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5 獣の襲撃

5 獣の襲撃



野営も三日目で幾分馴れてきた。夜半までわたしが火の番をしディーと交代して寝入った。疲れているとそこが固い地面だろうと案外寝れるものだ。

今までは夜明けまで寝てしまっていたのが、今日は途中でディーに揺り起こされた。


「なに? もう朝?」


「いえ、もうすぐ夜明けですけど、何かこっちに向かって来てます。移動します。」


「わかった。」


わたしはくるまっていた毛布をストレージしディーに騎獣に引き上げてもらう。

騎獣に乗った事が無かったわたしは捕まる所など無い騎獣の上が怖くていつも横乗りでディーのお腹にしがみつくのだ。

ディーは騎獣を速足で進ませる。ディーは夜目が効くので月明かりだけでも街道から外れる心配はない。


森の中から複数の騎獣が走る音が迫ってきた。


「・・・・・!!! 街道だ! 出たら左に行け! 追い付かれるぞ!」


怒鳴り声と騎獣が地を駆る濁音が響き暗闇の中前方の木々の間から複数の騎獣が飛び出し来るとそのままの勢いでウキナ方面に駆けて行った。


「チカ! 走らせるからしっかり掴まるんだ!」


「えっ? 何! なんなの!?」


ディーは今まで騎獣を走らせた事はない、わたしが騎獣に乗った事がないので安全を考慮してのことだ。

なのに今は走らせると言う。


「フォレストウルフだ! あいつらの後を追ってきている。」


ウルフ? って狼?


ディーに問う前にグンッと騎獣の速度が上がった。騎獣の背がうねるように波打つ。弾みで放り出されそうだ。

ディーが左手で支えてはくれているが震動で滑り落ちそうだ。


「チカ! 絶対に手を放すなよ!」


わたしは必死でディーの腰に腕を回してしがみついていた。

ディーも疾走する騎獣からわたしが振り落とされないように左手でわたしを支え、右手だけで手綱を握っていた。


真っ暗な夜の街道を騎獣は狂ったように駆け抜ける。今やわたし達を狼のような獣の集団が追いかけてきていた。


ディーは騎獣が本能のままに森の中へ逃げようとするのを片手だけで巧みに捌いて街道を走らせているようだ。

わたしは恐怖の余り歯の根も合わずガチガチ鳴りっぱなしだ。体も瘧のように震えて竦み上がっている。


チクショウ! チクショウ! あの野郎ども! 自分達のケツの始末ぐらいしていけ!


もう怒りなのか、恐怖なのか解りゃしない。


「ディー! 落ちるッ! 落ちちゃう!」


ディーがわたしを抱え直そうとした瞬間騎獣が横に跳んだ。


あッ! と思ったときにはわたしの体は空中に放り出された。


「チカ!!!」


もう訳がわからないうちに地面に叩き付けられた。と思ったが何故かディーに抱き込まれて地面に転がっていた。

ディーはわたしを突き飛ばすように離すと同時にショートソードを抜き放った。

顔に生暖かい液体が当たる。訝しげに手で拭うと金錆び臭く闇より黒いものが指に付いた。


血? え? 誰の?


獣の唸り声、咆哮が響く。判然としない視界の中で幾つもの赤い点が光っている。剣の振るわれる音、鈍い打撃音。鋭く吐く息の音。


人は恐怖の限界を超えると悲鳴すら出ない。息を詰めて目を見開いて恐怖に慄くしかないのだ。


どうして、どうして、自分には《ストレージ》しか無いのだろう。


赤い二対の点が1つ消える。


どうして、小説のようにすごい魔法とか剣術とか無いのだろう。


どうして、《ストレージ》だけ?


赤い二対の点が1つ消える。


こんなストレージ戦えないじゃん!


赤い二対の点が1つ消える。


「チカ? 何かしてるのか!? フォレストウルフが消えたぞ!」


ディーに叫ばれてハッと我にかえる。


「《ストレージ》?」


赤い二対の点が1つ消える。


「それだ! 消えるぞ! 続けるんだ!」


「ストレージ! ストレージ! ストレージ!」


そう言われてわたしは叫んだ。


パパパと赤い点が消えていく。


「ストレージ! ストレージ! ストレージ!」


次々と赤い点が消えていく。

赤い点、あれは狼の目が光ってたんだ。それが次々消えていく。


わたしは声の限りに叫び続けた。



「・・・ッ! ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」


咳き込んだわたしの背をディーが擦りながら


「もう大丈夫だ、いなくなった。」


そう言った。


「・・・ホント? もう平気?」


「あぁ、もう大丈夫だ。チカのお陰で助かった。」


「よかった・・・」


力が抜けてそのまま地面に横倒しになった。


カサリ


下草を踏む音が背後から聞こえてビクッとなる。


「! スッ・・・・」


「まてまて!! 騎獣だ! 大丈夫だ!」


ストレージを唱えそうになったわたしをディーは慌てて制止にかかる。

恐る恐る顔を上げると夜も明けはじめたのか薄ら明るくなってきていてわたしにも騎獣だとわかった。

今まで周囲を気にする余裕など無かったから。幾分ホッとした。


「クルキルルル」


甘えるように鳴きながら頭に鼻先をグイグイ押し付けられる。


「お前も無事だったんね、よかった。」


宥めるように鼻先を撫でてやるが、ちょっと湿っていてばっちい。


「チカ、立てるか? 移動するぞ。」


そう言って手を差し出したディーの手をとる前に


「ディー、《洗浄》掛けてくれる?」


「?」


「チビっちゃった・・・」


ディーにものすごく気の毒そうな表情で見られた。





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