表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/29

19 奴隷商ふたたび

19 奴隷商ふたたび



日付変わって翌日。早々に朝食を済ませたわたしたちは3区にある奴隷商に向かっていた。ディーの奴隷契約の変更の為だ。


今日は奴隷商の後市場調査をしその後神殿にて職能に関する調べを行う予定だ。サクサク行こう。


前に来たときは(ディーを買ったときね)周りを見ている余裕ホントなかったんだなと思う。


門で一緒になった商人のおじさんに子供が一人でウロウロするのは危ないから護衛を用意した方がいいって言われて何も考えずに商業ギルド推奨の場所に来たら奴隷商だったのよ。

あれは焦ったな。契約する段階でようやくそこが奴隷商だったって気がついたんだけど、まさかやっぱり要りませんって訳にもいかず、実際護衛は早急に必要だと感じてたし、おっかなびっくりディーを買っちゃったのよね。


今日も石造りの立派な建物を目の前にして嘆息した。


日本銀行本店みたいな建物を前にして奴隷商館だとすぐに解る日本人がいたら逆にビックリするわ!


「どうした? 入るんじゃないのか?」


建物を見上げたまま動かなくなったわたしに気が付いたディーはその重い鉄の扉を押し開けたまま待っている。


「いま行く。」


短く答えて覚悟を決めるとその扉を潜った。



商館の店員というより執事バトラーのような人に案内された商談室でわたしは浅く巨大なソファーに腰掛けている。


深く座ると完全に足がプラプラ浮いちゃうのよ。お子様っぽくなって恥ずかしい。


ディーは座らずにわたしの後ろに立っている。別に座ったって良いと思うんだけどそれは矜持の問題だと言うのでそういう事に疎いわたしにはどうにも出来ない。


「お待たせいたしました。」


先程の執事バトラーさんが別の人を連れて戻ってきた。


あ、この人ディーを買ったときと同じ人だ。


「御客様。本日は彼の契約の見直しを御希望されていると御伺い致しましたが相違ございませんでしょうか?」


細い眼鏡を掛けた神経質そうな男の人はわたし達の対面のソファーに座るなりそう切り出してきた。


「はい、購入から1度だけは契約の書き換えを無料で行っていただけると御伺いしておりましたので。」


眼鏡さんは軽く頷くとこちらが要望を切り出す前に


「先に申し上げておきますが、彼、 ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーにこれ以上の能力の制限はかける事でしたら出来かねますので御了承くださいませ。」


ピシャリと切り付けるようにそう言われた。



その対応にを訝しく思い


「あのそれはどういう事でしょう?」


そう聞くと眼鏡さんの気配がスゥッと冷えた。


え? なんか間違えた?


「どういう事かと? 先の契約時に申し上げた筈ですが?」


厳しい視線を向けられて怯む。


うっ、それを言われると辛い。いかにテンパっていたとはいえ殆ど何も記憶にないのは全面的にわたしが悪い。


だけど恐いからと言って引き下がったらディーの能力は制限されたままになってしまう。頑張れワタシ。


「先の契約時に御説明をいただいたのですが、わたしが何の心構えもなく契約を結んでしまった為彼には不自由な思いをさせてしまいました。改めてことわりにかなった契約に書き換えたく足を運んだ次第でございます。何卒御助力を御貸しくださいませ。」


わたしは眼鏡さんに頭を下げた。しばらく下げたまま動かないでいたら


「御客様、いえチカ様どうぞ頭を御上げ下さいませ。」


フッと息を吐いて眼鏡さんはそう言った。


恐る恐る顔を上げると眼鏡さんは先程の冷気をおさめてくれていた。


はぁー ( ´Д`)=З よかった。


「チカ様立ち入った事を御伺い致しますが御出身はロドニア国以外でいらっしゃいますね?」


「はい。それが何か?」


「そう言う事であったのですね。ようやく合点がいきました。そうなれば謝罪をせねばならないのは私の方です。大変申し訳ございませんでした。」


そう言って眼鏡さんはわたしに頭を下げた。


「では改めて御説明させていただきます。そもそも奴隷制度というものは大陸共通ではございません。各国でかなりの違いがございます。

ですので、ロドニア国の奴隷は契約者抜きでの国を越えての移動は出来ません。そしてロドニア国の奴隷は他国で売ることは出来ません。何故ならロドニア国の奴隷は奴隷と言えども一定の租税さえ納めれば経済的に独立した生活を送ることができるからです。奴隷と言えどもロドニア国の国民でもあるのです。

奴隷は国内・領内を移動する自由が認められており、肉体労働だけではなく、家庭教師や貴族の秘書といった知的労働に従事することも出来ます。

更に市民権を得ることによって自由人になる(解放奴隷)道が開かれております。

鉱山労働者や家庭教師など奴隷の仕事は様々であり、言ってみれば職業と就職先を自分で決定する権利が無い労働者と言ってよいでしょう。

私共奴隷商は彼ら奴隷達がより良い条件で契約を結べるようにするのも仕事の1つなのです。」


そうだったんだ。何だかんだ人材派遣の代理人みたいだね。


「そうなんですか、ではディーの能力を全て解放しても問題はないのですね?」


「解放することに問題はありません。但しその能力によって契約者が不利益を被らないための枷はつきます。」


「解りました。ディーもそれでイイかな?」


「マスターが良いなら異存はない。」


もぉ、自分の事なのに。


「ではその様にお願いいたします。それとその枷に期限を付ける事は出来ますか?」


「はい、可能でございます。」


「では一年。その後は解放奴隷として自由人になれるようにお願いいたします。」


「チカ!」


聞こえな~い、聞こえな~い。


「宜しいのですか?」


「えぇ、彼は既に買取り金額以上の働きをしてくれていますしわたしから自身を買い戻す金銭をもう得ています。本来なら今この時点で解放奴隷として自由人にしてあげなければならないのでしょうが彼を解放してしまうとわたしは困ってしまいます。ですのでこの先は隷属契約ではなく雇用契約を結びたいと思っております。わたしの故郷では雇用契約は最低でも年に一度の見直しを推奨しております。ですので今回の契約は一年、一年後に契約の見直しをし再度の雇用契約を考えたいのです。」


眼鏡さんはまじまじとわたしを見るので何か居心地が悪い。


「あの、何か不都合な事でも有りました? この国の契約条項に不案内ですからおかしな箇所があれば御指摘いただきたいのですが。」


「・・・あ、いいえ。そういった事ではございません。何と言うか・・・。あぁ、もしや御国はバルディア国なのでしょうか?

とても進歩的な御考えで感服いたしました。正直に申し上げますと私は貴方様との商談は気が進みませんでした。

ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーを買い取られた際彼に対する制約が多すぎるのにもかかわらず変更を一切なさらずに連れていかれ、一体彼をどのように扱うつもりなのか不安に感じておりました。

私共は双方が了承しての契約に関して異議を唱えることは出来ないのです。

本来なら契約の書き換えサービスはございませんが、お連れいただいた後にチカ様が彼の制約を緩めても良いと思ってくださったその時に1度だけは無料で書き換えを致しますと申し上げておけば彼の制約を緩めていただけるかと思いその様に申し上げました。」


うわ~、わたし相当ダメな主人だと思われてたんだ。ってか言ってよ! あ、言ったのにボヘ~っとしていたわたしのせいだ。


「申し訳ないです・・・」


もうホント小さくなって謝るしかないわよね。


「いいえ、誤解してしまっていた私の方こそ申し訳ございませんでした。それで枷についての御希望などはございますか。」


「どんな枷が掛かるのですか?」


「先ずは無断逃亡防止、契約者に対して危害を加えない事。契約者に関して知り得た情報を第三者に開示しない事。この三点は絶対に付きます。」


「解りました。ではそれだけでお願いいたします。」


「それだけで宜しいのですか?」


「? それ以外って何か必要なものってあります?」


勝手に居なくならない、危害を加えない、守秘義務。それだけで十分じゃない?


「命令に逆らわない、逆らった場合の仕置き等ですね。」


「・・・わたしには必要ないです。人は其々考え方が違うのが当たり前です。それは話し合いで解決すべきだとわたしは思ってます。」


どうしても自分の意志を相手に聞いて貰いたいのならば話し合うべきだ。言わなくてもわかるでしょとかは幻想だ。


暴力で人の意志は絶対に自由になんかならない。暴力で言うことを聞かせようなんて最低だ。


ヒステリックに叫びながら一方的に叩かれ蹴られた時のあのどす黒い感情は澱んで心の奥底に沈澱する。

された側は決して忘れない。忘れられない。


だから要らない。


「畏まりました。ではディフェルスリァ・アグリ・フェンディガー契約の書き換えをいたします。そこへおかけなさい。」


ディーは眼鏡さんにソファーに座るように指示された。


ディーが座ると眼鏡さんは空中から古めかしいA4サイズの紙(?)と銀色のペン(?)を取り出すとそのペンで出した紙に書き付けた。


「チカ様こちらの内容を御確認いただき相違無いようでしたら御署名をお願いいたします。」


その内容とは



* * * * * * * * * * *



雇用契約書



ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーは茅咲良と以下の条件で雇用の契約を締結する。


・雇用期間はフィシオノシア暦1643年7月10日より1644年7月9日までとする。

・期限後はディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーを奴隷より解放し自由人とする。

・この契約の締結後よりディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーの能力の制限を解除する。

・ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーは雇用者茅咲良に無断で逃亡してはならない。

・ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーは雇用者茅咲良に対し危害を加えてはならない。

・ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーは雇用者茅咲良の情報を第三者に開示してはならない。


ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガーは主神フィシオノシアの御教えを遵守し誠実にその職務を遵守する事を誓う。



フィシオノシア暦1643年7月10日

契約執行人 エドモンド・ロウファン・アデンド


契約者 ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガー


雇用者 茅咲良





* * * * * * * *




今度はちゃんと確りと書面を確認して署名をした。


渡された銀色のペンで書くと署名がふわりと淡く発光する。そう言えばあの時もこの光景に見入ってしまったのを今思い出した。


隣に座るディーに書面とペンを渡す。直ぐにサラサラと署名しやがった。ちゃんと読んだのかッ!


わたし達の署名を確認すると眼鏡さんは


「契約執行。」


眼鏡さん改めエドモンドさんがそう言うと紙の文字が金色に発光して紙は裾から金色の粒子となって渦を巻くとわたしとディーに降り注いだ。

この光景には覚えがある。この金色の粒子は魔法の光だ。


「執行完了。」


エドモンドさんの言葉にハッと気がついた。


わたしトンネル復旧工事の時『魔法初めて! 』って大騒ぎしたけど初めて魔法はここでした。あの時はこれが魔法だって解らずに『うわっ! ホコリかぶっちゃった!』って服をはたいたのを思い出しました。


もうホント色々ザンネンだよワタシ。トホホホ(ー_ー;)


「ありがとうございました。あの代金お支払いさせてください。」


あまりにも申し訳ないのでそうお願いすると


「いいえ、初回の後処理ですのでお気になさらなくて結構ですよ。必要なときにはキチンとそう申し上げますので。次回からはこういった事が無いようお願いいたします。」


「解りました。では今回はお言葉に甘えさせていただきます。本当にお世話になりました。」


わたしは深くお辞儀をして感謝の意をあらわす。このぐらいしか出来ないしね。


さて、用も済んだしさぁ行こうかとディーを即して立ち上がったらディーがよろけてソファーに倒れこんだ。


「ディー!?」


な、なになに? ど、どうしたの?


慌てふためくわたしにエドモンドさんは


「大丈夫、心配には及びません。単なる魔素欠乏です。」


グッタリともたれ掛かるようにソファーに沈み込んでしまったディーの様子を見て事も無げに言った。


「能力の3/2を制限していたんです。器が急に大きくなったので体内の魔素が不足したんです。2~30分も休めば動けるようになります。どうぞソファーをお使いください。」


エドモンドさんがそう勧めてくれたので申し訳ないがソファーをお借りしてディーを横にならさせてもらう。


くっ、重いぃ~


どうにかこうにかディーを寝かせるとわたしの座るとこがなくなった。仕方ないのでディーの頭を膝に乗っけて無理矢理座る。

状況的に膝枕をする格好になったが致し方ない。30分も所在無げに立ったらままも嫌だし。足が痺れたらディーに担いでもらおう。


「あのディーは何で能力の制限を掛けられてたんですか? わたししばらくしてから知ったんですが。」


そうなのだ。そもそもディーの能力制限はわたしが希望したものではない。そんな事が出来るなんて思いもしてなかった。


「本人の希望でした。彼はヨーキの治療院で治療費を賄え無かったため身売りしたんです。その時の事は聞いてませんか?」


「右目と角を失う怪我をして冒険者から奴隷落ちをしたとしか聞いてません。あまり以前の事は話したくはないようで、わたしも聞き出そうとはしませんでしたし。」


「そうですか。私もどういう状況で怪我を負ったのかまでは聞いてませんが、ヨーキの治療院に運ばれて来た時には右腕肘下欠損、腹部を貫通する刺傷、全身打撲、裂傷、失血によって意識はなく酷い状態だったそうです。ディーを運び込んだのは村の住人で山で切った材木を流送していて拾い上げたそうです。遺体だと思ったら息があって驚いて運んだそうです。意識が戻るまで14日かかったそうです。」


「よく生きてましたね。」


「そこは種族特性とでも言うのですか、彼は竜人ドラゴニュートの血が入ってますからね。」


竜人ドラゴニュートは腕も生えるんですか?」


「まさか、治癒魔法で元に戻すんです。腕一本だと1千万ペレ位ですかね。」


「えぇ? ディー35万ペレでしたよね。赤字なんじゃないですか?」


「いえ、彼の仕入れ価格は5万ペレです。治療費は装備品等を売却して賄ったようなんですがその5万ペレはどうしても払えないから奴隷として売却してくれと本人に言われたそうです。あちらも困惑されてわざわざうちの商会を呼んだそうです。」


なんでわざわざ? と思ったのが顔に出たのだろう


「こう見えましてもうちの本店ロドニア国御用達ですから。」


フンスー と鼻息荒く自慢げにエドモンドさんは曰わった。


左様で。


「うちで取引条件を決めたときにまず能力の制限を希望され、売り先は冒険者ギルド員以外の者にして欲しいと言われました。怪我も怪我でしたから危険な仕事を憂いたのかと思い希望の通りにいたしましたが、まさかそのままお連れになる方がいるとは思いませんでしたので。」


「お話を聞くかぎりでは奴隷に成らざるを得ないような状況でもなさそうですよね。」


気になるのは腹部の刺傷。装備品は身に付けていたままなら物取りの線も薄いか。とするとトラブルにでも巻き込まれたかだよな~


エドモンドさんもそういうのを考えていたのか


「えぇ、何か困ったような事は起きてはおりませんか?」


と聞いてきた。


「今のところは何も。」


むしろわたしの方が色々あったかも。


「そうですか、もし揉め事に巻き込まれるようなことが御座いましたらギルドを頼ると宜しいですよ。調停のようなこともしてくれますから。」


「解りました。御気遣いいただきありがとうございます。」


エドモンドさんにお礼を言いつつ、眠るディーを眺めて、そういえばディーの寝顔見るの初めてだな~等と呑気に思っていた。





またまた遅くなりました。申し訳ない m(_ _)m

なんと! ブクマが110件になりました!

ありがたや~ ありがたや~

読んでいただける皆さんのお陰です!

ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ