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飯塚の家にお邪魔します(後編)

 中は八畳のリビングにキッチン、別に六畳の和室という間取り。男の部屋としては小奇麗に整理されている。家具、家電は一式ある。リビングの壁際に四十二インチの液晶テレビが偉そうに構えて、その脇にテレビゲームが三台。他に目につくものは隅のデスクに置かれたパソコンが二台。飯塚という男の趣味、生活、思想を分析して、滋は几帳面な人だと見る。弥生は、オタクな人だと見る。桐生は、ゲームをしたくなる。


「では白状してもらおう。あなたはこいつの何に惚れたというのです? 男のあなたが男のこいつに」


 こう訊ねる桐生はもう仕事を半分忘れている。


「いや、だから、それは間違いでして、ちょっと気が遠くなったというか、朦朧としていたら急にこの子が知り合いの女の子に見えてきてしまって、それで、つい…」


「それで告白してしまったと… なるほど。確かにこいつは綺麗な顔をしていますからね、見間違うこともないとはいえませんね。そうかそうか、残念だったな、滋」


「僕はちっとも残念でもないんですけど」


 弥生もまた緊張もなく、


「あら、告白されるだけいいじゃない、それだけ魅力があるってことなんだから。誠司なんて、女子にも男子にも告白されたことないはずよ」


「失礼な奴だな。お前が知らないだけで、俺だって結構モテる時があるんだぞ」


 すると滋もかぶれて、


「僕としても、男の人に告白されても少しも自慢にならないよ。男としてはむしろ汚点だよ」


「あら暗いわね。元気出しなさいよ。ただの勘違いだったんだから」


 とまあ、三人揃って言い放題。


「それで、片思いという奴ですか?」


 桐生は幾分遠慮して訊ねると、飯塚は顔を引きつらせ、たじろいで返事を渋る。それでも三人が一様に彼に注目するから、逃げ場もない。観念してゆっくり頷く。


「この子に見間違えるってことは結構可愛い人なんですよね。歳はいくつくらいなんですか?」


「…二十歳」


「あら偶然、私たちと同じじゃない。会社の人ですか?」


 飯塚はまた頷く。答えて恥ずかしくなる。ただ、誰かに恋の話を聞いてもらうのは悪いことでもない。彼女への恋慕が為に久しくモヤモヤとしていた心も少しずつ晴れてくる。


「付き合える可能性は、ありそうですか?」


 知らない故に桐生が酷なことを聞けば、いま晴れかかった飯塚の心の中も再びどんより曇りだす。だが、曇ることも含めて相談の妙。友人の少ない飯塚は、このとき初めてそれを知る。


「恥ずかしいことながら、そう上手くいくものでもないですよ。まともに話すことだってなかなかできたもんじゃない」


「それはまた、奥手ですね」


 弥生は、飯塚のことがちょっと可哀想になる。自分が告白されても付き合いたいとは思わないくせして、随分と同情して、女の自分ができる女の視線での助言を考えてやる。とはいえ、彼女とて鞭撻を振るえるほど豊富な恋愛経験はない。現状、彼氏もいない。結論にして今の自分には助言など無理。それを思い知って、一人で自分にショックを受ける。受けたショックで浮かれた頭も少し冷めると、ついでに自分が男の滋に負けた現実を今更のように理解する。女としてのプライドが傷ついて、今度はこちらの心の中が曇りに曇って雷でも轟きそうになる。


「何、放心してんだ、こいつ」


 桐生の声もしばらく弥生の耳に入らなかったとか。


「何か… 何か、その会社の彼女と自然に話せるような、何かいい方法はないものですかね?」


 年下と知っても、飯塚は敬語を使って訊ねる。桐生と滋もその情を汲んで一思案設けてやりたいが、二人もまた弥生同様に人に意見できるほど恋愛経験が少ない。


「もうこの辺にして、仕事の話に戻らない?」


 都合悪くなってそう掌を返す桐生に、滋も、我に返った弥生も揃って同意する。



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