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16 招かれた者 還る者

16 招かれた者 還る者



道理で隊長さんは途中からわたしに素っ気なかったわけだよ。


隊長さんイーサ・ヤマさんは日本名イサヤマ(伊佐山)さんですかね。


彼の言いたいことは理解できるしわたしだってすきこのんで奴隷を買ったわけじゃない。

誉められたことじゃないし罪悪感だってちゃんと持っている。


でもね、それに対してわたしを責めるのはあんたじゃない!


ディーに咎め立てされて恨まれるならともかくわたしにはわたしなりの必要性があったからだ、全然関係ない人間に言われたくない。


「答えられないのか? 異世界こんなところで倫理観を問われるとはおもって無かったか? 生憎此方には君が考えているより多くの日本人が来ている。君の所業を知ったら同郷の者達は眉を顰めると思うが?」


ここで隊長にムキになって反論しても絶対負ける。だって日本人の倫理観じゃ隊長の言っている事の方が正論だもの。


かといってわたしの事情も斟酌せずに言いたい放題言われるのも腹立たしい。


さて、どうしてやるか


あッ! イイこと思いついた! (ノ≧∇≦)ノ !!


「・・・・」


俯いて目を閉じ深く息を吐く。押さえ付けていた感情の枷を外す。

鼻の奥がツンとしてじわりと瞼の奥が熱を持つ。


パタッ、パタパタパタッ・・・


握りしめた手の甲に大粒の涙が溢れ落ちた。


「チカ?」


ガタリとイスの動く音がした。ディーが移動してわたしの前に膝をついたのだろう影がさす。


「え? おい・・・」


隊長の焦った様な声も上がる。


まさか泣くとは思ってなかったってか?


いや、先程の言い方だと普通泣くだろ。悪いけどしばらくコレ止まんないから。せいぜい女子を泣かせた後味の悪さを感じるといい。


女性も泣かすと自分がたとえ悪くなくとも非情に罪悪感を感じると上司が言っていたことがある。アレは卑怯だと。


なのであえて卑怯な手を使わせていただきました。


「・・・お前チカの同郷なのか? お前達の故郷の倫理観とは何だ?」


「あぁ、そうだ。私達の国では奴隷制というものはない。それは私達の国では人の尊厳を踏みにじる最悪の制度だ。」


「ここはお前達の国とは違う。それは理解しているのか。」


「勿論だ。」


「ッ! だったら何故チカを責める! お前達の国は此方ほど過酷ではないのだろう!」


ディーが隊長に向かってだろう怒鳴った。


ビックリして顔を上げる。今までディーが誰かに怒鳴った事なんてなかったから。


「俺はチカに最初に会ったときどこかの金持ちの子供だと思った。日にあたった事のないような肌の色して労働をしたことのないような手をしていた。長く歩いたこともないようで少し歩いたら靴擦れで足は血塗れになった。」


う、確かにあれは痛かった。あれでディーに抱えられての移動がデフォになったのよね。


「体力も力もない、狼の死体を見て気を失いそうにもなる。魔法が使えるわけでもなくましてや剣など持ち上がりもしない。そんな子供が生きていけるほど此処は優しい所か?」


たたみかけるように捲し立てられて隊長は返事に窮する。


「いや、そんな筈は・・・」


「俺が一緒に居ても襲われた事だってある。自分の身を守れない者が自分の命を守るために奴隷を買うのはそんなに悪いことか!? 」


街道で騎獣で追い駆けられたことあったなぁ。


「チカは何時だって泣き言一つ言わなかった。俺の言うことだって奴隷の言うことだからって無視したりなんて事はない。チカは生きるために俺を買った、俺を、奴隷を買わねばチカは今頃死んでいるか奴隷になってただろう。俺達の事を何も知りもせず理由も聞かずチカを責めるお前はナニ様のつもりなんだ!」


泣いて愚図ったって何にも解決しないし、ディーは確かに奴隷だけどこっちの世間を知らないわたしの保護者みたいなものだ。

だからディーの指示には従う。死にたくないもん。


「ディー、もういいよ。他の知らない人に何言われたってディーがそうやって言ってくれるならわたしは大丈夫だから。ありがとう。」


よかった、ディーはちゃんと解ろうとしてくれている。それだけで今まで自分がしてきた事が無駄じゃないって思える。


わたしは手のひらで流れた涙を脱ぐって息をついた。ため息みたいになったのは仕方のないことだろう。


トントン


ドアがノックされ開いた。


「失礼、飲み物持って来たんだけど・・・」


返事も待たずにドアが開きワゴンを押した女性が顔を覗かせた。


驚いて振り向いたわたしの顔をみると


「伊佐山~ あんた何女の子泣かしてんのよ! 見なさい彼氏だって怒っちゃってるじゃない!」


ツカツカと隊長に歩み寄るとスパーンと後頭部をひっぱたいた。


「ッテ! 何すんですか!」


「何すんですかじゃないわよ、あんた男でしょ。如何な理由があろうとも女性を泣かすんじゃないわよ。だからあんたは何時までたっても嫁が来ないのよ!」


きれいなお姉さんいま嫁とか関係ないんじゃ・・・


「ゴメンなさいね、デリカシーのない奴で。わたし田中宏美たなかひろみと申します、伊佐山の上司をしております。」


深々と頭を下げられて思わず立ち上がって


茅咲良ちがやさくらと言います。」


とわたしも頭を下げた。


「茅さんだからチカさんなのね。」


「はい、こちらの人は言いづらいようなので。」


「そうね私も田中が訛って『ターニャ』と呼ばれてるわ。馴れるまでは呼ばれる度に恥ずかしかったわ。」


どうぞ座ってと田中さんは促す。どうやら隊長から田中さんに主導権は移ったようだ。


「チカさん、単刀直入にお伺いしますけど此方へ来るときに白い部屋で管理者と名乗るものに会った?」


白い部屋? 管理者? 何だそれは?


「? いえ。会ってません。」


首を横に振ると田中さんに気の毒そうに見られた。


「実はこの世界に来るには2つのパターンがあって1つはその白い部屋で管理者に会って送り込まれるパターン。もう1つは迷い込んでしまうパターン。迷い込んでしまう原因は1つ目の送り込まれる人間を此方に渡すときに開けた空間に吸い込まれてしまうことらしいの。」


「つまり巻き込まれたと。」


「そう。管理者によって送り込まれた者は此方の世界に合わせて身体の再構成、精神力の補強、魔法を使えるような下準備、此方の知識や常識、金品や装備等諸々を得て此方に来るの。最初から最強スタートみたいなものね。」


なにソレ、わたしの苦労は何なんだろう・・・ ズルくない?


「それに比べて迷い込んでしまった者は異世界言語の補正と何か1つだけ技能スキルが付くだけ。その技能スキルも此方に来て初めて困ったと思ったものを補正するものが付いてしまうのよ。」


「つまりもし夜にこっちに来て暗いから明かりが欲しいと思ってたら・・・」


ライトアップが付いてしまうのよ。」


うわー、まだ収納ストレージの方が使えるよ!


「ただひとつの救いとしては迷い込んだ者は必ず還れる。」


田中さんはハッキリそう言いきった。


「帰るんですね。それがどうして分かったんですか?」


そう言ったわたしを田中さんは怪訝そうに見た。嬉しくないの?ってところだろう。


「どういうタイミングなのか、どこにトリガーがあるのかは解らないけどある日突然帰るの。どうしてそれが解るのかというと送り込まれた者と知己になっている人はその送り込まれた者にインフォメーションがながれるから。【フレンド:〇〇さんは日本に帰還ログアウトしました】って感じに。」


「まるでゲームみたいじゃないですか、何々ですかこの世界って・・・」


「管理者は日本のゲームをシステムの参考にしているらしいわよ。ステータスとか見れるもの。因みに見てもイイならあなた達のも見れるわよ。」


そう言うので書いてもらった。



****


名前: 茅咲良ちがやさくら 通称:チカ


年齢: 25


性別: 女


職業: 商業ギルドランク F


体力: 20


筋力: 8


敏捷: 3


知力: 36


器用: 27


精神: 15


幸運: 3


技能: 収納ストレージ


経験値 8



****


名前: ディフェルスリァ・アグリ・フェンディガー 通称:ディー


年齢: 19


性別: 男


職業: 奴隷 商業ギルドランク F


体力: 746


筋力: 859


敏捷: 654


知力: 21


器用: 43


精神: 168


幸運: 3


技能: 【《身体強化》《剛力》《雷属性魔法》《外殻強化》《咆哮》《風属性魔法》契約により使用不可】《洗浄》《灯》《着火》《剣術》《体術》《歩法》《魔力錬成》


経験値 57



****



「うわっ! 低くッ!」


数値化されると己の能力の低さに驚く。さらにこっちの子供ですら体力は100を越えるそうだ。


「ねぇチカさん。貴女さえ良ければ私達の国に来ない?」


ステータスの書かれた紙を見て田中さんはそう誘ってくれる。


「私達の国?」


「日本からはかなりの人数が此方に来ていてね何かと不便なんで国を造ったのよ。バルディアって国なんだけど聞いたことない?」


「聞いたことあるような?」


「イソガルさんの息子が頻りに言ってた所だ。」


あぁ、なるほど。


「それは保護下に入るということでしょうか?」


「そのステータスじゃ確かに此方でやっていくのは厳しいだろ。」


口を挟んだ隊長に目を向けると


「先程は悪かった。まさか迷い込んだ者だと考えもせずに自分の思い込みだけで君を批難してしまった。申し訳ない。この通りだ。」


隊長はわたしとディーに頭を下げた。


「お詫びと言っては何だが自分達の国へ来て欲しい。自分にも援助させて欲しい。」


二人に心配そうに言われて心が動かなかったとは言わない。でもそれは何か違う。


「お気持ちはありがたいんですが、一から十までお世話をしてもらわなきゃいけない子供でもありませんので御遠慮申し上げます。」


わたしはキッパリ断った。


「確かに大変かもしれませんが滅多にない経験ですから、ディーにはこれからも迷惑を掛けるけどゴメンね?」


「大して迷惑な事なんてないぞ。」


えへへ、ありがとう。


「それにこれからドランに行ってディーの契約の書き換えをするんです。」


笑ってそう告げるわたしに田中さんと隊長は本人達がそう言うならばと納得してくれたようだ。


結局どうしてここに案内されたのか隊長の意図がよく解らなかったが取りあえずドランの探索者ギルドにどこ〇〇ドアで送ってくれるそうだ。


田中さんは別れ際まで心配してくれて


「本当に大丈夫? 何か困った事が出来たら必ず頼って頂戴?」


そう言って田中さんはわたしとディーのギルドカードに刻印を刻んでくれた。困った事が起きたらどのギルドでも良いからコレを見せれば直ぐに連絡が付くからと言われた。


同郷というだけでここまで世話をやいてくれるのってありがたいけど大丈夫なのかな? とちょっと田中さん達が心配になってしまった。





説明回ですね、どうしても自分には設定が解っているので初めて目にする方が解りやすいのかがよくワカリマセン。文章力の拙さが出ますね。ので、解りにくい! この辺の説明を詳しく等教えてくださると大変参考になります。よろしくお願い致します。

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