その1・待つか、行くか
クロノがラフに来てから1週間経った。
それまでの間、特に変わったことは無く、クロノはひたすら何か元の世界に変える為の情報を待ち続けていたが、収穫は全く無かった。
クロノ「はぁ……」
エリー「やはり、簡単には集まりませんね…」
フレア「事情が事情だからなぁ…。異世界から来たなんて、お前と1年くらい前にいたって人だけだろう?」
現在、ハゼットとレオとアクアは依頼のために外出。
クロノ「まぁね…ってか、フレア…さんは知らないんすか?」
フレア「さん付けじゃなくていいよ。年もどうせ近いだろ?」
クロノ「そう?んじゃあ…フレアはその人のことなんか知らないの?」
フレア「そういう人が前にいた、ってくらいしか聞いてない。俺と姉貴はその時にはここにいなかったんだ。」
エリー「直接ハルカさんのことを知らないのはフレアさんとアクアさんの2人だけですね。」
クロノ「へぇ…」
つまり、ハゼットとエリーとレオとマキノのたった4人しか知らないということである。
フレア「かなり時間のかかりそうなことだよなぁ…」
フレアがギルドに来た依頼の紙を貼っておく掲示板を見に行こうとすると、クロノが立ち上がる。
クロノ「決めた。」
フレア「え?」
下半身だけ向こうを向き、上半身だけひねってクロノの方を見る。
エリー「決めたって、何を?」
クロノ「俺もこのギルドに入る。ここで情報を待つんじゃなくて、俺も情報を探しに行く。」
●
クロノ「ってことなんですよ。」
依頼を終えて帰ってきたハゼットに相談を持ちかける。
クロノ「ダメですかね?」
ハゼット「ダメだ。」
即答。
フレア「いいじゃん、別に。このままだとロクに情報集まんないでしょ?」
ハゼット「確かに時間はかかるが、どれほど危険なことかはお前にも分かるだろ。」
フレア「そりゃまぁ、そうだけど…」
ハゼット「クロノ。お前の気持ちは分かる。だがな、本当に危険なんだ。お前にも魔力があることが分かったが、どれほど強い魔力があっても、危険なものは危険なんだ。」
クロノ「じゃあ、俺が強くなったら大丈夫なんじゃないですか?」
ハゼット「バカ言うな!死んだらどうする!頼むから、危険なことに首を突っ込もうとしないでくれ。」
そう言ってギルドの奥の方へ行ってしまった。
フレア「だと思ったよ。」
クロノ「死んだらって、そんなに危険なの?」
フレア「まぁ、基本的に死と隣り合わせみたいな仕事だからなー。お前だって、ゴブリン見たんだろ?世界にはあれより強いのがワンサカいるんだぜ。」
初めて会ったゴブリンに殺されそうになったくらいだから、その恐ろしさは容易に想像できた。
フレア「大人しく待つしかねぇな。」
エリー「ダメでした?」
エリーがハゼットと入れ替わりで来た。
クロノ「えぇ。怒られちゃいました。
エリー「そうなの…」
クロノ「僕も戦えたらなぁ…」
エリー「多分、戦えるかどうかじゃなくて、純粋にあなたのことが心配なんですよ。」
クロノ「そりゃまぁ、それくらいは察してますけど…」
エリー「あの人から見てあなたは、理不尽な事件に巻き込まれた可哀想な被害者です。そんなあなたが、ギルドの危険な仕事を引き受けてこれ以上苦しんだり可哀想な目にあってほしくないです。」
クロノ「……」
そう言われては、あまり迷惑はかけられない。
エリー「あの人だってこれ以上は見たくないでしょうし。」
クロノ「これ以上?もしかして、似たような感じのことが前にも?」
エリー「はい、ありました。」
フレア「誰?もしかしてハルカって人?」
エリー「えっと…」
クロノ「そういえば、そのハルカって人行方不明って聞いたんですけど、どういう経緯でそうなったんです?」
エリー「それは…」
エリーが言葉に詰まっている。
(言いづらいことなのか?)
クロノ「行方不明ってそんなに言いづらいことなんですか?」
エリー「…!」
(あっ、なんか変な地雷踏んだ?)
クロノ「ただ行方不明じゃないとか?なんかヤバイ事情とか?」
エリー「その…」
歯切れが悪くなっていく。
(もしかして…)
クロノ「ハルカって人、どういう状況なんですか?」
エリー「私が言うようなことじゃなくて…その…」
フレア「なにこれ、どういうこと?」
クロノ「すっごい嫌な予感がする。行方不明なら行方不明ってハッキリ言って欲しいのに、そんなに言葉濁らされて辛そうな表情されたら、どうしても嫌なことを予想しちゃう。」
フレア「嫌なこと?まさか…」
エリー「私、あまり頭良くないから、こういう時なんて言ったらいいか分からなくて…」
クロノ「………」
自分の手を見つめる。
何となくだが、そこに魔力が流れているのを感じた。
クロノ「確かに言いづらいよなー。俺を心配させないようにって思ってるんでしょうけど、こっちからしたら真実を言われないことの方が怖いです。死ぬかもしれないってのに、その危険性を教えてくれないってのは、むしろ俺を殺しにきてんのかって思っちゃいそうなくらいには怖いです。」
眉間に皺が寄ってくる。
フレア「クロノ?」
クロノ「決めた。」
フレア「決めたってなにを…」
クロノ「もっかいハゼットさんに頼んでくる。今回は大真面目だ。」
●
ハゼットを探してギルドの奥にあるハゼットの部屋の前に来る。
(さて…)
ドアをノックする。
ハゼット「どうぞ。」
ドアを開けて中に入る。
●
左右の壁が本棚になっていて、大量の本や何かの資料が詰まっている。
部屋の中心に作業台があり、そこでハゼットが何かを書いていた。
ハゼット「お前か。どうした?」
クロノ「もっかい頼みに来ました。」
ハゼット「はぁ…ダメだ。」
資料の束を机に投げるように置き、また別の束を取る。
クロノ「今回はこちらも引きません。」
真剣な表情をしているクロノに、ハゼットも筆を置いてまっすぐ向き合う。
ハゼット「危険だと言ったはずだが。」
クロノ「ハルカさんのことなんですけど…」
ハゼットが睨みつけるように見てくる。
クロノ「行方不明って言ってましたけど、どう行方不明なんです?」
ハゼット「どう、と言うのは…」
クロノ「エリーさんに聞きに行ったんですけど、答えようとしてくれなくて。行方不明なら行方不明って言ってくれればいいのに、言いたくないみたいな感じで。ハルカさんの身に何かあったってことですか?」
ハゼット「…あぁ。」
クロノ「…危険なことくらい知ってます。でも、何も知らないのは嫌だし、何もしないのも嫌です。こんな状況で、何も知らされずに理不尽な何かに殺されるのはまっぴらです。」
ハゼット「それで死んだらどうする?本末転倒ってやつじゃないか?お前は言ってみれば部外者で被害者だ。俺たちに任せて…」
クロノ「部外者でも被害者でもいいです。死んだら本末転倒って、戻る手がかりを得るチャンスを減らすのも似たようなもんでしょ。もし戻れずに死んだら、そういうことなんです。戻りたいには戻りたいですけど、戻れないことより戻ろうとしないことの方が、俺は絶対に嫌です。」
ハゼット「だが…‼︎」
クロノ「俺がもし死んだら、責任感じるんですか?変なことに巻き込まれて殺されてしまって可哀想にって。」
ハゼット「何が言いたいんだ。」
クロノ「こっちはちょっと怒ってます。この世界は危険に満ち溢れてて死ぬ可能性があるのに、教えてくれないって。代わりに死ねって言ってるんですかね。」
ハゼット「お前をこれ以上巻き込みたくないから…」
クロノ「もう結構な所まで巻き込まれてます。もう戻れないんです。そんなところで、無防備なままでいるなんて、自殺行為です。危険なものが身近にいて、防衛の準備もしないで、いざ攻め込まれて負けて殺されちゃいました〜って、笑い話にもならない。何かしないと。じゃなきゃ自分すら守れない。少なくともそういう世界に、俺はいました。」
ハゼット「………」
クロノ「覚悟はできてる。見てるだけは嫌だ。知りたいことを知りたい。できることを全部したい。死んだらそこまででいい。ハゼットさんが責任感じる必要はない。お願いです。ギルドの一員にしてください。」
ハゼット「………ちっ。」
どうしても引かないクロノに折れる。
ハゼット「だから交渉事は嫌なんだ。お前のような幼稚な攻め方が相手でもいつも勝てない。」
クロノ「こっちだって大嫌いですよ。」
ハゼット「分かった。お前をギルドのメンバーにしよう。だが、試験をする。お前に限らず、メンバーになりたかったら入団試験を受けてもらうのがルールなんだ。これに合格できなかったらさすがに諦めてくれ。」
クロノ「受けて立ちます。」
ハゼット「クロノ。」
クロノ「はい?」
ハゼット「お前に黙っていたのは申し訳ないと思っている。だが、お前の事が心配なのも分かってくれ。目の前で人が死んでいくのをこれ以上見たくないって気持ちくらいは分かってくれ。」
クロノ「これ以上…?」
ハゼット「不老不死って言っただろ?2000年生きてると。単純に考えても人間の2,30倍の時間生きてるんだ。何人もの死を見てきた。その中には、守りたくても守りきれなかったものだってある。」
何かをお願いするようにクロノを見る。
クロノ「そうならないために、やれるところまでやりたいんです。「笑顔」で終わるエンディングは待ってるだけじゃダメなんです。」




