12 非常電話は普通の事?
12 非常電話は普通の事?
『ご連絡ありがとうございます。こちら統括ギルドトンネル事業部オペレーター、リュセルと申します。現在の状況をお教えください。』
その日本的なオペレーターの言葉に今自分が何処にいて何と話しているか分からなくなりそうで目眩がした。
「マスター?」
ディーの問いかけにハッとして意識を戻す。
電話機にスピーカーのマークがあったので押して相手側の声を全員で聞けるようにする。
「テクヨ・ドラン間のトンネルの中にいるのですがテクヨ側、ドラン側の両方の出入り口が土砂崩れで埋まってしまい出ることが出来ません。救援をお願い致します。」
『はい、かしこまりました。怪我や急病の方はいらっしゃいませんか? 』
そう聞かれてイソガルさん達を見ると首を横に振られた。
「おりません、大丈夫です。」
『そちらの位置を再確認させていただきます。電話機に番号が書かれていると思います。その番号を読み上げていただけますか?』
確かに電話機にデカデカと番号が書いてある。
「DーT2です。」
『はい、確認取れました。ドラン・テクヨ間2番トンネルですね。両端が土砂崩れで埋まってしまったとのことですので土砂崩れ撤去の作業員を派遣いたします。ただ大変申し訳ございませんが只今作業員が出払っておりましてそちらに向かえるのが5時間~6時間後となってしまうのですが大丈夫でしょうか?』
またしてもイソガルさん達を見る。今度は縦に首を振られた。
「大丈夫です。」
『かしこまりました。ではトンネルの両端が塞がっているとのことですので、イッサンカタンソチュウドクの危険がございますのでトンネル内で煮炊きや火を使うことはお止めください。食糧、水等は下の扉の中にある物をお使い下さいませ。なお何か緊急の事態が起きましたらこの電話機を使いご連絡下さいませ。こちらからは以上ですが何か御質問等ございますでしょうか?』
三度イソガルさん達を見ると首を横に振られた。
「解りました、ではよろしくお願いいたします。」
大丈夫のようなのでわたしは受話器を置いた。
「「「はぁー・・・」」」
イソガルさん達から安堵というか疲れたようなため息が出た。
いや、喋ってたのわたしだけでしょう? そんなに疲れたの?
「いや、本当にチカさんがいてくださって助かりました。私共だけではこれが何だか解らず助けを呼ぶ事すら出来なかったでしょうから。」
ありがとうございますと頭を下げられた。
「そんなわたし達も救援は必要でしたしお礼を言われると困ってしまいます。それよりお水とか出しましょう。」
わたしはディーに降ろしてもらって下の扉を開けた。が何もなく
「?」
「アイテムボックスの様ですね。」
脇からイソガルさんが覗き込んでそう言った。
使い方がわからん!
ので脇に退くと
「そちらは人数も多いですしお先にどうぞ。」
とすすめた。
「そうですか? では遠慮なく。」
イソガルさんは何の躊躇いもなく壁に手を突っ込んで水樽を出してフグタンさんに渡し、ナミオラさんには毛布を5枚渡した。最後に革袋に入った携帯食糧の様な物を3つ出すとわたし達に場所を開けてくれた。
ディーが水樽と毛布2枚と携帯食糧を1つ出して扉を閉めた。
「チカさんはよくこれの使い方が解りましたね。」
イソガルさんは非常電話をしみじみ眺めてそう言った。
「前に見たことがありましたので。」
うん、日本では普通にあるよね。使った事は無かったけど。
「あぁ、渡来国のご出身ですか。」
は?
「あちらは渡り人の方が開いたら御国ですから便利なものが多いそうですね。」
はぃ?
やだ~ なんか判らないこと言い出したよ。
こういうときは必殺日本人の曖昧な笑いで押し通す。
にこにこにこ・・・(;´∀`)
「マスターあちらで少しお休みになられた方が宜しいかと。顔色が少し悪いようです。」
困っているのがわかったのかディーがすかさずわたしを抱き上げるとイソガルさんに会釈をして離れてくれた。
「ありがとう、助かったわ。」
互いの声が聞こえないが気配はわかる距離まで離れるとわたしはディーにそう言った。
「いや、答に困っていただろう、言いたくないことは話すことはないぞ。」
「えっとね、そうじゃなくて。あの人が何の話しだしたのか解んなくて困ってたの。ねぇ、バルディアとか渡り人って何?」
ディーは毛布を1枚を石畳にひきわたしを座らせると毛布で更に包む様にしてから隣に腰を下ろした。
「バルディアは大陸の中央より北西部にある国だ。渡り人は違う世界から神に呼ばれて様々な恩恵を貰ってやって来た人達だ。」
「違う世界・・・」
確かにわたしは違う世界から紛れ込んだが、その渡り人とは違う。神にも会ってないしギフトを貰ったりもしていない。
いや待て、異世界言語やストレージはギフトに入るのか?
「チカ?」
「あぁ、ゴメン。あの人勝手に勘違いしたのね。」
「・・・チカは渡り人なのか?」
「えぇっとね、確かに違う世界から紛れ込んだけど神様とかに会ってたりしないから厳密に言うと違う。渡り人じゃない。そもそもその人達と同じ世界から来たのかすらわからない。」
「違う世界から来のか?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「・・・今初めて聞いたが。成るほど道理で不可解な言動が多かったわけだ。納得した。」
「ちょっと、それひどくない?」
言外に常識はずれと言われてるとしか思えない。む~
「拗ねるな、俺だって女兄弟がいたわけではないからチカの言動は女だからそういう考えをするのだと思って済ませてた。ちゃんと聞いてやらずに悪かった。」
ポンポンと頭を撫でられて誤魔化された感じがする。
「ねぇ、渡り人ってそんなに多いの?」
「グランディアとバルディアの建国者は渡り人だな。確かギルドの創設者もそうだな。後は魔道具の製作者で有名な人もいたな。多いというほどではないが皆名を残している。」
「その人達の中で・・・」
帰った人いるのか。そう続けようとしたが言葉にならなかった。
聞いてどうする?
ふと思い浮かんだのは空っぽのアパートの部屋。
「ん? どうした?」
「その人達の中で日本人いたのかなって、いたなら醤油とか味噌とか伝わってないのかなって思ったの。」
「ショーユ? ミソ? なんだそれは?」
「真っ黒な調味料。日本のソウルフードよ。」
「おかしなものを食べさせないでくれよ?」
しかめっ面をしたディーを見て笑ってしまった。
1ヶ月ごとの更新になってしまい大変申し訳ございません。
ブックマークが63件になっておりました。
こんな遅筆を待っていただき本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。




