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魔力増強剤、UWに知られる(後編)

 桐生は薬の入った白濁の半透明ケースを月の緩い光に翳し、足りない明かりは弥生が炎を生んで拵えている。


「これが本当に魔法力の増強剤なら条例違反になるんだけどな」


「私は初めて見る。そんなのが本当に存在するのね」


「いや、俺もほとんどない。写真で見たくらいなんだよね」


「こういうのって、だいたい副作用があるとかないとかで使っちゃいけないってことになっているのよね」


 二人が飯塚へと振り返ったところ、彼は意外なものを見聞きして困惑の中にある。弥生の炎、そしてそれ以上に副作用という一言。記憶に間違いがなければ、解説書には一切書かれていなかった。


「えっと、あの、これを飲んだんですよね。体の方は大丈夫ですか?」


「え? ええ、一応、いまのところは特に何も…」


 絞り出した声が掠れて、飯塚の喉の奥がむずむずとする。まさかこれこそが副作用かと疑うほど、彼は動揺している。


「この薬、あたしが飲んだらどうなるんだろ?」


「そりゃ魔法力が溢れんばかりになるんじゃないの」


「それは魅力的よね」


「でも、やめておいたほうがいいと思うぜ。どうする? 副作用で老化が激しくなったりしたら」


「え? それ本当? わぁ、それはヤダ。絶対イヤ。やっぱりやめとく」


 魔法力を自然と鍛えれば、むしろ若さが保たれるとの一説が、この業界にはある。女の弥生が戦闘力を求めて若さを捨てるはずもない。


「とりあえず、これを預からせてもらいませんか? 研究所に持っていって調べてみたいので」


「え? ああ、はい… どうぞ」


「ちなみにこの薬って、ほかにもたくさんあるんですか?」


「え? ええ、一応まだ…」


 そこを確かめて桐生は今後の予定を考える。飯塚をこのまま帰すつもりでいるが、飯塚を一人にさせては問題もある。検証が済む前に逃げられても困る、この飯塚が誰かに襲われないとも限らない。現に先ほどから何者かが自分たちを尾行している。おそらく滋が見かけた人影と同一と推測する。滋のことを笑ってみたりしても、桐生の警戒に手抜きはないのだ。では誰が見張り兼護衛を行うか、また誰が薬を研究所まで届けるか。


「誰か一人この飯塚さんを一晩付きっ切りで見張ろうと思う。また、この薬を研究所に持っていくっていう仕事もある。お前ら二人に相談なんだが、どちらでもいい、やりたい奴、いるか?」


「それって、私たちの中で一人はもう今日は仕事を上がれるってことよね。なら私、上がるわよ」


「ふん、どうせそう言うと思ったぜ。でも、俺が薬を持っていくにしても、滋一人を護衛に回すっていうのはちょっと酷じゃないか?」


「何言ってんのよ。それは女の私でも同じでしょ。第一、どうして護衛が必要なのよ」


「いや、なぁんか、胸騒ぎがするというか、臭うというか、不穏な気配を感じるんだよね」


「だったら、あんたがやればいいじゃない」


「じゃあ、お前、薬をやってきてくれるっていうのか? 一人で行ったことのない滋じゃ、道がわかんなくなって迷子になると思うぜ」


 彼らの言う研究所はH町から車を飛ばして一時間の場所にある。ちなみに滋は運転免許を持っていない。それを告白されても弥生は尚も渋る。


「何よそれ。初めから選択肢がありませんって感じじゃない。頭くるわね」


「そう、お前には滋と一緒に護衛をするか、滋と一緒に研究所に行くか、もしくは一人で行くか、その三つしかないんだよ」


「どれにしたって今日中に帰れないじゃない。嫌よ。退院したばかりなのよ、親に顔の一つでも見せてやりたいんだから」


 弥生はプイッとそっぽを向くが、


「嘘ばっかり。お前、今日は遊びに行くとか言っていなかったか?」


「とにかく、私はどれも嫌よ。何かあったら連絡してすぐに駆けつけるってことなら護衛班に入ってもいいけど。それ以外は嫌。あんたの勘が当たるとも思わないし、そのために私の青春を潰されたくないわ」


「じゃあ、俺たちの青春はいいっていのうかよ」


 弥生はにっこりとして、


「うん」


 まるで小悪魔で。


「あの、話から察するに、今日は一人、私のうちに泊まるということでしょうか?」


 蚊帳の外であったが、考えてみて、仮にこの飯塚が入室を拒めば護衛役は外で野宿となりかねない。申し訳なさそうに、


「ええ、そうしてもらえると助かるのですが…」


「あ、はい。私は、もうここまできたら何でも構いません。明日も仕事ですが、どうぞ泊まってください。私としても、もっと話を聞きたいものですから」



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