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「誰かいる!」(前編)

 日本のとある県のH町の夜、ドランクとバーモンと黒服が古びた民家の屋根の上に立つ。辺りを見渡せば室内灯の明りの群れ。風はいまほど湿りだして、空にはやや雲がかかって、星の瞬きもまばらなら月も恥らう乙女のように顔を出したり隠れたり。


「自分があの日に抜けた『穴』はここで発生していました。もう塞がって見ることも出来ませんが、お探しのものは確実にこの辺りに落ちたと思います。一ヶ月前の話なのでもう誰かに拾われていると思いますけど。それでも物はこの町のどこかにあるはず。この建物を中心に探していけばいいと思いますよ。探すのに時間がかかるようならここに寝泊りするのも一つの手です。幸いなことにこの家には現在誰も住んでいない。近所でも幽霊屋敷のように思われています」


「ふむ、こんな小汚いところに陣を構えるのは嫌だな。一刻も早く見つけ出して、さっさと我々の世界に帰るまでだ」


「その件について一つお聞きしたいのですが、あなたは自由に『あちら側』への『穴』を作ることが出来るのですか? できるなら帰りのことも相談したいのですが」


 バーモンは恭しく聞くと、


「自由に作る、とはいかないんですよ。それでも帰すことなら出来ますよ。料金は別途かかりますけど」


「はあ、やはり現金ですか?」


「そう、ですね」


 気落ちするバーモンを見て、ドランクは「ふん」と鼻を鳴らす。続けて、


「いまから帰ることばかり考えていても仕様があるまい。そんなものはケースを探し出して回収してから考えればいい。この町のどこにあるのか、大体のめぼしはついているのか?」


「一応、ついていますよ。ここに来る途中で色々と調べましたから。この町で、この一ヶ月の間で、箒で飛んでいる人を見かけたって噂も上がっていますので。十中八九それですよね?」


「いや、それだ。間違いない」


「それを使っていたであろう人物の名前も住所も一応、調べはついています」


「何! それは本当か? だとしたらもう解決したも同然じゃないか」


 ドランクは一気に調子づいて、バーモンも揚々とする。まさかこんなに早く、こんなに簡単に辿り着けるとは彼らも思っていなかった。これがプロの仕事というもの、裏で生きている人間の凄さというもの、自分たちがこれまでしてきたことの大半がどれだけちゃらんぽらんであったか、もし上手くケースを回収でき、何の咎めも受けることなく無事に帰れれば、今度こそ真っ当な研究をして世に貢献したい、真のプロと呼ばれたい、その際はドランクとも決別してそれぞれがそれぞれの道で活躍したい! バーモンはその一瞬にそう思ったとか。この高揚を努めて抑えて、


「さすがに凄いですね。そういった情報はどこから手に入れるのですか?」


 こう訊ねてみると、しかし、


「ちょっとUWの情報バンクに侵入を。どうやらあの組織もこの件について動き出しているようですよ」


 と黒服が答えるので、たちまち呆ける寸前まで気が沈む。


「よし、そういうことなら善は急げ。早速そいつのもとへ案内してもらおうか」


 ドランクだけは一人まだ元気だ。その指揮の下、三人はいざ動き出す。屋根の上を走っていけばすぐに着くと提案する黒服に、ドランクも同意する。いざ走り出すと、屋根から屋根へと飛び移って、黒服の速さに二人はついて行けない。バーモンは元より運動が苦手なので、道を走ることにした。その足にしても中学生にも負けそうなくらい遅い。結局、黒服もドランクも彼に合わせる。目的地に着いた時にはバーモン一人で疲れている。



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