21 神殿と主神フィシオノシア様
21 神殿と主神フィシオノシア様
ギルド直売所の倉庫を出て中央通りを上がって行き2区の神殿を目指す。
何となくイメージで尖塔のある高い建物なのかなって思って上を見てたらディーに変な顔された。ナゼに?
想像してたのはイギリスのウィンチェスター大聖堂だったのだが外観はパンテオン神殿だった。
ただし、ちょースモールサイズ(笑)
日本でビルの隙間にポッンとあるような神殿だった。まぁ、周りにビルはないけど。
「・・・ここ?」
参道は10m無いかな。石造りのパンテオン神殿擬きも4m×4m位だ。なんで土地は余っているのにこんなにちいサイズ?
エドモンドさん所の奴隷商館の方が大きかったよ?
「入らないのか?」
ディーは普通の顔をしているので、うん、ここではコレが普通。
そして中に入って
「なんだこれ?」
ありえないでしょ、中に入ったら野球のグランド程の広さのホールに天井高概算15mの吹き抜けのホール。
3階までぐるりと書架が取り巻いているようだ。そしてホールには2m×2m位の石板がドミノの駒のように並んでいる。
「なんだこれ?」
理解できなくて2度言ってみました。
「何って神殿だが?」
何かおかしいのか? と言いたげなディーにわたしは悟った。
あー、ハイハイ。ふぁんたじーね。深く考えちゃいけないのね。こっちではコレがフツー。
気を取り直して一番近くの石板に近寄って見てみる。
「ふぉー! ロゼッタストーン擬き!」
石板の表面には文字がビッシリと彫られていた。
ナゼか意味は解るんだけど勿論日本語じゃないしこちらの文字でもないのよね。似てるのはフェニキア文字とか?記号とか図形とかに近い気がする。
「ディーこれ読める?」
「いや、読めない。というかこれは文字なのか?」
ちなみにこちらの文字はアルファベットに近い。文法は解らないが発音はアルファベットだ。
何で解ったのかというと、日本に無い固有名詞はそのまま聞こえるからだ。文字と照らし合わせば何となく理解できた。
例えば、モーギュウはmougiyuと書く。モーギュウの煮込みだと、mougiyu stew モーギュウシチューて感じだ。
「文字みたい。始祖が誰か書いてある。」
この石板は剣術に関して書いてある。
剣術を初めて技能として発現させたのはエストランという人で、斬撃はロンドベルという人で、というように延々と続いている。
この石板一つ一つがこんな感じだと思うと新しい技能を探すなんて無理かもしれない。そう思い若干途方にくれてため息を付いたときだった。
『おや、珍しいお客さんだ。』
「!!!」
不意にすぐ側で声がして驚いて飛び上がった。振り返ると人の良さそうなおじさんが立っていた。
『驚かせてしまったかい?』
言葉がでなくてアワアワしているわたしの隣でディーがサッと跪いた。
え? え? なに? 偉い人とか? なの?
『あぁ、君もそういうのはよいから立ちなさい。』
おじさんは苦笑して跪いたディーにそう言った。
「ありがとうございます。では失礼して。」
立ち上がったディーに目線でヘルプを出す。
「チカ、こちらの方はフィシオノシア様です。」
フィシ・・・なんとかさん? 誰だっけ?
「ラスター大陸の主神のフィシオノシア様だ。」
「・・・・・・・・え? 嘘! なんで!?」
主神って神様ってことだよね? どこからどう見ても普通の人の良さそうなおじさんにしか見えない。
『こんにちは、地球から来たお嬢さん。』
「こんにちは、お邪魔させていただいております。茅咲良と申します。」
挨拶されて慌てて頭を下げる。
『どうですか? こちらで過ごすのに不自由ではないですか?』
「言葉も初めから解りましたし、ディーにフォローしてもらっているし、《収納》も有るのでなんとかやってます。」
『そうですか、巻き込まれた違う世界の方達にはもっと色々してあげたいのですが中間管理職ですので権限の問題でささやかな事しかして差し上げられなくて申し訳ない。』
「えっと、いいんですか? そんなにぶっちゃけちゃって。」
ディーも聞いてるのに。
『今は日本語で話してますから。こちらの人には解りませんよ。』
あー、そうですか。
『それで今日はここに何を探しに来たんですか。』
「新しい技能を探しに来たんですけどこの量の多さにちょっと無理かなと挫けています。」
わたしがそう言うとフィシオノシア様はじっとわたしを見つめた。
『新しい技能ですか、何故に貴女はそれを求めるのですか?』
「わたしが帰った後にディーが街に定住出来るようにですね。どうもこの子は危なっかしくて。何て言うんですか生きる事に覇気がないと言うか。わたしというお荷物が居なくなったら自身の事を粗末に扱いそうで怖いんです。なので新しい技能を見つけて定住して商売にして従業員とか付けちゃえばそうそう無茶はしないかな? なんて思って。ディーはすごくいい子なんです。だから幸せを探して欲しい。生きていれば可能性は0%ではないでしょ。だからそれを見つけるまでは死んじゃダメなんです。」
未来の可能性は『ゼロ』出はないから、今見えている足元だけを見て全てを諦めて欲しくない。
世界は自分が思っているよりずっとずっと広い。ほら異世界なんて物があるほどにね。
『そうですか。彼は貴女に会えて良かったですね。』
フィシオノシア様は目元を綻ばせてそう言う。
「そうですか? 色々お世話ばかりかけてますけど。」
『この状況でも貴女は決してあきらめない、その無駄に前向きな強さは得難いものですよ。』
「わたしは強くないですよ? 自分が弱くて非力な事を知ってるだけです。」
うん、出来ない事は恥ずかしい事じゃない。だから手伝って、助けてと言う。そして自分では出来ない事を助けてもらったのだから、ありがとうと最大の感謝を捧げる。それだけだ。
だって自分にはそれしか出来ないから、出来ることを頑張るのだ!
『では私も少しお手伝いをしましょうか。』
「そんな畏れ多い、と言いたいのですがこの規模を見て助けは必要だと思いました。申し訳ないのですが食材、調理に関する技能列がどの辺りか教えていただけますか?」
フィシオノシア様はキョトンとすると何やら可笑しそうに喉を震わせた。
「あの? 何か変でしたか?」
う~ん、笑われる様なこと言ったつもりはないんだけどな。
『いえ、もっと直接的に未発現の技能を聞かれるものかと思いましたのでね。』
「はぁ、それだとわたしがそれを出来ないと無理じゃないですか。わたしそこまで能力無いですよ。」
フィシオノシア様わたし一般人ですよ? そもそもわたしが解らないものをどうやってディーに伝えるというのよ?
『ふふ、貴女は中々おもしろい。では食材、調理に関する技能列はあの辺りです。頑張りなさい。』
フィシオノシア様は彼方の方向を指し示すと淡い光が立ち上った。
「あり・・・」
振り返ってフィシオノシア様に御礼を言おうと思ったら姿がかき消えていた。
ありゃ。
「フィシオノシア様ありがとうございました!」
取りあえず天井に向かって御礼の声を張り上げておいた。ついでに頭を下げておく。
さて、行くか!
仄かに光る場所は前方中心部よりやや前左手側の中程だ。そこに向かって歩きながら
「ディーは何かやりたい事ってある?」
そう聞いた。
「やりたいことか・・・ 考えたこともなかったな。」
「? 子供の頃成りたいものとか将来の夢とかあったんじゃないの?」
ディーは何かを思い出すかのように空を見て、なんだろ? 寂しそうというかなんとも言えない表情をした。
「・・・本当にそういう事を考えたことが無かったな。」
そう言った後、馬鹿みたいだな、と小さな小さな呟きが聞こえた。
「あ、あのね。わたしもさ、新しい技能を探すんだ! とか大きな事言ってたけど実際何が自分に出来るかなんてわかってなくて、多分わたし一人じゃ出来ないと思うの。だから一緒にやってくれると嬉しい。どうかな?」
ディーに暗い顔をさせたくなくて、ともかくナンか言わなきゃと焦れば自分で何言ってるんだか支離滅裂になる。
アワアワしているわたしを眺めディーは苦笑いを浮かべると
「・・・チカは俺の主人なんだから当たり前だろ。」
そう言ってポンポンとわたしの頭を撫でた。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。




