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三十路サラリーマンと訪問者たち(前編)

 インターホンが鳴って、彼らがやってきたのは夜の八時前だったと思います。用心しながらドアを開けてみると、まずはフレームのない眼鏡をかけた中学生くらいの女の子のような男の子がそこにいました。男の子とわかったのは彼の声の低さからでした。私が勤める会社のあの新入社員の娘と比べても劣らないくらい綺麗な顔立ちをしていましたから、これで声が女の子のそれであったなら、私も騙されて好きになっていたかもしれません。


 その子は人と喋るのが苦手なのか、私を前にもじもじとして、名乗ることも出来なければ、何の用事で来たのかその問いにも答えることができずにいました。ここが会社で彼が後輩だったなら私はこの相手を無能と決め付けて、まったく相手にもしないでしょう。この場でそれをすぐに出来なかったのは、やはり相手が綺麗な顔をしていて、ふとあの新入社員のあの娘と重なって見えたからです。あの娘も真面目ゆえによく仕事の話をすると、余裕のない、困ったような顔をします。あの娘の笑っている顔が好きですが、困惑しながら解決のために必死になっているときの顔も好きなのです。


 そういう顔を見ると、助けてやりたいという気持ちと共に、もっと困らせてやりたいと思うことがあります。私はこの女の子のような男の子の困った姿を眺めて愛しく思いながら、その一方で冷静に彼が何者なのか考えていました。警察や国の諜報部員がついにあの酔っ払い撃退事件について調べ出したのかと最初に思いました。ですが、こんな中学生のような子が国や法の回し者だとはとても思えず、その考えはすぐに引っ込めました。


 次に考えたのはマスコミ関係者です。でもジーンズにフードのついた白色のパーカー姿の彼に、社会人らしさが見受けられず、その考えもしっくりときませんでした。仮にマスコミ関係にしても、学生のアルバイトが下調べをしていると、そういった感が否めませんでした。むしろ彼は大学生なり高校生なり中学生で、超常現象研究部のような部活動の一環で私の噂を調べに来たといったほうが、合点がいきます。


 そのように私の中で彼に対する考えがまとまりかけても、彼はまだ、何をしに来たのか、話そうとして話すことが出来ずにいました。


 そろそろ限界かと思って用がないなら失礼しますと、勿体無い気持ちも抱きながらドアをそっと閉めにかかりました。すると間髪いれずに階下から栗色の髪をした女の子が勢いよく駆け上がってきて、私がドアを閉め切る前に、ノブを掴んでそれを阻止しました。息を荒げながら「ちょっとお話があるのですが」と言ったかと思えば、閉めかかったドアをまた強引に開いてきました。


 隣の男の子と同じような背丈のその女の子は、やはりフレームのない眼鏡をかけていて、白のシャツに赤いチェック柄のスカートをはいていました。パッと見た限り、高校生に思えました。顔立ちは、これもまた整っていて、且つ小顔で、肌も綺麗でした。ああ若さとは羨ましいと思いました。


 恋をすると色んなものが美しく見えるといいますが、そんな錯覚を差し引いたとしても彼女の顔も十分に可愛く見えます。やや目尻が吊り上っているので、その性格は会社の後輩のあの娘とは正反対にあるのではないかと、直感でそう思いました。実際、喋り方もハキハキとしています。スポーツをしているのかスカートの下からのぞく足は細く締まっています。こういうタイプの娘も嫌いではありません。


 そんな娘が私に話がある。何事かとすぐに考えました。もしや、こんな可愛らしい娘が私に恋の告白をしにきてくれた、そんな淡い妄想も抱きたくなりました。ですが、私のようなうだつの上がらない三十路の男に、そんな少女漫画のような展開はまず望めません。この娘も隣の子と同じように学校の部活関係で私を調べに来たのだと思いました。


 とりあえず私は話とは何かと訊ねました。茶髪の彼女はまずさきに自分たちがテレビ局のものだと言いました。私は茶髪の彼女と隣の女の子のような彼を交互に何度も見やり、いや嘘だ、と思わず呟いてしまいました。二人が仲間だということはわかっても、テレビ局関係に勤めているとは到底思えませんでした。理由は女の子のような彼のときと同じで、彼女にしても若すぎて、とても社会人に見えないからです。仮にインタビューをしに来たというのなら、そんな高校生のような格好はまずあり得ません。


 それでも本当ですと訴える彼女たちを見ていると、それとももしかしてタレントなのか? そう思ったりもしました。テレビ業界のことなんてまったくわかりませんが、テレビ局がタレントを直接現場に派遣して情報を集めているのかもしれないと考えたのです。それなら納得がいきそうでした。



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