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アイテムを試した三十路サラリーマンの感想(前編)

 錠剤についても大分わかってきました。扱うアイテムにもよりますが、一粒飲めば解説書によるところの魔力というものが七時間ほど継続して保持できるようです。バンダナを巻いていると自分の第六感が開拓されて、それが広がっているような感覚になります。アイテムを何一つ使わなければ、それが七時間は続くのです。箒に跨ると一時間で切れてしまいます。


 シールについては、正確に計っていないのであくまで予想ですが六時間は連続で維持できるようです。ただし、一度に何枚ものシールや重いものを動かそうとすると魔力の消耗も激しいようです。また、ことシールに関しては魔力のスタミナよりも私自身の脳の疲弊のほうがひどくて、それが理由で一時間も継続して使えません。一時間続けて十分くらい休んでまた動かす、その繰り返しです。まだまだ重いものももてません。コントロールもイマイチです。


 スティックに関しては全然使い切れていません。指揮棒のように操るにしても生来のリズム感のなさのため、バンダナだけで操る以上に精細を欠きます。火や水をスティックの先に固定させたり放出したりする芸当に関してもほとんど出来ません。固定しようとしても五秒も持たずに落っこちてしまいます。部屋の中で火を固定しようとしたときは、それはもう火事になるかと思いました。


 放出の距離にしても一メートルも飛びません。箒に関しては見事に飛んでくれますが、自分の意思というより箒自身の意思で好き勝手空中を暴れまわっているといった感じです。飛べ、止まれ、曲がれ、この三つの命令はできますが、動きの一つ一つが大雑把です。じゃじゃ馬なんて言葉がよく似合います。


 私に才能がないのか、それとも単に練習不足なのか、教えてくれる先生や師匠がいないのでわかりません。解説書にも使用方法のみで練習方法などは書かれてありません。


 どれでもいい、一つでもいいから早く上手く使いこなせるようになりたい、上手くなって新入社員のあの子の前で披露してみせて、驚かれて尊敬されたい、一人の男として興味を持ってもらいたい。


 それらの気持ちが強くなって、そのうち私はアイテムを少しずつ会社にも持ち込んで、暇を見つけては練習するようになりました。もちろん周りには内緒です。魔法の存在が知られては大問題になります。毎日錠剤とバンダナだけは欠かしません。


 ですが仕事中にバンダナを巻いているわけにもいきません。上司が注意しないわけがありません。同僚や後輩が変なファッションだと指摘したり笑ったりすることだってありえます。


 そこで頭の怪我を装ってバンダナを巻いた上に包帯を巻いて通勤することになりました。最初はいろんな人に怪我を心配されました。注目を浴びることに悪い気はしませんが、そっとして欲しいものです。自分に注目を集めさせない魔法がないか、もしくは手持ちの魔法でどうにか注意を外せないかとそんなことまで考えました。


 試しにシールを使い、ポケットの中にあったボールペンを操って離れたところに座っている同僚の、熱いコーヒーの入ったカップをひっくり返してやりました。もっとさりげなくこぼしてやりたかったのですが、コントロールが未熟なために派手に一回転させてしまいました。それでも誰にも、その同僚自身ですら仕事に夢中で直撃の瞬間を目にしていなかったようなので助かりました。ボールペンはすぐに操り隠しました。案の定、私に話しかけていた人たちの注目も熱さに取り乱すその同僚へと移っていきました。その同僚には悪いですが、気分もスカッとしました。


 調子に乗って上司のコーヒーも同じ要領でひっくり返してやりました。膝の上、書類の上へとコーヒーがこぼれ、慌てふためく上司の顔を見て、これもまたスカッとしました。日頃の行いが悪いせいです。日頃から苦言ばかりで人の才を伸ばそうともしなかった罰です。罰とは天から与えられるものではありません。周りの恨みがその人を不幸へと突き落とすのだと思います。


 こんなとき誰が上司を助けるかで上司の人気や部下たちの上司に対する心情を読み取れます。大概は連続してコーヒーがひっくり返ったことに驚くだけで動こうともしません。上司だということで思わず笑ってしまうものもいます。素直な人たちです。他「大丈夫ですか?」と声をかけるものもいます。タオルを取りに行くものもいます。彼らはあの上司の何が好きだというのでしょうか。人間性でしょうか、仕事ぶりでしょうか、それとも査定に影響させたいだけなのでしょうか。まるでわかりません。本当に善意を働かせて行っているというのであれば可愛そうな人たちに思えます。


 それとも「情」があるからではなくて、彼ら彼女らを突き動かすものはただの「義務」なのかもしれません。上司を助けてやらなければならない、目上の人を助けてやらなければいけない、困った人を助けてやらなければいけない、会社や学校、それまでの人生の中ですり込まれた反射行動、プログラムの類なのかもしれません。私などは彼らなどからしたら失敗作なのかもしれません。



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