能力者がアイテムを使ってみると(後編)
「調査ということは、やっぱり警察の人たちですか?」
それも少し違う。次第と面倒になった桐生の口が国の特殊機関と教えてやる。
「だから、味方になるというのもあなた次第なんです。あなたが魔法を使って暗躍しようとしない限り、俺たちは別にあなたを逮捕しようとか、そんなことを考えたりはしないです。魔法を使えるというならある意味仲間。この世界で疎まれる前に、そんな人の力になってやることが俺たちの仕事なんです」
桐生の説明の仕方は、UWのマニュアルに書かれてあることではない。彼の経験がこう語らせる。
「わ… 私は、本当に魔法使いなんでしょうか?」
「え? でも、こんなものを持っているし、箒での飛行や酔っ払いとの喧嘩の話もあなたがやったんでしょ? なら魔法使いなんじゃないんですか?」
「いえ、確かに私もそれらのアイテムを使いました。使いましたけど、それらはすべて、偶然拾ったものなんです。魔法だって、私の力というよりそれらアイテムの力なんです。それらがなかったら、私なんて魔法の『マ』の字も使えない…」
その告白は意外といえば意外であったが、冷静に考えて可能性がなかった話でもない。どの国においてもUWは組織的に魔法力の探知を行っている。微量ながら万物に流れるそれらも魔法や能力として使えるレベルに達するものはごく稀で、組織はそれを見逃すことなく、発見次第、世界のため、またその人のために詳しい調査を必ず行う。覚醒の可能性があれば囲い、なくともその後のマークは外さない。飯塚のようにぽっと出ていきなり高度な魔法を展開した者はレア中のレア。別の人物によって操作されている、魔法力を注入されている、またはアイテムを使っている、と疑っても不思議ではないのだ。UWの歴史の中でも、似たような事例が幾つもある。どれもその背後の人物にターゲットを向けて、事の解決を図っている。それらが起因して「あちら側」の主要各国と結ばれた条約すらある。
「それで、あなたが手に入れたアイテムはこれだけですか?」
「え? いえ、まだ、少し…」
「ねぇ、このバンダナは何に使うの? これもその一つなんでしょ?」
「それは… コントローラーのようなものでして…」
「何の?」
口で言うより実演するのが早いと、飯塚は受け取ったバンダナを額に巻くと、ポケットより取り出した錠剤を一錠飲み込み、意識を集中して箒を宙に浮かばせる。UWの三人より歓声が上がると、続いてシールを一枚取り出して、近くにあったデジタル式の置時計に貼り付け、それも浮かせて、空中を飛ばせてみせた。
「ちょっと、ちょっと、私にもやらせてよ」
興味津々の弥生はバンダナを借りて同じように置時計を操ろうとする。ところが、何故かピクリとも反応しない。飯塚にも説明できず、誰より彼が一番驚いている。
「あれ、おかしいな。お嬢さんくらいの力があるならそのバンダナ無しでも操れそうなものなのに」
「欠陥品じゃないでしょうね」
理由を考え、一つ思い出して、シールを一枚手渡すと、
「これを貼ったものを操るんですが、貼った人じゃないと作動しないのかもしれません」
弥生は部屋の中を見回してキッチンよりフライパンを見つけ、シールを貼り付け念じてみる。すると見事に宙に浮かんで、桐生目掛けて一直線にすっ飛んで行く。その速さがまた弾丸の如くで、避けきれずに彼の額に直撃してしまう。
「痛ぇ! 何すんだ、この野郎!」
「いや、ごめん。嘘? こんなに飛んでいくとは思わなかった」
放った弥生も驚くが、自身が操る数倍はあろう速さに飯塚の驚愕は、開口、開眼、共に閉じるのも忘れるほどであった。弥生はバンダナを外してもう一度操ってみる。それでもかなりの速度で飛んでいく。また、すぐに操作に慣れてしまって、飯塚よりも巧みに操る。愉快爽快な彼女を見て、負けず嫌いが疼く桐生も一枚シールを拝借すると、部屋を見回して厚めの本を見つけて貼りつけて、見様見真似で意識を集中してみる。と、確かに浮いてくれるも飛んでいく速さは蝶の如くで、キレもない。ますます慣れていく弥生とは雲泥の差。
「何でだろう?」
試しに滋もシールを一枚受け取って桐生と同じく本に貼り付ける。と、こちらは弾丸のように飛んで、操る前に桐生のこめかみにぶち当たる。
「あ、ごめん…」
怒りが沸々とする。滋にもできて自分にはできないなど桐生のプライドが許さない。
「だから、何故だ!」
「ふっふっふ、あんたのように魔法力を体内で大爆発させる原始的な人には、外に放出する量が少ないってことよ。この勝負なら断然私の勝ちね」
得意気に笑って弥生は積年の恨みを晴らすかのようにフライパンを操って桐生を襲う。背中、尻、手足とバンバン叩いて、その度に子供のように笑う。そのうち桐生も自慢の得物をバットケースより抜いてフライパンを一刀両断。シールが裂ければ効果も消える。
「二人とも遊びすぎだよ」
滋の意見は正しい。が、その彼も自分の才に自惚れたか、それともただの好奇心からか、視界に入った箒をふと握っている。さてどうだ、箒が暴走を始め、握った手を放せない滋を引き回して、そのまま窓ガラスを突き破って夜の空に飛んでいってしまう。




