ドランクvs飯塚 舌戦(前編)
黒服と称していた男はヴァイス・サイファーといって、「こちら側」と「あちら側」を自在に行き来する特異で希少な能力者である。UW、特に桐生誠司と付き合いが長く、助けたり、敵となったりの間柄である。UWの上層部には危険視されているが、二人の仲は良い。刀作りにも精通して、桐生の得物こと日本刀の「月明」はヴァイスが鍛えたものである。彼自身もまた自作の刀を得物としている。「黒紫」と呼ばれるその一振りは、鍔のない小太刀で、柄も鞘も漆黒なら刀身すらも淡い黒光りをする。一か月前、滋を覚醒に追い込んだ大熊を「あちら側」に帰したのもまた彼である。
さて、突如として窓から侵入してきたヴァイス、ドランク、バーモンに、
「なんだ、お前たちは!」
気圧されまいと大声を出す飯塚だが、足の震えが止まらない。
「何者かだって? では教えてくれよう。私は君が使っているその魔法使いキットの開発者だ。どうだ、驚いたかね?」
胸を張って偉そうにそう言ってしまうドランクに、味方のバーモンこそが驚く。こうも露骨に自分の正体を明かす軽率さもない。
「あの… ヴァイスさん、でしたよね。あなたはどうしてここにいるんですか?」
「俺かい? 俺はこの人たちに依頼されてね。この人たちの助っ人だよ。もしかしたら君たちの敵になるかもね」
「それでこの人たちと何をしに…」
「それもこの人たちが説明してくれるかな」
「では説明しよう。目的はごく簡単。そこの君、飯塚といったかな。君が持っている魔法使いキットを返してもらおうか。それらは私のものでね。誤って『こちら側』に落っことしてしまったものなのだよ。この国の法律でこの場合の所有権が誰になるかは知らないが、もはや住む世界そのものが違うなら、そんなものも無視させてもらうつもりだ。大人しく渡してもらえば悪いようにもしない」
飯塚は、突然のことで何が何やら頭が整わない。三人組が善人か悪人かとの判別もできなければ、あの魔法使いキットを手放したくない一心もある。
「あ… あのアイテムが、あなた方が作ったという証拠はあるのですか?」
気が付けば反論に出る。誰もが意外、本人ですら存外。
「証拠か、面白いことを聞くな、君は。あんな世にも珍しいものを知っているという点でもう十分証拠になると思うのだがね。よろしい、では言おう。あれらはすべて黒いケースの中に入っていたはずだ。中には箒、バンダナ、シールにスティック、薬に、ついでに解説書も入っていたはずだ。なんだったら、解説書に書かれてある内容を言ってやっても構わないぞ?」
そこまで言うと、飯塚の返事も前にドランクは解説書の内容を日本語で諳んじ始める。書かれていたことと同じなら、もう疑う余地もない。




