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「茂一様、あなたは異世界への転生者に選ばれました。新しい人生をその記憶と共にお送りください」
姿は見えないが、女の人の声が聞こえる。僕は死んだはずだったのに、意識がある。ここは天国なのだろうか。だとしたら、この聞こえる女の人の声の正体は神様?しかし、どこにも人影が見えない。広い野原を見渡す限り、僕しかここにいない。
「失礼ですが、姿が見えないようですが」
「失礼しました、今あなたの前に出ますね」
そう聞こえると、僕の前の景色が歪んでいく。空間が避け、その中から女の人が出てきた。僕は目を見開いて、その女の人を見てしまった。彼女は、世界で一番美人と紹介されれば信じてしまうほどの美女だったからだ。神は月の用に美しい金色の輝きを放ち、表情は聖母マリアのように優しいものであった。
「あの、私の顔に何か付いていますか?」
僕があまりにも顔を見つめていたために、彼女は手でほっぺたを触り、何か付いているのだろうかという動きで、顔を確認している。
ちょっと、この人可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
「あ、すみません。何もついてないです。安心してください」
「そうですか、それならば良かったです」
彼女はそういうと、ほっと一息付くと、僕の目を見て語りかけて来た。
「先ほどは、姿を見せずに失礼を致しました。さて、こうして姿を見せたことですし、改めて言いましょう。茂一様、あなたは異世界への転生者として選ばれました。新しい人生をその記憶と共にお送りください」
彼女は、真剣な顔つきで僕に告げる。転生?転生ってのは、生まれ変わるってことなのか?輪廻転生という言葉は、知っていたけど、まさか神様であろう人と1対1で行うものだとは思っていなかったために、少し驚く。
僕が少し考えていると、彼女が口を開く。
「茂一様、あなたの考えを読ませてもらいました。他の方々は、前世の記憶を消し、自動的に、地球で次の生を振り分けられます。しかし、茂一様は違います。あなたは今の記憶を保有したまま、異世界へと転生していただきます」
僕はどうやら特別的な処置の用だ。なぜ、僕だけ特別なのだろうか。
「えと、聞きそびれたのですが、あなたは神様ですよね?」
「はい、私は神になります。私は生と死を司る神 ペルトリーチと申します」
彼女が司るものを聞いて、やっぱり死んだのかと改めて実感をする。
そして、再び疑問に思ったことを、神様に聞く。
「なぜ、僕だけ特別な処置を受けることが出来たのでしょうか」
もっともな疑問であろう。僕は特別に何かをしたわけではない。世界を変えるような大きな行動もしていない。逆に、暴力に抗うこともできず、挙句の果てに交通事故で死んだのだ。立派な人間と言えるような存在でもなければ、特別な存在でもない。
「茂一様の折れない正義感と、不遇な運命を考慮した結果です。神の会議で10人の神の中で7人もの神が、あなたの転生に賛成をしました。特に最も評価された点は、子どもを自分の命に代えて救った点です。あれは誰にでも出来るものではありません。あなたの折れない正義感があったためにできたことです。私達神は、あなたのその行動を評価したのです」
「そう……ですか。ありがとうございます」
僕は、生きていた時に間違えた行動をしていなかった、正しい行動だったんだと、嬉しさを噛みしめる。自分の人生は、短かったが肯定された人生であったと実感した。
「茂一様、あなたの正義感を絶やすことはもったいない。しかし、記憶を持ったまま地球に転生すると問題が起きるのです。なので、異世界へと転生することが決まったのです」
問題があるから、地球には転生できない。両親より先に死んでしまったので、気になるが仕方がない。今回の転生をありがたいと思い受け止めようと思った。
しかし、異世界とはどのようなものなのだろうか。人じゃない可能性もある。それは嫌だなと少し考え、神様に聞く。
「神様、異世界とはどのような場所なのでしょうか? 人間で無かったりしますか?」
「異世界エルドレイトは、地球とは違い、科学という概念がありません」
「え?科学がない?」
茂一にとっては、受けれ入れがたいものだった。科学が無ければ、生活が辛く難しいものになるではないかと思ったのだ。
「はい、科学という概念はありません。しかし、地球とは違い、魔法という概念があるのです。異世界エルドレイトは、剣と魔法の世界です」
魔法?魔法って、あの魔法だろうか。なんだろうか、心の奥から湧き上がるこの感情は。僕も男だ。魔法と聞いて何も思わないことはない。歓喜の感情に身体が包まれ、鳥肌が立つ。
「神様‼ 早く‼ 早く、僕を転生させてください‼」
神様にグイっと近づき、興奮を抑えられないまま、顔を赤くさせ、小さい子供が新しい玩具を与えられた時のような様子であった。
「お、落ち着いてください。転生するには条件があります。簡単なものですが、これさえ守ると約束していただければ問題なく、転生することが出来るので説明を聞いてください」
「はい‼ なんでも聞きます‼ 靴でもお舐めすればよいでしょうか!?」
「ひぃっ‼ 落ち着いてくださいってば‼ 茂一様、性格が変わってしまっていますよ! 落ち着いてください。では、説明します。茂一様は、地球での記憶を保持して、エルドレイトに転生します。このエルドレイトは地球ほど発展していません。そこで、守っていただきたいルールがあります。あなたの、記憶をもってエルドレイトを発展させることは、いけません。これだけは守ってください。それさえ守れば、あなたは異世界で自由に暮らしてください」
異世界を発展させてはならない。「郷に入れば郷に従え」というやつだろう。それに神様は、心配しているが、元々僕にはそんな知識はない。情けない話、前世でも勉強が得意ということはなかったからだ。
僕は、同意する意思を神様に伝える。
「分かりました‼ 異世界を地球の知識でもって発展させることはしません‼」
「良かったです。以前に転生した方で、博識な方がいらっしゃいまして。異世界を自分の知識を駆使して征服した方がいらっしゃったもので、そこから、このルールが出来たのでございます」
どうやら過激な先輩がいたようだ。恐ろしい。
「では、説明を終えましたので。あなたには【神からの贈り物】を送ります。1つは、理不尽により人生を奪われた経験から【強奪】を、そして、少年に命を与える行動から【スキル付与】の2つをあなたに授けます。では、異世界エルドレイトで新しき人生をお送りください」
神様がそういうと、僕の意識が途切れ始める。今から転生が始まるのだろう。しかし、僕はテオススキルに対して物申したい。
チートスキルじゃないか、と。
こうして、僕は異世界エルドレイトへと転生をした。チートスキルを2つ身に着けて。
茂一が転生して神様は呟く。
「うまくいけば、あの子が魔神を倒してくれるかもしれませんね。倒せなくても封印できるくらいの力は、備え付けました。それでは、彼の仲間を探し転生させますかね。悪の神を懲らしめるために頑張りますか」
茂一は知らない。彼の転生した先の世界では、5大魔王と魔神が人間と戦争をしている世界であることを。
彼が、このことを知るのは生まれて数年後のことであった。
やっとこ異世界へと転生しました。
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