6 検証
6 検証
「チカ、もうすぐウキナに着くぞ。」
そうディーに起こされた。
う、ヤバイ寝てたらしい。
狼に襲われた後夜明けだったのでそのまま移動した。手綱を握っていたディーはさぞかし眠い事だろう。
「あ、そうだ。ちょっと人目に付かない所で止めて。」
「? 『お花摘み』とかってやつか?」
「ちがうわッ! 検証よッ!」
ったく時々マジでデリカシーってもんについてコンコンと諭してやりたい。膝詰め正座で小一時間位。
わたしのイラつきに全く気付く事なくディーは適当に道を外れると騎獣を止めた。
「今からフォレストウルフを出すから何かあっても対処できるようにしておいて。」
「わかった。どういう状態なのか判らないのか?」
「一応フォレストウルフの死体27ってなっているんだけど、まぁ、念のため?」
わたしはちょっと離れた下草の上にフォレストウルフの死体1を出した。
何にもない所からツルッとそれが出てくる様はホント不思議な感じだ。
ディーは剣を抜き用心深くフォレストウルフに近づくと様子をしばらく観察した後おもむろに膝をつきフォレストウルフを調べた。
「どぉ?」
「どこにも傷はないしまだ温かい。硬直も始まってないし今死んだばかりのように見える。」
「そう、じゃあしまうけどこれ売れる?」
「フォレストウルフは売れるのは毛皮だけだな。討伐依頼だと証明部位は牙だな。」
そうなんだ。ゲームみたいに倒すとドロップアイテムみたいに自動で収集出来れば楽なのに(笑)
《アイテム化収納をしますか?》
「うわっ!」
思わず叫んでしまった。
「どうした!?」
ディーも慌ててわたしを振り返る。
「あー、えっとね? ちょっと説明しにくいからそこから離れて見てて?」
歯切れの悪いわたしの口調に首を傾げながらもディーはフォレストウルフから離れわたしの方へ戻ってくる。
「《アイテム化収納》フォレストウルフの毛皮と牙。」
そう唱えると
「ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァーーーーーーっ」
そこにマルッと皮が剥がれた狼だけが残った! Σ(゜ロ゜ノ)ノーーッ
「何だ!」
「グロッ! キモッ! ムリムリ! それどっかやって!」
半泣きでディーのお腹にしがみついた。
料理するのに魚を捌いたり肉を切ったりは出来るけどこれはそういうレベルじゃないよ!
猟奇レベルじゃん!
ステーキ焼くのに牛解体する主婦はいないでしょッ!
しかも主婦じゃないし! そんなに料理スキル高くないし!
「あれの毛皮は?」
「こっち、収納の中に入ってる。」
「出せるか?」
「見えない所で良いなら。」
「・・・構わん。」
と言うことなのでわたしの背後にフォレストウルフの毛皮と牙を出す。
「チカ、こう引っ付かれていると何も出来ないんだが?」
わたしは渋々手を離して体育座りで膝を抱えた。
ディーは何やらごそごそと調べている模様。
「すごいな、これは。傷一つ無く洋服でも脱ぐように皮が処理してある。チカこれで全部の毛皮の処理出来ないか?」
「出来るか出来ないかで言われれば出来るけど、やりたくない。」
「そうか、高く売れるからいいかと思ったが、無理強いは出来ないな。」
なぬっ!? それは聞き捨てならない! それなら返事はただ1つ!
「やる。高く売れるならやる。」
「いいのか? 無理をすることはないぞ?」
「わざわざ高く売れる手段をもっているのに気持ち悪いから嫌だってやらないなんてただのバカでしょう。」
そうと決まれば準備せねば。
「チカは以外にガメツイな。」
何だとッ! 失礼な!
「身は要らないのよね? 捨ててっていい?」
「あぁ、それは構わないが27匹分を放置していくわけにはいかないぞ。穴でも掘れればいいが道具もないしな。」
「それについてはちょっと思い付いたことがあるんで試してみるわ。なんかその辺に木の棒とかない?」
ディーは茂みのなかを分け入って行って杖ぐらいの長さに枝を切って持ってきた。
ちゃららら~ん チカは木の棒を装備した。とか出そう(笑)
その棒で適当な大きさの長方形を描く。大体畳一畳分位かな。
では
「ストレージ」
線で囲った中の土を収納してみました。
おぉ! 思った通り線に沿ってずこっと穴が開いている。深さが足りなさそうなので更にストレージを二度ほど繰り返すと結構な深さの穴が開いた。
「ディーその身穴に落として。でフォレストウルフを出して毛皮と牙だけ回収するから済んだヤツから穴に落としてちょうだい。」
「・・・あぁ、解った。」
何だかディーが疲れたようにため息をついたが、眠いのか?
まだまだかかるぞガンバレ~ o(*≧∀≦)ノ
「チカの 《ストレージ》は色々おかしいぞ?」
サックリとフォレストウルフを処理して再びわたし達は騎獣の上の人となった。
「そうなの?」
首を傾げたわたしに
「1つ、収納物には触れなければならない。2つ、出すときには己の掌を出す場所へ向けなければならない。3つ、不定形の物は容器に入れなければならない。4つ、生物を生きたまま入れることは出来ない。5つ、容量は己の魔力量によって変化する。と言うのが俺でも知っている 《ストレージ》の常識だ。」
そうディーは言う。
「ふーん、そうなんだ。色々面倒なお約束があるんだね~。」
他人事の様に言うわたしに
「真面目に聞け。」
「聞いてますよ~。だってわたしだって使ってみて初めて判ることばっかりなんだもん、気を付けようがないわよ。」
「そうなのか?」
「そうよ。今のところ解っているのは
1・容量は99種類。1種類について99個まで。
2・入れたものは時間経過することがない。
3・収納する時は視線及び思考でターゲットを指定することが出来る。
4・出すときには任意の場所を視線及び思考で指定できる。
5・生物を収納すると生命活動は停止する。
6・任意で指定物をアイテム化し収納できる。
位よ。」
「・・・そうか。チカの 《ストレージ》はチカ以外の者が使っているモノとは別物だと言うことは覚えておいてくれ。安易に他人に話さない方がいい。」
「ディーにはいいの?」
「俺はチカの奴隷だ。主人の許可なしで主人の情報は洩らせない様に制約が掛かっている。」
ディーは自分の心臓の上を叩いた。
ディーの心臓の上には奴隷紋がある。奴隷商でディーを買った時魔方陣をそこに移されたのだ。
制約に背くと心臓に幻痛がはしるようになっているらしい。身体に傷1つ負うことはないがどんなに屈強な種族の者でも一発で失神するとの事だ。
「わかった。厄介事に巻き込まれないように使うときには注意する。」