飯塚の家にお邪魔します(前編)
誰が見てもどう見ても飯塚を前にした初見の印象は「普通の男」。外見で特に際立って秀でるものもなし。顔の作りだけで弥生などはその性格も根暗と決めつける。他人を僻んで、他人を冷たくあしらって、他人と上手く馴染めない、故に女の人にもモテない男に違いない、自分でも彼氏にしたいとは絶対に思えない。また、高度な魔法を幾つも展開できる能力者にも見えない。ただ、投げた質問に逐一狼狽するところ、何かを隠している。
「飯塚さ~ん、私たちはあなたの味方です~。悪いようにはしませんよ~ あなたが本当に魔法使いなら世紀の大スクープです~ ヒーローですよ~」
一つ手法を変えて、ぶりっ子甚だしく極力可愛く愛想よくして警戒を解してみると、
「み、味方、だって?」
と、反応は悪くない。手応え感じてもう一度、
「味方ですよ~」
飯塚も「味方」を復唱して己の胸に響かせ、ぼんやりする。よほど「味方」の一言が効いている。揺れ動く飯塚の心中の模様は弥生に限らず滋ですら読み取れる。大方自分たちに都合のよい方向へ向かっている。弥生は滋の脇腹を肘で小突いて、あんたも言いなさいよと無言で訴える。滋も見事に察して、
「私たちは味方ですよ」
おっとりとした声で、幾分照れも混ぜながら優しく言ってやる。すると、それまで胸臆に隠れていた魂が飛び出たか、突然目を血走らんばかりに見開いて、滋の両肩を掴んで女の如きその顔を凝視する。
「味方、味方、味方、味方、味方…」
こう呪文のように小声で連呼する。様態怪しいが、ここが決め時と弥生も調子に乗って、
「そう、味方!」
これが外廊下によく響く。飯塚は滋の肩を掴む手を震わせながら、感涙を耐えるように顎を上げて空を見上げる。滋も弥生も振り返ってこの男が見つめる先を追ってみるが、ただ夜空に散在する星屑ばかりが見える。おそらくそれらを見ている訳でもない。何を見るでもないが、異様なものが昂ぶっていることだけはわかる。それも今にも爆発せん勢いであるなら、その姿に滋は、一ヶ月前に大熊に襲われ掛かって能力を覚醒させた自分を思い出す。隣の弥生も、離れて見ていた桐生も同様なことを思い浮かべる。つまりは、何かいよいよヤバい。肩を掴んでいた飯塚の手が次には滋の手を握る。
「付き合ってください!」
「…」
「…」
「……え?」
ホモセクシャルな失言をした飯塚本人も、
「え?」
次にはドグシャンと音を立てて、桐生が階段に蹴躓いて派手に転ぶ。他の三人は揃ってそちらを振り返る。うつ伏せる桐生は薄気味悪く含み笑いを始める。そうしてすぐに仰向けになって腹を抱えながらゲラゲラと笑いだす。敵かもしれない相手を前に、これ不謹慎。
「い、いや違うんだ、間違えたんだ! 私は君に興味はない、男に興味があるような、そんな人間じゃないんだ!」
飯塚も慌てて首を振って弁解するも、滋の手を離していなけりゃ桐生の抱腹は止まらない。間違いとはいえ男から告白された滋は瞳孔開いて身を硬直させている。何もいえない、どうにも動けない。隣の弥生は皆より遅れてようやく驚いた顔をして、「ひょえ~」と奇声を発して、自分のことのように頬を赤めて恥ずかしそうにする。滋は握られた手に視線を落とす。飯塚もようやくそれと気付いて、すぐに手を離す。その拍子にはらりとバンダナが床に落ちる。
「あら、何だろ、これ?」
弥生が拾い上げて斜めに首を傾げて目前に晒す。
「それは、それも違うんだ!」
慌てて取り返そうとするところをサッと避けて、
「何か怪しい」
そう妖しく笑う。
「それは、それがなかったら… 返して!」
泣きっ面で再び飛びかかろうとするが、それすらも避けられてしまう。魔法力は未知数でも、運動能力はさほどないと、この時弥生は見切ったとか。と、それまで笑い転げていた桐生もむっくり起き上がる。瞬時に飯塚に詰め寄ると、
「じゃ、詳しく話を聞こうじゃないか」
ニヤニヤしながら飯塚の首に腕を回して彼を引きずりながら彼の部屋へと入ってしまう。続いて弥生も入る。振り返ると滋は変わらず呆けている。同姓に告白された複雑な心情に同情しながら、弥生は他人の珍体験にニンマリとする。
「ほら、あんたも来なさい」




