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情報はタダじゃない(前編)

 島国こと「阿国あこく」にて夜を待つドランクとバーモン。その間、黒猫の探偵事務所にてこの国の情勢や女皇帝の力量なども詳しく聞く。この国の歴史として長く皇帝が世襲されていることは世界でも有名であるが、女帝は珍しい。現在の女皇帝は「美しき月 守麗シュレイ」と呼ばれている。称号の類で姓名はない。国民の中には勝手に愛称で呼ぶものもいる。


 この国は、先々代より続いた経済の低迷ならびに先代の側近が起こしたクーデターによって数年前まで未曾有の大混乱、大不況に陥っていたのだが、武力行使と行政改革によって国政を一新し治安と経済を回復、安定させたのが現女皇帝である。一部の金持ちのみの支持を受けて完全自由主義と皇帝排除後の完全民主主義を掲げて実行されたクーデターも彼女の活躍で鎮圧している。一人で二千の私兵を蹴散らしたとの噂もある。クーデターの首謀者は処刑。その後、立法権と司法権を国民の手に委ね、女皇帝自身は行政のみを担当することになった。


「この国の皇帝が世界でも類を見ない魔力の持ち主だという話はよく聞くが、それが果たしてどれほどのものだというのか。二千の兵なんて話も正直疑わしいね。ただの誇張だろう。国の危機を救った人間を神格化したがるのは俗人の悪い癖だ。それを国自らが吹聴しているのであれば、その国家は三流だ」


「まあ、その屋敷に忍び込もうとしている手前、女皇帝が噂程の魔力の持ち主でないことを願いますが、見くびるのもどうかと。あまり意地になって無茶をしないでくださいね」


「私がいつ見くびったと? 私という人間と比べれば、一国家の元首といえ、その魔力の才能で圧倒できるものなどいまい。君こそ私の実力を見くびっているのではないかね?」


「その自信が怖いのですが、まあいいです。それで、その穴が屋敷のどこにあるのか、そういった情報はないのですか?」


 問われた黒猫は黄色の眼を光らせニヤリとして、


「私自身いったことがないのではっきりとした情報ではないですが、ないことはないですよ。その代わり、この情報だけはお高いですよ。それでいいなら教えますけど」


「おいくらですか? あまり高いと私どもの旅資金にも影響がありますので、できればお安くしてくれると助かるのですが」


「こういった値段です」


 提示された額はこの国の通貨で四百万という値。二人がこの旅に用意した費用の大半で、さすがに目を丸くする。温厚なバーモンですら、法外だ、ぼったくりだとすぐに突っぱね、もっと妥当な値を要求する。ところがドランクは、


「ふん、そんな値段、まあ、いいじゃないか、払ってやればよいだろう」


 と、考えもなく散財まがいなことを勢いだけで口にする。


「まいどあり」


 制止する暇もなく商談成立。バーモンは馬鹿な決断をするドランクの袖口を力任せに掴み、泣き面を向ける。


「まあ待て」


「何が、待て、ですか。あんな値段、あれは、あれはまずいですぞ!」


 共に黒猫から少し離れると、囁き声で、


「いや、問題はない。相手はたかだか猫だ。それに私たちはこの国の人間じゃない。情報だけ頂いてさっさと『穴』へと潜ってしまえば追いかけてくることもないだろう。それとも何か? 君はこんな情報獲得のチャンスを前にして金がないから諦めますというのかい? 金がないなら金がないなりに頭を使って何ごとも行動すべきであろう」


「ですけど… まさか情報を聞くや、走って逃げるつもりですか?」


「そのつもりだ。もしくは黒猫を捕まえて箱にでも閉じ込めてしまえば済むだろう」


「そ、それじゃ、強盗と同じですぞ!」


「増強剤なんて非合法なものを作っていた我々だ。それも今更だろう」


 そこを突かれると、何を駁したところで全て我が身に返ってくる。バーモンに止める術はない。



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