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アイテムを試した三十路サラリーマンの感想(後編)

 ですが、うらやましく思えません。その上司も部下の親切もあって大分落ち着いてきましたが、不機嫌なことに変わりはありませんでした。こんなとき目をつけられるのが私だったりします。または私のような一見して気の弱そうな、面と向かって反論することもないような部下がストレス発散のいい標的にされます。


 ちなみにこのときは、私の頭の包帯のせいもあってか、狙われたのは私ではありませんでした。代わりにパート社員の女の人が掴まっていました。書類を書き直してくれないか、コピーし直してくれないか、コーヒーを入れ直してくれないか、等々。パート社員のその人からしてみれば上司のヘマした尻拭いをどうして自分がしなければならないのか不満に思っていることでしょう。


 こうやってますます上司は嫌われていくのです。そしてまた天罰と名をつけられた不幸が人の恨みによって与えられるのです。現に私は、次はどんな手口で上司を困らせてやろうかと考えました。


 それも毎日少しずつ日課のようにいたぶってやると腹に決めた私は、帰宅途中に明くる日の「罰」の作戦を考えるようになりました。魔力の影響か、頭の回転が少し速くなったような気もします。


 上司の椅子を、上司を乗せたまま動かしてやった日もありました。上司の使っているパソコンの電源を使っている途中で抜いてやった日もありました。上司の書類を風に飛ばされたように見せかけてシュレッダーに放り込んでやった日もありました。上司が外を歩いているときに新聞紙を舞わせて踏ませ、転ばせたこともありました。


 無論、それらは魔法、特にシールを使って行いました。毎日起きる不可解な現象、不可解な自身のミスに、上司も次第と疲れた顔をするようになりました。相変わらず不機嫌ですが、何をするにも警戒して、風が吹くだけで怯えるようになっています。おかげでせいせいしました。


 半月くらいそんなことを続けているうちに、魔法、特にシールに関しては幾分慣れてきました。家に帰ってからは毎日スティックの練習をしていました。休みの日の前の夜中には箒に跨って飛ぶ練習もしていました。慎重に、冷静に、もの静かに、周りの同僚後輩やご近所さんに魔法の存在を知られないように細心の注意をはらって行いました。


 会社の中では上司の彼らしくない失敗、失態に悪霊にでも憑かれたという噂も立ちましたが、私がそれに関わっていると疑われることはいまのところありません。上司を恨む人間などそれだけ多いということだと思います。そのような噂の裏で会社の人たちもざまあないと思っているのかもしれません。ここで自分が犯人であると名乗り出れば案外英雄になれるかもしれません… いえ、それはないですね。


 当初、会社主催のパーティや飲み会であの新入社員の前で手品と称して魔法の力を見せてやろうと考えていましたが、こんな状況になったからにはそれも難しくなりました。上司をいたぶっていたのは私なのだと知られて、彼女に軽蔑されては何の意味もありません。


 それにしても、私がこれほど前向きに物事に取り組んでいるというのも、生を受けて今日に至る三十年間の月日の中でそうありません。これも魔力のおかげなのでしょう。愛のため、正義のため、自分が特別な人間になれたという事実が、私自身を強気にさせるのだと思います。今の私なら、街中で不良に絡まれてもやりすごし、やっつけられるような、そんな自信すらあります。


 実際この間も、会社のみんなで飲みに行ったとき、あの新入社員の彼女が、酔っ払った誰ともしれぬ中年の男に絡まれそうになりましたが、私が魔法で追い払ってやりました。もちろん、魔法を使ったようには見せていません。あたかも体術で打ちのめしたかのように撃退しました。彼女は助けてあげた私に向かって微笑んでくれました。それがまた可愛いったらありゃしませんでした。私のことを少しは見直してくれたと思います。いや、もしかしたら惚れてくれたかもしれません。


 そのときの喜びと感動といったらありません。過去最高の瞬間でした。上機嫌で一人帰路に着いたのですが、その途中、ひと気のないところで、撃退してやったその酔っ払いが逆恨みから待ち伏せをしていました。どうやら私のような人間にやられたのが相当口惜しく、納得いかなかったようです。過去の武勇伝を一人で語り出したと思うと、相当飲んでいたのか千鳥足になりながらも突然殴りかかってきました。最初の一撃を避けた私ですが、二発目を顔に受けてしまいました。まあ、痛くはありませんでした。


 ただ、さすがに頭にきた私は、周りに誰もいないことをいいことに、今度は隠すことなく魔法を使って返り討ちにしてやりました。


 こういうシチュエーションにこそ新入社員のあの娘がいてくれたらと残念に思いました。



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