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黒い衣服の男との交渉(後編)

 では自惚れで自信家で自称天才のドランクではどう出るかと、そちらをチラリと見ると、彼は溢れた怒りをいつの間にか腹に納めて、座して胸の前で腕組みをしながら静かに黒服を睨んでいる。これはこれで何を考えているのか底が知れず、不気味に映ってバーモンの背中に悪寒が走る。


「ふん、たいしたものじゃない。中身はちょっとしたアイテムだ。まだまだ試作のな。貴様も『向こう側』と行き来しているならわかると思うが、魔法関連のものでね、『こちら側』に流れると問題になるのだよ」


 唐突と割って入るドランクの弁は、嘘でもなければ、筋も通っている。バーモンも慌てて便乗して、


「じ、実はそうなんです。それも試作品な上に失敗作なんです。もちろん魔力がなければ動きません。ただそんな代物でも、それがUWにでも見つかったら『あちら側』を混乱せしめたなんて嫌疑をかけられて、お縄を頂戴する可能性だってあるのです。UW、わかりますよね? そんなもので、できれば一日でも早く回収したいのです」


 薬のことは上手く隠して、もっともらしく喋れたが、話の節々にドランクの作品を貶して信憑性を買おうとすると、当の製作者の癇癪をまず先に買ってしまったようで、


「失敗作だ? 何を言う、私が作ったものに失敗はない。問題なのは君の薬のほうだろう」


 と、血迷ったか薬の存在を口にしてしまう。


「薬って、何の薬ですか?」


「魔力増強剤だ」


 居丈高に言い切ってしまうドランクの心理は計算皆無のただの馬鹿正直に違いなく、そうでなければ下らぬ意地を張って無策無謀に自信家の自信が全て上手く打開できると盲信させたか、それでも違えば、自身の作品を馬鹿にした制裁、復讐にバーモンを苦しめたいが為に発せられたものである。ドランクという男の恐ろしさを色々な意味でバーモンは改めて思い知る。目が眩み、頭痛までして、ついでに吐き気まで催す。そこにトドメの一撃として、


「それって、条約違反ですよね」


 もう駄目だ、もう終わった、人生諦念についには泣きそうになる。すると、今度は急に開き直って、


「ええ、ええ、そうです。その通りです。私は魔力増強剤を作りました! 研究に成功しました! 錠剤にして飲むだけで魔力が膨らむようにしました! そうです、そうです、私が悪いんです。私の才能が、この明晰な頭脳がいけないのです…」


 涙を零しながら自ら白状してしまう。


「とまあ、こういう事情だ。それで、貴様のほうはいくら要求するつもりだ。おっと、馬鹿な値段をつけるんじゃないぞ。彼が白状してしまった以上、断ったり、我々が払えないような値段をつけたりしたら、貴様を生かしておくわけにはいかなくなる」


「一つ聞きたいことがある。回収した後、あなた方はそれをどうするつもりですか? 処分するんですか?」


「ふん、そんなもの、副作用を調べなおして量産体制に…」


「いえ、処分します! 研究資料も全部、焼き払ってしまいます!」


 いつにない腕力でドランクを小突いて椅子から転げ落として、涙も鼻水も拭いもせず、バーモンは意思固く約束をする。


「わかりました。手伝いますよ。値段は、前金も相当に頂いているようなので、タダ以外ならそちらの言い値でいいですよ。ただし現金でお願いします」


 まるで天の救い。聞き違いかと戸惑いもある中、バーモンは慌てて自分の財布の札を数える。彼らの国の通貨で百万以上、加えてこちらの世界のアメリカドル紙幣も束である。ただ相場がわからない。情報料、謝礼、彼の分の旅費も払ってやるのが筋か義理か人情か、考え独り言にして、あたふたと決められずにいる。すると、財布ごとドランクに取り上げられて、


「これごと持っていけ!」


 卓上に叩きつけられてしまう。


「毎度ありがとうございます」


 バーモンは呆けて言葉も出ない。


「それで、手伝ってくれるのはいいが、ケースがどの辺りに落ちているのかわかっているんだろうな」


「あの『穴』のあった所から探しますよ。場所は日本です。日本、知ってます?」


「もちろんだ。実際に行ったことはないが、資料でよく知っている。日本語だって喋れるな」


「それはまた凄い」


「ふん、語学は私の得意とするところでね、『あちら側』も『こちらも側』も合わせて四十ヶ国語は喋れる」


「それもまた」


「ふん、見直すがいい。これが私の天才と呼ばれる所以の一つだ。よし、気分も乗ってきた、ことが決まれば即行動だ」


 そう言って席を後にする。黒服と赤髪で話が進む一方で、いつの間にか白髪はげんなり蚊帳の外。バーモンは結局ドランクに引きずられて店を出る。


 勘定を済ます黒服に店長と思しき恰幅のよい中年の男が英語で話しかける。


「君たちは何語で話していたんだい?」


「それは秘密です」



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