バーモンと滋の説得(前編)
「いや、ドランクさん、それはいけませんよ。無茶を言っちゃいけない。それじゃただの大嘘つき、そんなことじゃ仲間を失って我々が追い込まれてしまいますぞ」
一方でバーモンが宥めると、一方で滋も、
「飯塚さん、そんなの間違っていると思いますよ。とても信用できる相手じゃないです。このままだと飯塚さん自身も悪い人になっていきそうですよ。そうなったら、あの後輩の人のことはどうなるんです? 諦めるんですか?」
これには飯塚も胸が痛い。
「いったい、誰を、何を信じればいいのか。このままアイテムを返しても自分に取り得は一切なくなってしまう… それで彼女に自分の何をアピールすれば言いというのか…」
「でも、そんなことで、簡単に人を裏切るような、明らかに悪そうな人と仲間になって、それで彼女に嫌われたら、いえ、軽蔑されたりでもしたら、それこそ意味ないじゃないですか。何より飯塚さんが立ち入ろうとしている世界は、一般人には到底理解できるものじゃないですよ。それを隠して付き合おうとしてもなかなか上手くいかないみたいなんですから」
「そんな… そんな八方塞がりなことを言ったって、それじゃ俺には何の望みもないと言うことじゃないか。君は、君には人とは違う才能を持っているようだからわからないと思うけど、俺のように何の取り得もない、うだつの上がらない三十の男には、華やかしい未来も夢も抱けなければ、人が羨むほどの縁が舞い込むこともないんだ。なり振り構っていられないんだよ。体裁にこだわってばかりでそれこそ目の前のチャンスを悉く潰していって、それで本当に自分が望む幸福を手に入れられると、君は言えるのかい? あぁ、いや、ここで変な幸福論は持ち出さないでくれよ。万人に共通した理屈じゃない、本人が幸せになれるかなれないかの問題なんだ!」
切実な思いを吐露して、しかしそれでも少しは気も晴れると、飯塚は次第と落ち着きを取り戻していく。その頃になって、ようやく弥生と電話が繋がる。
「ちょっと、何があったって言うのよ。ずっと携帯鳴らしてくれて、人が気持ちよく歌ってたっていうのに」
その一声は聞くからに不機嫌である。
「あ、弥生さんですか! 早く助けに来てください! 何か知らない人が侵入してきて、いえ、全然知らないというわけでもないんですけど、侵入者同士で仲違い始めたり、飯塚さんが侵入者の一人に心惑わされそうになったり、大変なんです!」
「ちょっと、それ本当? だとしたら今あなた相当にまずい状態なんじゃないの? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないですよ! いえ、怪我とかないですけど、でもピンチです! 僕じゃ対処も対応も何も出来ません! 早く来てください!」
「わかったわ、今すぐ行く」
と切って、滋は一つ胸を撫で下ろして顔を上げると、他の四人が口を止めて彼一人に視線を注いでいる。
「今の弥生ちゃん?」
「え? あ、はい」
ヴァイスの表情も幾分穏やかになる。ドランク一人、この流れが気に食わない。




