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孤独

月の宮、元の次元へと十六夜に抱かれて戻った維月は、そこで待ち構えていた維心に迎えられて面食らった…本当に、そっくり同じ。離れていたような気がしないんだけど…。

「おお維月!」維心は、維月を十六夜から抱き取ってほお擦りした。「どれほどに我が寂しかったか…主の気も感じ取ることが出来ぬ別次元に、二週間も行ってしもうて我は…我は何度、ここへ飛び込んで迎えに参るかと…。」

維月は、苦笑した。これは、確かにこちらの次元の維心だ。あちらの次元の維心の方が、維月に関することに落ち着いた感じだからだ。転生してから、特に維心はこうして維月にべったりなのだ。何もかも知っているという気安さからも、こうなるのだろうと維月は思っていた。

「まあ維心様…お待たせしてしまいました。」維月は、維心の髪を撫でた。「ですが、あちらの維心様も命の危機を脱することが出来まして、安堵しておりましたところでしたの。これからも、このように二週間ほど留守にするかもしれませぬが、あちらの維心様と共なので、ご心配は要りませぬから。」

維心は、少し拗ねたような顔をした。

「確かにあれも我であるには違いないゆえ、妬く気持ちもないがの、主はもっとこの我に仕えるべきぞ。このように放って置いて…。我とて、寂しいのに。」

維月は、子供のあやすように、維心を抱きしめた。

「はい、維心様。もう、お側に居りまするから。」

それを見た十六夜が、あーあ、と背伸びをした。

「なんでぇ、いつまで経っても維月の前では子供みてぇによ。最強で非情な龍王が聞いて呆れらあ。」

維心は、維月を腕に抱きしめたまま言った。

「他のことでは我慢しておるのだ!我は、維月のことでは我慢せずとも良いと思うておる。世を平定する責務を負っておるのだから、それぐらいの我がままは良いではないか。」

十六夜は、ひらひらと手を振った。

「はいはい、わかったよ。だが、まだこっちに里帰りの真っ最中だぞ、維心。二週間しか経ってねぇんだからな。あとひと月はこっちに置く約束だ。お前はこっちじゃ招かれざる客なんだから、おとなしくしてな。」と、維月に手を差し出した。「さ、維月。部屋へ帰ろう。親父に話もあるし、維心の相手してる暇はねぇぞ。」

維月は、ためらいがちに維心を見た。

「でも…維心様が…。」

維心は、フッと息を付くと、維月から手を離した。

「もう、大丈夫ぞ。次元を越えてしもうたら、いくら我でも簡単に気を探れぬからの。それで落ち着かなかっただけで。こっちへ戻って参ったら、どこに居っても主の気を感じることが出来る。行って参るが良い。しかし、時があれば、我の所へも来い。」

維月は、ホッとしたように頷いた。

「はい。では、行って参りまするわ。」

維月は、十六夜と一緒に部屋の方へと歩いて行ったのだった。




それから、碧黎に頼んであちらへ行く際には、時間を選ぶことになった。いちいち碧黎に設定してもらわなければならないが、それでもそれで、あちらの維心にはあまり待たせずに済む。

「そうよの、一週間から二週間か。」碧黎が言った。「いくら我でも、そんなに細かく時間を決めて主を飛ばすことなど出来ぬのだ。それぐらいの誤差は、見越して行くが良いぞ。」

碧黎は、そう言って維月があちらへ向かう際には、前の訪問となるべく近くなるようにと時間を選んで次元を渡してくれた。なので、あちらから見ると、維月はたった数日居なかっただけ、という感覚になるようだ。維月は、それは喜んで維心が毎回迎えてくれるので、頭が混乱しないようにだけ気を配っていた。何しろ、こちらとあちら、両方で暮らしているような感覚になっているのだ…どっちで起こったことであったか、忘れないようにと記憶を分けて器用に立ち回っていた。


こちらの維心も、落ち着いている。嘉韻も、月の宮の筆頭軍神になっていたが、もう初老に差し掛かっていた。嘉韻も、友人の明人も慎吾も、一般の軍神であるので、600歳も近くなるとそれなりの見ためになって来ていた…そう、月の宮の立ち上げ当時、ここで見習いとして訓練を始めた面々も、もう壮年期を迎えて来ていたのだ。

変わらぬのは王、蒼と、月の十六夜、そして維月に両親の碧黎、陽蘭。維心も老いを止め、将維は確かに止まってはおるものの、しかしなだらかに老いているのかもしれない、と思う時もあった…気が、少しずつ減って来ているからだ。しかし、まだ神でいう30代である300歳代なので、若いので問題はなかった。

将維の友で、蒼の娘の瑞姫の夫である炎託は、老いが止まっていた。炎嘉の前世の息子であったので、恐らく王としての器であったのだろう。


蒼は、その何百年も変わらない姿で喪の着物に身を包み、眼下に並ぶ家々を見ながら、隣りに立つ重臣筆頭の翔馬に言った。

「…こうして、一人ずつオレの側から居なくなって行くのだな。」蒼は呟くような口調だった。「まあ、あれは側に居た訳ではなかったが。しかし、時々に文は交わしておったのだ。何しろ、我の一番最初の妃であったから。」

翔馬も、今や人の40代後半の容姿になっていたが、ずっと蒼を支えて来たので、その気持ちは分かった。

「最後の時には、西へ行かれたのでしょう?」

蒼は、翔馬を見て驚いたような顔をした。

「…気付いていたのか。」

翔馬は、頷いた。

「離縁なさった手前、表立っては参れなかったのだと、お出かけになられる姿を見て思っておりました。明人だけを供に、ここを出られたので。」

蒼は、ふっと息を付いた。

「会って来た。維心様も、前世の妹が一人で逝くのは不憫だと言って、母と一緒に来てらして…道を開いて、そこを通って逝くのを、見送って来た。」蒼は、涙が浮かんで来るのを、空を見上げることで隠した。「700歳だったのだ。姿は老いても、瑤姫は美しいままだったよ。」

翔馬は、黙って頷いた。蒼は、空を見上げた。今頃は、黄泉の穏やかな中で、幸せにしていることだろう。決して自分には許されない、黄泉。自分は、こうして皆を見送って生きて行かなければならないのだ。不死という、重い荷を背負ってしまっているのだから…。


蒼は、瑶姫の死で、始まったように思った。これから、近しい身内がどんどんと死んで逝く。友も、娘でさえも皆老いて先に逝ってしまう。自分は、こうして不死の月の身なのだから、皆に残されて孤独になって行くのだ。

蒼は、ただただ怖かった。こうして、やっと慣れて来た神の世に、安心していたのもつかの間、今度は孤独を憂いて怯えていなければならない。皆を失うのは、嫌だ…。


月は、やはり人であった昔と変わらずそこにあった。

蒼は、自分にのしかかって来るこの孤独から、何とか逃れたいと考えをめぐらせていたのだった。

思っていたより長くなりました。次は、アーシャンテンダに手を付けようと思いながら、この昼メロみたいなだらだら感の方が、書きやすいので、まよつきをつい、書いてしまいます。RPGは、かなりの根性が必要で、疲れるのでありました。なので、次回作は7月1日から、「続・迷ったら月に聞け5~道」 http://ncode.syosetu.com/n1165ce/を始めます。また、アーシャンテンダを始める時はご連絡致します。ここまで、読んでくださってありがとうございます。

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