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13 親子喧嘩は他所でやってください

ネグレクト的な表現が在ります。苦手な方は御注意下さい。

13 親子喧嘩は他所でやってください



「・・・・・☆#*◇☆!」


うるさい・・・


「・・・静かにお願いします。マスターはまだ休んでおられます。」


ん? 何かあった? 起きなきゃ・・・


「って、だから話があるってんだよ! いいからそこどけよ! 亜人のクセに人間様の邪魔してんじゃねぇよ!」


パチッと意識が覚醒した。


「ディー、どうしたの?」


声をかけるとディーは苦々しい表情で振り返った。


「君、独りで行商してるんだって? 何かと大変だろ? 気の毒だから僕が一緒に行ってあげるよ。」


ディーが言葉を発するのを邪魔するかのごとくソレはわたしにそう言った。


何コイツ。


多分イソガルさん所の息子なんだろうけど紹介もされてないし、コイツ自身も自己紹介すらしてこない。


わたしは目線だけでディーを呼ぶとこそっと聞いた。


「何アレ?」


「悪い、止めきれなかった。」


全くでかい図体でシュンとされたら

かぁわぅいい~ (ノ≧з≦)ノ じゃないか!!


「あー、いいよ。仕方ないちょっと聞こえてたし。」


゛亜人のクセに゛


亜人ねぇ、この世界には人以外の種も普通に生活している。人寄りの形態の姿もあるしその種の原形に近い形態もある。

ディーだって暗闇のなかで目が光っていて最初は驚いた。


でも言葉は通じるしお互いの習慣や文化に多少の違いがあるぐらいで特に皆気にはしていないようだった。


あからさまな差別的言動を取られたのはコイツが初めてだ。


こういう手合いは得てして人の話しは聞かない。ぜーったいに会話するだけムダ。んじゃどうするかと言うと勿論責任者に引き取ってもらう。

・・・ただ厄介なのは周りも全部同じ手合いだった場合だ。

まぁ、どっちにしろまとめて相手にすれば面倒事は1度ですむし。


「じゃぁ行こっか。」


わたしはディーの手首を掴んでイソガルさん達の方に向かった。


何か後ろでキャンキャン吠えてるけど聞こえな~い(笑)


「イソガルさん、失礼します。今御時間よろしいですか?」


騎獣車の側でフグタンさんとナミオラさんと話しをしていたイソガルさんに声をかける。


「はい、大丈夫ですよ。何かございましたか?」


イソガルさんはわたしに向き直ると応じてくれた。その際にわたしの後ろへ視線が向きちょっと不可解そうな表情を見せた。


「あの方はこちらの方ですか。」


わたしは後ろからついてきていたソレを示した。


「はい、私の息子でカッツオといいます。息子が何か?」


「先ほどあの方が私共のところに参られまして、その時わたし疲れが出たのでしょうかお恥ずかしながらウトウトと寝入ってしまってました。ですのであの方が来られたときにわたしの従者がわたしがまだ休んでいるので静かにして欲しいと申し上げたところ、『って、だから話があるってんだよ! いいからそこどけよ! 亜人のクセに人間様の邪魔してんじゃねぇよ!』と。それはこちら様の総意なのでございましょうか?」


意訳↓


『人が寝ているところにいきなりきてうちの子に暴言かますのはあんたらの常識なワケ?』


「それに『君、独りで行商してるんだって? 何かと大変だろ? 気の毒だから僕が一緒に行ってあげるよ。』と見も知らない方から仰られるのは私共も困惑するばかりでいったいどういう事なのかお伺いしたく参りました。」


意訳↓


『それに知らない人間に一緒に行ってあげるって言われても気持ち悪いんだけど? 何なワケ?』


以上の心の声をオブラートにくるんで発言してみました。言葉使いって大事だもんねぇ(人はソレを慇懃無礼とよぶ w)


イソガルさんはわたし達と息子を忙しく交互に見、次いで見る見る間に顔色を悪くする


「カッツオ! お前は何て失礼な事をしたんだ! チカさん達に謝るんだ!」


ツカツカと息子に近付くとその耳をギュウっと捻った。


「イタッ! 何するんだよ!」


「何するもない! お前はどれだけ失礼な事を言ったのかその自覚もないのか!」


「チカさん、ディーさん私の躾が成っておらずお二人には大変申し訳ない事をいたしました。」


イソガルさんはムリムリ息子の頭を押さえると力任せに下げさせた。


捲り上げた袖から見える腕の筋肉がプルプルしているのが見てとれたので相当力を込めているのだろう。


「何するんだよ! 僕は彼女が亜人なんかとしか居られないのを気の毒に思ったから善意で声を掛けてあげたのに!」


ソイツはイソガルさんの手を弾き飛ばすと食って掛かる。


「差別的なものの言い方をやめなさい! 失礼だろう!」


「だからなんで失礼なんだよ! グランディアじゃ亜人は人の下だっていうじゃないか!」


「ここはグランディアではないし王都かぶれもいい加減にしなさい! よそ様にまで迷惑をかけてお前は一体自分を何様だと思っているんだ!」


「僕は! 何時までもこんな行商人なんてやっていたくない! その為にはバルディアの関係者と強引にでも縁を繋いで何が悪い! あんたの古臭いやり方を後生大事に守ってたら僕はいつまでもどさまわりの行商人じゃないか!」


怒鳴り合いの応酬がトンネルに反響してうるさい。


うわ~ 超どうでもいいハナシ始めましたよ、この親子。イソガルさんはまともな人でよかったけど本当マジで巻き込むのやめて。


「カッツオお前自分の父親になんて口の聞き方だ!」


おっと! フグタンさんも参戦だ! (笑)


「本当の事を言って何が悪いんだ! 子供は親を選んで生まれてこれないんだから自分で強引にでも縁を持たなきゃ何にも始まんないじゃないか! 僕だって、こんな行商人の子供じゃなくちゃんとした家の子供に生まれたかったよ!」


子供は親を選んで生まれてこれないんだ


ちゃんとした家に生まれたかったよ


「・・・充分ちゃんとした家じゃないですか。毎日食事がもらえて、清潔な服を着せてもらえて。ちゃんとした親じゃないですか。」


これ以上何の不満があると


「そんな事は親なんだからあたりまえじゃないか!」


「あたりまえ、ねぇ? 世間にはそのあたりまえすら与えてもらえない子供だっているって知ってる? ああ、そうか。あんた自分が恵まれているの解ってないんだ? お腹が空いてお腹が空いて水すらなくて寒くてひもじくて何も見えなくなって何も感じなくなって餓えて死にそうになった事なんて無いんだ。幸せだね?」


なぜかソイツは後退りした。


「わたし、あんたみたいな奴妬ましくてキライ。」


わたしは言い捨てて踵を返した。


「ねぇ、ちょっと!」


なに!? まだなんかあるわけ!?


振り返ると奴は曖昧な笑みをうかべて


「バルディアに・・・「知らない。」」


奴の言葉に被せて言う。


「え?」


「だから知らないって言ってんの。そのバルなんとかって所も、グラなんとかって所も。あんたが『縁』を繋ぎたいそことはわたし何の関係もないの。」


そう言われて奴は当てが外れたようにチッと舌打ちして使えね~と呟いた。


その言いぐさにディーの腕に力がこもるがディーにこんな奴の相手なんてさせてたまるか。


行くよとばかりにディーの腕を引くと渋々従ってくれた。


騎獣の所まで戻って来るとひいてあった毛布の上に座った。


「疲れた・・・ あんな馬鹿がいるとは思わなかった。」


ため息を付いたわたしに聞いても良いかとディーは言った。


「・・・チカはあんな奴が妬ましいのか?」


「そうねぇ、親からの庇護を当たり前と言える境遇は妬ましいかな。」


自分には与えられなかったものだから。


電気が止まった部屋、カビた食パンを大事に食べた。次はいつ母親が帰って来るかわからないから。


「そんな顔しないでよ、もうずっと前の話なんだから。」


小学校、小さくなった靴を無理やり履いていた。親指の当たるところに穴が開いて踵の底が磨り減って開いた穴から雨の日水が染み込んでぐちゃぐちゃになった。

給食費を払って無いのにいただく食事に居たたまれなかった。ちゃんと食べて良いのよと言ってくれる先生の優しさが辛かった。


思い出すと暗い深い闇を覗いている様になって頭の芯が麻痺してくるようだ。


児相(児童相談所)と自宅を行ったり来たりしながら何とか中学まで卒業し寮のある製造工場で働きながら通信教育で高校卒業資格を取った。

会社の同じ寮人達が遊びに行こうと誘ってくれても行けなかった。

楽しいことを覚えてしまったら母親と同じ様な自堕落な人間に成っていきそうで怖かった。


大丈夫、わたしはちゃんとしている。

人と同じ様に出来ている。

大丈夫、大丈夫。


ふわりと頭に温もりを感じた。

目を上げるとディーがわたしの頭を撫でていて、視線に気が付くとハッとしたように手を離した。


「いや、あの、そのこれは!」


アワアワと狼狽えられて思わず笑みがうかんだ。


「ありがと、慰めてくれて。」


嬉しかった。頭なんて今まで誰も撫でてなんてくれなかったから。






お読み頂きましてありがとうございます。ブクマ70件でとっても嬉しいです。今回チカの過去の回想がちょっと重いですね。とても難儀しました。

いつも遅い更新ですがチマチマと書いてはおりますので「見捨てないで~」お願い致します。

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