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22 出来るかな?

22 出来るかな?



フィシオノシア様に目印を付けていただいた石板列まで来るとわたしはその多すぎる文字の情報をざっと流し読みにしていく。

そして酒造の場所を丹念に読み込んでいき、『それ』がそこに無いことを確認した。


よし! 1つは大丈夫、でも発酵はあるワインビネガー酢の技能スキルで出てる。ということは『あれ』も作れるってことだ。

みんな大好きマヨネーズ、酢がなくてもレモン果汁とかでも代用出来るけどあったら嬉しい。


一応念の為に製糖の所も確認しておく。黒砂糖があるんだからね。


よし! ここにも無い。何か不思議だよね、無いものを探すって。


しかしたったそれだけの事をするのに実は5時間近くかかっていた。フィシオノシア様に目印を付けていただかなかったら何日も神殿に通わなければならなかっただろう。

なので神殿を御暇するときに


「フィシオノシア様ありがとうございました。」


そう言って頭を下げた。そうしたら


『またおいでなさい。』


と優しい言葉が返ってきた。


「はい!」


次に来る時は成果を出して技能スキル認定してもらうんだ!


わたしは意気揚々と神殿を出た。



翌日の午前中わたし達はとあるものを作るために必要なものを買い込んだ。


1 ジャガイモ

2 種大麦

3 おろし金

4 厚手の大鍋

5 さらし布

6 藁の莚


「これで何ができるんだ?」


首をかしげるディーに


「麦芽糖水飴を作ります!」


そう宣言した。


「バクガトウミズアメ?」


「砂糖や蜂蜜の代用品になる甘い物だよ。」


「ポテーイ(ジャガイモ)と籾麦で蜜?」


ディーはものすごーく疑わしげに言った。


日本の砂糖の生産事情というのはは原材料を輸入し精製して販売している。初めて日本に砂糖が入ってきたときにはそれはそれは高価で一般庶民は目にする事など無かったそうだ。薬の扱いだったようだし。

砂糖が一般に手に入るようになったのは明治に入ってからだそうだ。それでも戦時中は砂糖の入手は困難でサッカリン等の代用品が出回っていたそうだ。


では砂糖の無い時代の甘味は何だったのだろうか?


それがこの『麦芽糖水飴』なのだ。


農村で比較的手に入りやすい大麦ともち米で作ったらしい。今スーパー等で手に入る物は馬鈴薯でんぷんと麦芽から出来た水飴だ。


白砂糖に比べて糖の吸収が緩やかなのでダイエット食等で注目されている。わたしは煮物の照りを出すのに使っていた。


そもそもなんで『麦芽糖水飴』の作り方なんか知っているのかといえば、煮物をしたときに水飴を切らせていて代用品を検索していて偶々知ったのだ。

その時初めて水飴は砂糖を溶かしたものにあらず、というのを知った。物凄く手間暇がかかっていて作ろうなんて気はさらさら起きなかった。


そう実は日本でも作ったこと無いの。大麦自体が入手困難で諦めたのだ。大麦ってビールの材料になるからあまり販売してないんだよね。

ネットで輸入品の麦芽パウダーやパン材料のモルトパウダーを買って作るしかなくてコストを考えたら水飴買った方が安い。


作り方は熟読したから覚えているんだけど、量がよく解らなかったりする。もち米1.5合だったか、2合だったか。それに麦芽どのくらいだったか・・・


少しずつ検証しながらやるしかない。


「まず、種大麦を発芽させます。発芽した大麦には消化酵素のアミラーゼというものが含まれています。大麦の他には大根や唾液等にも含まれます。」


「シォウカコーソ?」


「食物を効率良く体に吸収させるために糖に分解させる為の物です。」


「スライムの体液のようなものか?」


「スライムの体液がどんなものか解らないけど考え方としては同じかな?」


「そのアミラーゼでポテーイから作ったでんぷんを糖に分解させて麦芽糖をつくり、ある程度煮詰めて水分を飛ばして水飴にするの。」


「種大麦が発芽するまで何日かかかるからその間にポテーイからでんぷんを作っておきます。」


風呂敷大のさらし布にコップ5杯の種大麦を出したらこぼれないように包み水を張った鍋の中に浸けておく。


「2日浸けるんだけどお水は毎日取り替えてね。」


ちなみに作業は全てディーが行っている。わたしに技能スキルが発生しても意味ないし。


「次はジャガイモ、じゃなかった。ポテーイの皮を剥きます。ディー、ポテーイに洗浄かけて。」


10kgの米の袋と同じ位の袋に詰め込まれたポテーイに洗浄かけて綺麗にしてもらう。


「こうしてポテーイを剥くとナイフに白いのが付くでしょ? これがでんぷんです。皮を剥いたらこのおろし金ですりおろして、この袋の中に入れてある程度たまったら水にさらしながらでんぷんを搾ります。」


鍋を出して大急ぎで縫った袋を鍋にセットする。


「わかった。」


ディーはポテーイを手に取ると案外器用に剥きはじめた。


「ディー料理って出来るの?」


「皮を剥く位ならな。」


う~ん、微妙。


「じゃあ、ある程度出来たら声かけて。」


ディーにそう言ってからわたしは別の作業に取りかかる。


しばらく水飴作りに日数を要するので街でお金を稼がなければならないので屋台で売れそうな食べ物を作るのだ。

山程あるドードを使った塩レモンの炙り焼きとクワエで仕入れて死蔵していた鯵を使った鯵フライだ。


まずは塩レモン。

というかレモンモドキ。緑色の見た目グレープフルーツをまな板の上で潰れない位の力を入れて押し転がす。

こうすると搾り器がなくても搾りやすくなる。ゴロゴロ右手と左手で1個づつ転がす。程よくぐんにゃりしてきたら半分に切って鍋の中に果汁を搾る。そこに塩を少々入れ、最後にレモンの香りがするメリッサの葉を2枚香り付けに入れて漬け込み液完成。

ドードの肉を2㎏ぐらいを一口大よりやや大きく切り分けたら金串でプスプス刺して味が染み込み易くする。

それを漬け込み液の入った鍋に入れて液を絡めたら蓋をしてしばし放置。30分ぐらいかな?


次は鯵フライ。

まずはせいごを取って、頭を落としたら内臓を掻き出して背開き。背骨を取って背ビレを取って腹ボネも取ったら出来上がり。

20匹あるからどんどん行こう!

全部捌き終わったら塩をふって30分ぐらい休ませておく。


さてさて、ディーの方はどうかな?


あ、まずい。木皿からポテーイが転げ落ちそう。そしてすりおろしたポテーイがさらし布にいっぱいだ。


「待って、待って。取りあえずこんぐらいで大丈夫だから。」


「あぁ、悪い。」


ディーはハッと手を止めてしゅんとした顔をする。


「ううん、多いに越したことないから大丈夫。剥いたポテーイとおろしたやつの半分仕舞っとくから。」


剥いたポテーイとおろしたポテーイの半分をお椀に入れて収納ストレージする。色変わっちゃうし。


しかし鍋とか器とか以外に使うな。今は長屋の備品も使ってるけど調理用に買い足さないとダメだな。


「じゃあこのおろしたポテーイを鍋に張った水の中で揉み出します。」


ディーがキュッキュッとおろしたポテーイを水の中で揉むと灰汁の茶色い水に濁っていく。


そうだ揉み出した後の粕を入れる桶がいるな。取りあえずスーパーの袋の余っているのに入れておこう。


しばらくそうやって揉でギュッと絞る。やっぱり力あるから速いな。


「うん。そしたらこの茶色い液体をしばらく放置すると底に白いでんぷんが沈殿するからそっと置いておこう。」


あ、上澄み掬うのにお玉いる、1個しかないんだよな。それと出来上がったでんぷんを乾かす木箱みたいなのも要るか。


「何だか青臭い変な臭いだな。」


言外に大丈夫なのかコレは、と言われている。わたしも小学校の理科の実験でやったきりだから自信を持って大丈夫と言えないところがナンともなぁ。


「コレはあと何回か水を取り替えて茶色いのが出なくなったら乾燥させて出来上がりになるから。」


でんぷんを沈殿させるのに時間がいるのでその間に足りない物を買い足しに行くことにした。










毎日寒い日が続いておりますのでお身体御自愛下さいませ。

なんと!ブクマ登録155件になりました! 皆さまいつもありがとうございます。


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