて液体となってしまった体を取り込むんだ。」

兎の体はすでに無くなっており、真っ赤な体も先ほどまでの青色に戻っていた。


ハゼット「当然、人間もあいつに捕まってしまえば…」


クロノ「ちょ、それ以上は言葉にしてもNGですよ!」


ハゼット「まぁ言いたいことは分かるだろう?だから近付いてはいけないんだ。」


(普通にヤバい奴らしかいねぇ…)


ハゼット「さぁ、魔法で攻撃してみろ。やり方は今までと同じだ。頭の中でイメージするんだ。」

右手に魔力を集中する。


ハゼット「集中させたな?それを発射するんだ。」

右手をスライムに向ける。


ハゼット「撃て!」

右手に溜めた魔力を解き放つ。

…が、


クロノ「あれ?」


ハゼット「どうした?」


クロノ「撃てない?」

魔力は右手に残ったままで、全く発射できない。


ハゼット「ふむ、お前のことだからこれくらいは簡単にできると思ったんだが、難しかったか。」


クロノ「あれー?」

何度やっても発射できない。


クロノ「なんていうか…発射できないっていうか…そういう操作を受け付けない感じっていうか…拒否られてるっていうか…」


ハゼット「ふむ…分からんな…攻撃ができないというわけではないと思うんだが…」

しかし、できないことはできない。


ハゼット「じゃあマキノから貰った武器を使ってみろ。銃で撃っても通じるから、撃てれば倒せるはずだ。」

腰から剣を取り出し、マキノに教えられた手順で変形する。


銃に魔力を込める。

これは簡単にできた。


クロノ「よし。」

スライムに照準を定める。


ハゼット「いいな?撃て!」

トリガーを弾く。


ダダダダダッ‼︎


銃口から魔力が塊となって連続で飛び出し、スライムの体に当たる。

スライムは炎に包まれ、一瞬で姿を消した。


ハゼット「よしよし。中々うまいじゃないか。銃の扱いはうま…」


クロノ「⁉︎」

急にハゼットの声が途絶えたので振り向く。


ハゼットの頭にスライムが張り付いていた。

頭が完全に取り込まれている。


クロノ「ハゼットさん‼︎」

すると何かを吸うような音と共に、真っ青なスライムの体が真っ赤に染まる。

ハゼットの顔が血で見えない。


クロノ「うわあああああああああ‼︎」

咄嗟に銃を構え、スライムに向けて撃つ。


ズガン‼︎


さっきは連射して撃ったのに対して、今度はショットガンみたいに一撃で撃つ。


スライムは一瞬で消し飛び、無残な肉塊となったハゼットの顔面が残った。


クロノ「ハゼットさん‼︎大丈夫ですか‼︎うっ‼︎」

少なくともテレビには映せないような絵面。

確実にモザイクが必要なくらい、グチャグチャしている。


ハゼットは手を前に出して大丈夫だと伝える。

すると、顔がだんだん治っていく。


ハゼット「ふぅ…早めに処置しておいて助かった。」


クロノ「良かった…」


ハゼット「本当に助かったよ。お前が咄嗟に行動してくれなければ、あのままだったかもしれん。」

服に付いた血を拭う。


クロノ「さすがの不老不死でも、やっぱり怖い相手なんですか?」


ハゼット「あぁ。腕や足ならともかく、頭は基本的にまずい。」


クロノ「ん?死なないなら、どこやられても同じじゃ?」


ハゼット「人間っていうのは、頭にある脳でものを考える。逆に言うと、脳が無かったら何も考えられない。スライムに脳を食われたら、何もすることはできない。抵抗も、体を治すこともな。」


クロノ「今も十分頭結構いかれてましたけど…」


ハゼット「だから早めに処置しておいたのさ。自分の体を一定時間回復し続ける魔法を使っておいた。」


(リジェネ魔法かよ…)


ハゼット「だが、お前が助けてくれなければ、それも意味はなかった。さぁ、次に行こう。次が最後だ。」

随分余裕な喋り方なせいで、感謝されてるのかどうか分からない。

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