表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/53

黒い衣服の男との交渉(前編)

 港に近いカフェにて黒い衣服の男と席を設けて話を聞き出す段になっても、ドランクは顔を顰めて黙りながら不機嫌を露わにする。これに気を揉むでも使うでもなく、隣に座るバーモンは随分と冷静に言葉を選んで遜って黒服と話をする。それがまた気に食わない。黒服の方も懇ろに話す。この男が少しでも傲慢な態度をとれば、この憤怒を爆発させてやるつもりである。生来の自信家で舌に長けたドランクだけに交渉事は本来彼の仕事。が、油断といえ一撃で失神させられた(実際にはこの男ではなく熊に殴られた)相手を前にしては、雪辱果たすことが先に立って話にならない。この会談こそが無意味と強情を張るくらいだが、それも意気地なしと珍しくバーモンに宥められてこうして席に座っている。


「あなたは以前にあったとき、あれは確実に『穴』から出てきた後ですよね。そして今では『こちら側』に来ている。どういう方なんですか?」


 黒服はしばし黙して考える。


「あなた方は阿国からやってきたんですよね? 黒猫に案内されて」


 と逆に質問で返す。


「案内? 案内かどうかはわかりませんが… 『穴』の場所を教えてもらいました。あの黒猫とはお知り合いなんですか?」


「ええ、まあ、仕事仲間です。つまり自分もそういう人です」


「探偵の方、ですか?」


「そういったものです」


 おそらく嘘は言っていないが、隠していることも多い。バーモンの直感では、この黒服も自分たち同様、裏舞台で生きている人間に間違いない。ただ裏から表へ躍進しようとしている自分たちと違って、特にドランクと比べて、物腰静かで野心を感じ得ない。


「我々がここに来ると、そのお仲間さんから聞かされていたというわけですか? でもよくわかりましたね」


「それはまあ、発信機を取り付けたみたいですから、それを頼りにどこに流れ着くか読んだだけです」


「え?」


 と言われて、二人は共に目を丸くして顔を見合わし、共に自分の体の隅々に手を当て、まさぐってみる。なかなかそれらしきものも見つからない。ドランクが財布を調べ始めると、旅費としてたんまり入れておいた紙幣が一枚もない。代わりにメモが一枚。


 ―ご契約ありがとうございます。僭越ながらオプションとして人を派遣しました。別途料金はかかりますが、向こうについてお困りの際はその者にご相談ください。 探偵事務所『黒猫』―


「何だ、これは!」


 立ち上がるドランクの激昂を前にして、しかし黒服は淡々と、


「あ、多分、その紙がそうです」


 子細は省くが、この紙も所謂魔法が施されてある。口惜しさに気を荒げてドランクはすぐに細切れに破ってしまう。バーモンの財布に被害はない。メモもなし。この差は普段の行いの差と思われる。それよりも、この黒服が自分たちを助けてくれることになるなら勿怪の幸い、これ本望。あの「穴」がどこに通じていたのか聞き出せれば、ケース回収も近づくはず。今にも暴力を繰り出そうとするドランクを抑え込みながら、


「それで、私たちを助けてくれるのですか?」


「ええ、まあ。そのように言われていますので。ただ、仕事の内容と値段によりますけど」


「生意気を言うんじゃない! こんだけ持っていったんだ、ここからはタダで協力しろ!」


「いえ! この人の言うことはまともに聞かないでください! 仕事は、仕事は一ヶ月前にあなたが出てきた『穴』に吸い込まれて『こちら側』に流れてきているはずの、あのケースの回収です! なんだったらあの『穴』を抜けた先の場所を教えてくれるだけでも構わないのです!」


 ドランクは狂乱気味に、バーモンは必死に訴える。二人の要望は食い違うが、黒服は変わらず沈着冷静に、


「よほど大切なものが入っていたってことですか。売ればいくらになるんだろ…」


「売る? いえいえ、あんなものは売れません! 売りものじゃないのです!」


 声にも熱が入ると、しかし却って狼狽の躰。黒服も目を細める。


「よかったら、教えてくれませんか? その中身。故人の思い出の品でも入っているんですか? それとも、故人自身が入っているとか、そういうことですか?」


「まさかまさか、そんなことではありませんよ」


「では、何か犯罪に関わるものですか? 犯罪に関わるものでしたらやはり値段は上がります」


 こう言われるとバーモンの意気も下火となって考え悩む。この男が不法な仕事にも慣れているなら、ケースの中身を話してもよいが、慣れ過ぎた輩は実は国家の公安と繋がっているとも限らない。勇み足で話した後に値段で折り合いつかずに交渉決裂となると、この男の抹殺をも考えなくてはならない。自分の力量でそれを成し遂げる自信もない。ドランクの力量を勘定しても、きっと不可能である。戦闘や仕事ぶりを目にする前よりこう思うのは、この黒い衣服の男より異様に強い圧力のようなものを感じるからだ。黒猫に返り討ちに合った例を思い返して、尽く同じ結果に終わるように思えてならない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ