「誰かいる!」(後編)
「あそこ、ですか?」
「そうですね」
「踏み込まないんですか?」
息荒く疲労困憊のむさ苦しい顔に黒服も思わず苦笑いをする。
「ご自身で踏み込んでみます? ターゲットの他にいま数人いるようですけど」
「それはつまり…」
「家族や友人ということも考えられますが、最悪の可能性としてはUWの連中です。どうします?」
「とりあえずは相手が誰なのか知りたいものだな。UWなのかそうでないのか、それだけでもわかれば判断も違ってくる」
「ではとりあえず調べますか」
目標の部屋は二階。黒服がベランダの柵を利用して壁をスルスル静かに登る。窓からこっそり覗くと、見慣れぬ三十歳近い男が一人。見慣れた顔が二つ、いや三つ。桐生誠司に平塚弥生、そして佐久間滋がいる。
「あらまぁ」と、思わず呟いて、黒服は耳を欹てる。聞えるのは、桐生と弥生の聞き慣れた罵りあいであった。
「こう見えても今までに三人の女と付き合ったことがあるんだぜ」
「期間はどれくらいよ」
「え? それはまあ、最初の一人は二ヶ月…」
「その次は?」
「…一ヶ月」
「その次は?」
「…半月」
「何よそれ。たいして自慢にならないじゃない」
「うるさいな。この仕事をやっていると普通の人とはなかなか付き合えないんだよ」
「はいはい、約束をすっぽかすこと数十回ってところでしょ。理由も簡単に話せないから言い訳のしようがないってね」
「よく、わかってんじゃねぇか」
「ふぅんだ」
といった塩梅で、黒服にはいやはや微笑ましい。さて、彼は思案する。桐生たちはUWの任務でここにいるに違いない。それでいて和やかで仕事とも思えないから、白髪たちにどう説明したら良いものか困ってしまう。一旦戻ってみると、
「どうでした?」
「う~と、一応、UWかな」
「それはまた曖昧ですな」
「UWの人間であることは確かなんですが、何だか和気藹々としていて、仕事でいるのか遊びに来ているのか、わかり辛いんですよね」
「ケースのほうはありましたか? UWがもうケースを確保してしまっているということはありましたか?」
「残念ながらケースらしきものは窓から見えませんでした。どんなものか俺自身がわかっていないということもありますけど。それで、どうします? ご自身でも覗いてみて確認してみます?」
「いやぁ、私は、木登りは苦手ですから」
「ふん、なら私が行って見てこよう」
と、今度はドランクが壁を登る。自信はあるが経験はないようで、登るに登るが、静かでない。ベランダに到っても柵の上に立って堂々と窓を眺める。当然、
「あ、誰かいる!」
滋が叫ぶと、それに驚いて足を滑らせ地面へまっ逆さま。頭を打ちつける手前で黒服に助けられて、すぐに近くの茂みへと隠れさせられる。
「誰もいないじゃない」
「え、うそ、でも確かに見たんだけど」
部屋の窓からUWの隊員三人が顔を出す。




