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あと一回だけ使いたい(前編)

 玄関の扉がそっと開かれて、何やら中の様子を窺おうとするものがある。ヴァイスが近寄って大きく開いてやれば、驚いて躓く弥生の姿がある。


「遅かったね」


 中へと通すヴァイスに困惑して口を真一文字に結びながら、言われるがまま中へと入ってみれば、滋もいる、飯塚もいる、見たこともない白髪の男が一人いる。


「あれ? えっと…」


「バーモンさんというそうです」


「あ、はじめまして」


「はい、はじめまして」


 部屋の中を見回すと、先ほど入ったときとは見違えるほどの散らかりようで、何があったか滋に子細を説明させる。その口より飯塚が豹変したと言うのでそちらも見れば、しかし話とは違って疲れた顔をして覇気もなく、むしろ呆けて見える。


「切羽詰っていたとはいえ、実力以上のことをやろうとすれば精も魂も尽き果てたようになりましょう」


 と、バーモン。


「へぇ、なるほど。で、滋君、この人は味方なの?」


「一応、捕虜、みたいなものです。もう一人の仲間がきっとまた攻撃してくると思うので」


「話を聞く限り、そいつは相当にクレイジーね。でも飯塚さんに簡単にやられるあたり、化け物ってことでもなさそうね」


「高貴な感じはするけど、子供みたいな人でした」


 弥生はバーモンを品定めする。若いのか歳老けているのか、三十代にも見えれば四十代にも見えて、その陰気で卑屈な面や物腰をやめれば二十代にも見えなくない。丸顔、垂れ下がった目尻、おちょぼ口、顔の作りに華がないから異性にはモテそうにない。また、運動は不得手であろうとも思われる。これまでの半生、ずっと不運を背負って生きていたような、そしてこれからもそう生きていくような、非運薄幸な人に見える。


「ケースを見つけたよ。ついでに残りの錠剤も」


 和室からヴァイスが現れて、黒ケースと瓶に入った錠剤を皆の前に晒す。やっと見つけて歓喜のバーモンが瓶に手を伸ばそうとすると、それまで萎れていた飯塚も生気を取り戻して、奪い返されまいと同じく手を伸ばす。ヴァイスはそれらを平手であしらって、瓶を弥生に手渡す。弥生は滋にパス。飯塚とバーモンの標的が滋に移ると、目の色変えて飛び掛かろうとするので、慌てて再びヴァイスにパス。またまた標的が戻って襲い掛かろうとするので… 結局ヴァイスが手刀で二人を気絶させてしまう。


「それ、どうするんですか?」


「さて、どうしようかな。いる?」


「いえ、僕は、いいです」


「弥生ちゃんは?」


 弥生は首を横に振る。


「ま、そうだわね」


「い… いる。俺は… ほしい…」


 寝ていたと思っていたが、飯塚もなかなかタフだ。


「でも、これを使って貴方の体に何か影響がないとは言えないからね。やっぱりあげられないかな」


「あと一回… せめてあと一回… それだけでいいから… 使わせて欲しい…」


「何か、使いたい理由があると?」


 飯塚はよろよろと起き上って、その場で正座をする。だが、返事がない。見ているとふるふると震えだし、顔も赤くなる。



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